医学界新聞

 

第5回慶應医学賞決定

A.J.Levine氏,中村祐輔氏に


   

 第5回慶應医学賞が,A.J.Levine氏(米国ロックフェラー大学学長・癌生物学研究室教授)と中村祐輔氏(東大医科学研究所ヒトゲノム解析センター長・ゲノムシークエンス解析分野教授)に決定した。

腫瘍抑制遺伝子,細胞内シグナル伝達分子としてのp53の解析

 Levine氏の受賞研究テーマは,「腫瘍抑制遺伝子および主要な細胞内シグナル伝達分子としてのp53の解析」。
 Levine氏は,ウイルス形質転換細胞および腫瘍細胞中のp53蛋白を発見し,そのc-DNAと遺伝子をクローニングして,この遺伝子が癌化を抑制する腫瘍抑制遺伝子であることを明らかにした。ヒトの癌の55%にはp53遺伝子に突然変異が認められ,別の20-30%の癌ではp53の機能が不活性化されている。
 p53蛋白は細胞内シグナル伝達を統合しており,DNA損傷,低酸素状態などの細胞ストレスに対して応答する。ストレスに対するp53応答の結果,細胞は細胞周期停止またはプログラム細胞死に至る。
 このようなp53の研究は,さまざまな細胞機能の分子機構および癌化機構の解明に大変重要な役割を果たすものと考えられる。

ゲノム解析に基づいたヒト諸疾患の病因遺伝子の解明

 一方,中村氏の受賞研究テーマは,「ゲノム解析に基づいたヒト諸疾患の病因遺伝子の解明」。
 中村氏が単離したVNTRなどの多型性DNAマーカーは,ゲノム解析的手法に基づく遺伝性疾患関連遺伝子の解明や癌抑制遺伝子研究の推移に多大な寄与をした。また,中村氏のグループはAPC遺伝子(大腸癌抑制遺伝子)の発見や,代表的癌抑制遺伝子であるp53の標的遺伝子群(DNA修復に関与するp53R2や血管新生に関与するBAIIなど)の単離など癌関連遺伝子の研究で世界的な貢献を果たしてきた。
 さらに,膠様滴状角膜変性症の原因遺伝子の発見やリン酸の代謝酵素が後縦靭帯骨化症などの異所性骨化の発症に関係することなどを証明し,癌以外の疾患遺伝子研究分野での貢献も大きい。
 なお,同賞の授賞式は11月29日,東京・新宿の慶大医学部北里講堂において行なわれる。