医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


臨床現場のニードに応える看護診断ガイド

看護診断のための
アセスメントポケットガイド

旭川医科大学医学部附属病院看護部 編集

《書 評》松木光子(日赤北海道看護大学長)

 1970年代後半頃であろうか,北米で急速に広がった看護診断ムーブメントは,今や全世界を巻き込んで,看護の知識体系の再構築と看護情報の電子化へ向かって突き進んでいる。
 長らく「看護診断」ということばの使用をためらっていたわが国の看護婦たちも,近年は当然のこととして,この言葉と北米看護診断協会(North American Nursing Diagnosis Association :NANDA)の開発した診断カテゴリーを臨床で使用するようになった。現在では,看護診断の成書はもとより,看護診断に基づく看護学書が数多く出版されている。しかしながら,その多くはアメリカからの輸入ものである。

長年の臨床経験のニードから編集

 このたび,旭川医科大学附属病院の看護部の皆さんが,臨床現場で切実に求められている看護診断ガイドを自らの長年のニードに基づき編集・出版された。同看護部は,すでに1994年からNANDAの診断分類を使った看護システムを稼動させてきたという。このシステムを有効に機能させるために関係者が努力された結果が,このポケットガイドであろうと推察している。

NANDAの人間の反応パターンに基づく構成

 記述は全体が前出のNANDAの人間の反応パターンに基づいて構成されている。各パターンごとに定義と理論的背景,看護歴聴取,観察,資料の項目の記述である。そのため,近年の看護診断関連の本や論文から筆者らのものを含め,著者らが重要と思ったものがふんだんに引用されて構成されている。各パターンに関する中範囲理論やスケール,重要概念に関する資料が集められているので,種々の文献を探さなくても重要な資料がまとめられていると言えよう。
 したがって,本書は書名の通り,看護過程において人間の反応パターンを情報収集の枠組みとしたアセスメントのガイドであろう。つまり,人間の反応パターンに基づく情報収集とその根拠が中心である。

『NANDA看護診断定義と分類1999-2000』とともに

 そのため,アセスメントの結論である診断カテゴリーについては,巻末にNANDAの一覧表が出ているだけであるので,このガイドとともに2年ごとに更新されている『NANDA看護診断定義と分類』を使用することになろう。しかしながら,旭川医大ではすでにNANDAの診断分類を使った看護システムを稼動させておられるので,筆者の推測ではこの部分がデータベースとしてあるのかもしれない。いずれにしても臨床看護を支えるきわめてハンディなポケットガイドと言えよう。
新書判・頁148 定価(本体1,500円+税) 医学書院


「かるた」句にこめられた「人々の“小さな物語”」

老人ケアかるた ケアのなかの言葉
村上重紀 著

《書 評》大田仁史(茨城県立医療大学附属病院長)

 著者の村上さんはその筋では名の通った人である。また,知る人ぞ知る,その筋では名の通った広島県御調町。その御調町の保健福祉総合施設付属リハビリテーションセンターの次長さんにいつの間にか出世された。長く勤めておられるのでそうなったのかもしれない。
 村上さんは現場の人なので,次長さんのような管理的な仕事をしてもらうのはもったいない,と私は思っている。といって,村上さんが管理的な仕事が不向きだと言っているのではない。私が村上さんの管理的能力について知らないだけだ。穏やかな人柄で,宴会の管理などはめっぽううまいから,ひょっとすると現場より向いている可能性だってある。「人は見かけによる」こともある。

自分の専門性を脱ぎ捨て老人や障害者の主体と寄り添う

 村上さんは大分前から自分のことを「POSTマン」と言っていた。在宅でのリハ活動やケアの仕事をしていると,OT(作業療法士)だけではなく,PT(理学療法士),ST(言語聴覚士)などの仕事と区別がつかないことをしなければならない,という意味で,PT・OT・STをもじって「POSTマン」なのである。生活の現場ではなんでもありだから,自分の専門性を主張し過ぎてはならない,むしろ専門性を脱ぎ捨てて,老人や障害者の主体と寄り添う努力がないと仕事はできない,という意味である。実は村上さんはOTである。
 この本に収録されている「老人ケアかるた」は,ケアの現場での体験や見聞を現代風「かるた」句として表現した老人ケア版「いろはかるた」であり,老人ケアの専門誌『生きいきジャーナル』(休刊,医学書院発行)に連載されていたもので,もちろん私は連載中から全部目を通し,いつも楽しみにしていた。
 本書の「まえがき」で書かれているが,「……人々の“小さな物語”を大切にしたい……」という通り,ユニークな「かるた」句のそれぞれには,それをいとおしむような小さな物語が挿入されている。そして,その逆説的な「かるた」句の表現のなかに,村上さんの仕事に対する姿勢や思いが汲み取れるのである。
 「人は人によりて人になる」と言われる。この小さな物語に選ばれた老人たちはもちろんほんの一部だが,このような老人たちから,私たちは陰に陽に己の仕事と老いの道しるべを得ているのである。「かるた」句はそれをキーワードとして示してくれている。
 「お年寄りには『かるた』がよく似合う」と村上さんは言う。言われるとそんな気がする。自分もどこかのケア・サービスを受けるようになった時,この「ケアかるた」で過ごしているかもしれない。その時,例えば「医のなかの蛙」というかるた札を拾って,どんな顔をしているだろうか。あるいは「矢より鉄砲より怖い」という「世間」の視線を浴びていないだろうか。とにかく,枕もとにおいて日々の戒めにしよう。

印象深い言葉が一杯

 本書Ⅰ部の「老人ケアかるた」(本編)より,「かるた」句のいくつかを紹介する。 いわく,「医のなかの蛙」,「老婆は一日にしてならず」,「憎まれっ子夜にはばかる」,「痴呆は寝て待て」,「笑う門には人来る」,「粗診忘るるべからず」,「なんにもなくてもOTは育つ」,「のど元過ぎれば“私”を忘れる」,「ケア・セラ・セラ」,「出すぎた杭は打たれない」,「尻は床ずれ,余は情けない」,「猛婆三遷」……などなど。これらのほか,「お手つき編」にも楽しい「かるた」句がある。
 また本書Ⅱ部「寸言至言」は,お年寄りや家族との関わりの中で,胸に残り忘れられない「老いの言葉」を手がかりにケアのありようを考えるケアエッセイであるが,ここにも印象深い言葉が一杯である。
 付録として,本書のⅠ部「老人ケアかるた」の「かるた札」(読み札と絵札,計122枚)が,巻末にまとめて厚紙に印刷されている。「あとがき」に,作業療法の1つとして,この「かるた札」を切り抜いて,お年寄りと一緒に「かるた遊び」をすることをお勧めしたい,とあるのも楽しい趣向で,遊び心あふれる本である。ご一読をお勧めしたい。
B5変・頁200 定価(本体2,300円+税) 医学書院


教員の力量が問われる新時代に必携の書

<看護教育講座2>
看護教育のカリキュラム

小山眞理子 編集

《書 評》松野かほる(山梨県立看護大学長)

変革期の看護教育

 看護婦学校養成所指定規則の改正によって平成9年から授業科目や時間など細かな規定は緩和され,自由裁量幅が拡げられました。これまでの規則では各教育機関がそれぞれの創意工夫を生かす余地は非常に少なかったのですが,この改正が行なわれたことによって,自らの教育理念・目的に沿ってカリキュラムを編成し,看護教育を実施することが可能となったのです。いま,時代の要請を受け学校教育全体にわたって,改革の波が押し寄せています。これからはカリキュラムをどう編成し,どう実践していくのか,看護教育に携わる者の力量が問われる時代になったと言えます。

看護教育に携わる者の必携書

 本書はまず,1章でカリキュラムを「どのような能力を持つ人を育てたいかという目標に向かって,学習者の身体的・精神的成長に合わせて,教育内容および学習経験を積み重ねていくための教育計画,教育実践,評価の一連の過程」として捉え,看護基礎教育のカリキュラムのめざすもの,カリキュラムの作成にあたって考慮すべきことなどを概説し,3章でカリキュラムの作成過程について,基本的なプロセスを具体的に詳述しています。
 そして4章で大学課程,短大課程,看護婦・保健婦・助産婦課程など課程別に各課程の特性,教育の理念とカリキュラムの作成,カリキュラムの進度,実習,評価など,「個性豊かな教育」の観点から,著者らの深い経験を通して実際例を示しながら述べられています。また2章のカリキュラムの変遷では,戦前のカリキュラム,そして昭和24年の保助看法・看護婦教育指定規則制定から現在まで,改正を繰り返し,受け継がれてきた看護教育の変遷が述べられており,カリキュラムとは時代のさまざまな要請の中で編成されていくものと実感させられました。
 看護教育に真摯に取り組んでおられる著者らによってまとめられた本書は,看護教育を志す者の必携書として,またすでに,看護教育に携わっている方々には改めて自分自身が関わっている教育課程を1から見つめ直すための書として,ぜひ,お読みいただきたいと思います。
A5・頁238 定価(本体2,800円+税) 医学書院