医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


斬新な構成と懇切な解説によるCAPDの実践書

CAPD実践マニュアル 石崎 允 監修,今井裕一 編集

《書 評》岡美智代(山形大医学部助教授・看護学)

患者との関係を重視

 本書を開いた時に,まず興味を引かれたのは構成の斬新さである。冒頭の項は「透析導入を説明する際の医療者の態度」であり,次の項は「医療者と患者との関係」である。既存のマニュアルの多くは,まずその臓器の構造や疾患の病態生理から始まっているのではないだろうか。しかし,本書は医療者と患者の信頼関係を構築することから項が始まっている。CAPD(持続携帯式腹膜透析)療法は,患者自身によるセルフケアがきわめて重要であるため,患者との信頼関係を築くことがその良否の鍵となるが,本書は信頼関係構築の重要性を形態として表わしたものと言えよう。また,医師国家試験にもOSCE(客観的臨床能力評価試験)が取り入れられようとしているこれからの医療において,医療面接の重要性を,内容構成を通して他書に先んじて形態化したものとも言える。
 本書は,1998年から始まった東北PDカンファレンスに集う先生方が主な著者となっているが,医療に対する先駆的価値を表現した本書の構成から,著者の方々の真摯な医療哲学を感じ取ることができる。

目の前の患者に展開すべき援助が予知できる

 また,構成のもう1つの特徴として,導入準備から始まり,カテーテル挿入,外来での指導管理,さらに硬化性被嚢性腹膜炎まで,順を追って章立てされていることがあげられる。そのため,現在目の前にいる患者に展開すべき援助が予知可能となる構成と言える。
 ほとんどの章に,臨床でよくある質問についてのQ&Aがあり,「ミニクローズとは何ですか?」,「SEPを疑うこつを教えてください」など,基本的な質問と,具体例によるわかりやすい解答が記載されている。そのため,本書は医療者のみならず患者にも勧められるテキストである。さらに,専門用語を解説した「サイドメモ」があり,初心者でも理解しやすいように解説されている。しかもその内容は,基礎的知識のみにとどまらず,DOQIガイドラインに基づく良好な透析基準値や,総括物質移動計数MTACなど,最新情報についても豊富に盛り込まれている。
 CAPDをこれから学ぼうとする患者や医療スタッフの入門書として最適であり,かつ,CAPD医療の第一線で活躍するエキスパートのニーズにも十分耐えうる内容を併せ持つ本書は,CAPD医療関係諸氏の必携の1冊である。
B5・頁128 定価(本体2,400円+税) 医学書院
(「看護学雑誌」11月号より転載)


臨床の必要に応える実践科学の発展に寄与する貴重な存在

臨床看護研究の進歩 VOL.11

《書 評》内布敦子(兵庫県立看護大助教授)

臨床における看護への貢献

 「臨床看護研究の進歩」のバックナンバーをみると,発刊以来一貫して臨床における看護への貢献にこだわってきたことがわかる。発刊から10年の歴史を経て,11巻目である本書もまた発刊の精神を引き継ぎ,臨床の必要に応える(これはとりもなおさず患者の必要に応えることである)姿勢を持つ研究を取りあげ,実践科学としての発展に大きく寄与するという役割を果たそうと努力している。
 本書に掲載されている論文は実践科学としての看護学を強く意識したもので,特にNursing Reportにあるものは現場の看護婦が共感したり,自分たちの実践を確認するのに役に立つと思う。前半部分に掲載のREVIEW(VOL.11では4篇)は,時間のない実践家にとってはありがたい読み物である。もし興味ある分野のREVIEWであれば,方向性を持ちながら効率よく文献を検索するのを助けてくれる。
 文献レビューは学会発表にはなじまないので学位論文の原本にあたらない限り全文を読む機会は少なく,このように頁をさいて掲載されたものは貴重である。すばらしい文献レビューに出くわすと何か得した気分になるものである。また,短評集の掲載は非常によいアイディアで,他の雑誌にも取り入れてほしい。海外の雑誌では読者からの評価や質問を頁をさいて掲載しており,読者とのやりとりの中からいろいろなアイディアが生まれている。

臨床領域と研究領域の往来

 看護学は実践科学であり,数学や物理学などの純粋科学とはその性質を異にする。実践科学はその前提に実践があるので,基礎研究といえども研究の先には看護実践の質の向上が期待されている。しかしながら臨床家の責務の優先順位は,看護実践にあり研究にあるわけではない。臨床家に対して研究を強いることは妥当ではないにしても,彼らに大きな役割を担ってもらえる実践研究は,今後さらに層を厚く持つ必要がある。
 実践科学の発展にとって,実践研究の基盤なしには実践科学としての看護学という学問の知識体系を構築することはできないであろう。まずは現場で起きている現象を,何らかの形で残していくことが重要である。厳密なリサーチの手順を問うのはそれから先でもよい。有用な看護の方法の開発はもとより変化する医療状況の中で患者の状況を明らかにすることは,患者のアドボカシーとして社会的に看護の役割を果たすことにもなる。
 10年を経て次の世代に入り,本書の役割はますます重要になってきたものと思われる。臨床領域と研究領域の行き来が自由であることは,その学問領域の質を決めるものであるが,VOL.11はそれを意識した発展性のある構成になっていると思う。臨床家にも研究者にも読者層を持つ貴重な存在として今後も発展していっていただきたいと願うものである。
B5・頁200 定価(本体3,600円+税) 医学書院


看護管理の基本とすべき枠組みを示す

婦長のためのマネジメント 新道幸恵,上泉和子 編集

《書 評》中里志保子(八戸市立市民病院看護局)

 看護管理は,資質とやる気だけでできるような仕事ではない。深く人間に関わり,科学的,社会学的にすべての技法を用いながら人に迫る仕事である。
 多くの看護管理者は,婦長になりたての頃は,自分のごく身近にいる人をモデルに管理を学んでいく。しかし,その時代の要請に応えていくためには,それだけでは間に合わないと思う時が早晩やってくる。
 実際の現場を変革し,それなりの結果を出していくことが求められる今,生きた知識がほしいと思う。よい指針がほしいと思う。そのためには,適切な指導者を求めなくてはならない。適切な指導者を選び学んでいくことが,望む結果を得ることにつながるのである。
 本書『婦長のためのマネジメント』には,看護管理者が常に管理の基本として大切にしたい枠組みがしっかりと示されている。また,今の看護管理者に必要な知識が,経験で裏打ちされた筆者の考えをもとにして,わかりやすくまとめられている。

具体的で示唆に富むアドバイス

 「患者満足の得られる質の高いケアの提供によって,初めて収入につながるという,経済効率を考慮した看護管理が求められる時代になった」と,本書の総論部には書かれている。そこから,患者満足の得られるようなケア提供のための各論部に続いているわけで,サービスマネジメント,現任教育,病棟管理と,押さえておくべきことが網羅され,そして,最後には業務改善と研究で締めくくられる。この最後の部分は,今後の問題解決を進める上で,とても参考になるように,実体験に基づいた具体的で示唆に富んだアドバイスが散りばめられている。
 数年来,さまざまな変革が続く保健医療福祉分野において,それに応えられる自分をつくるという看護管理者の責任確立のために,本書は大いに手助けとなることだろう。
B5・頁176 定価(本体2,600円+税) 医学書院