医学界新聞

 

連載(9)  「微笑みの国」タイ……(2)

いまアジアでは-看護職がみたアジア

近藤麻理(高知医大・看護学科)

E-mail:mariks@med.kochi-ms.ac.jp    


2404号よりつづく

タイの「四季」と「風土」

果物の季節

 「どの季節に,タイに行くと一番よいのでしょうか?」
 よく尋ねられる質問です。タイは,大まかに言うと常夏の国ですが,その時期と地理的な違いによって雨量や気温にかなり差があります。例えば,タイで最も暑い時期は3月から4月にかけてですが,この時期学校は「サマー」(タイではこう呼ばれている)のため長期休暇となり,5月から新学期が始まります。火焔樹(写真)が真紅に燃え上がり,じりじりと照りつける太陽はアスファルトを容赦なく溶かすのです。
 この暑い時期のフルーツは最高に美味しく,屋台の市場にも色とりどりの果物が山盛りに飾られます。果物の女王と言われるマンゴスチンをはじめ,マンゴー,パパイヤ,ランブータンなどが日本では考えられないくらい安価で食べられます。
 次にやってくるのが雨季です。5月下旬頃から,バケツをひっくり返したようなスコールが昼間の一定時間にザバーンと落ちてきます。こんな時は,屋根のあるところで1時間ほど時間を潰せばいつのまにか晴れ上がります。
 地面から立ち上る蒸気と眩しい陽射しに手をかざす季節になると,果物の王様ドリアンが登場し始めます。ドリアンの味を私流に解説させていただけるならば,玉ねぎをみじん切りにして炒めたところに,大量の砂糖と生クリームを加えて裏ごしして固めたような味,と申し上げます。ドリアンは高価な果物であり,タイでは「嫁さんを質に入れても食べたいほど美味しい」と言われています。そして,9月頃まで雨の降る時間が長くなり,やがて気温も徐々に下がっていきます。
 タイで,「冬」と呼ばれている季節が10月頃から訪れます。確かに,朝夕の冷え込みは日本の秋のようでもあります。日中の気温も1年を通して最も低くなりますが,常夏の国であることには変わりありません。ただし山岳地帯の北部では冷え込みが激しく,「ボランティアが北部の学校に防寒衣を届けました」というニュースを何度か耳にしました。
 さすがにこの頃には,バンコク市内でも朝の通勤時に厚手のセーターを着込んでいたり,冬用のロングコートを着ていたりという人々を目撃します。しかしその横には,半袖姿の外国人旅行者が立っているのですから不思議な光景です。この時期は,雨もほとんど降らず暑すぎないため旅には最適なのですが,ビーチでは寒く感じるかもしれません。

変わりつつあるバンコクの市内

 タイを旅した方ならおわかりでしょうが,これまでタイのオフィスやホテルの室内は,どこもかしこも冷房を最強にしており,まるで冷蔵庫の中にいるようでした。そのため,「風邪をひきやすいので,タイ旅行には必ず上着を持っていくように」と,タイに来る人たちに勧めていたほどでした。
 しかし,先日バンコクに行くと,冷房もほどほどに効いているという程度で,なにやら以前とは様子が違っていました。おまけにホテルの部屋には,タオルやシーツの大量洗濯による河川への影響,シャワー使用時の水節約要請について書かれた紙が置かれています。
 タイの人口は,およそ6100万人。そのうち首都バンコクには,700万人以上が生活しています。タイの主な産業は,農業であり,そこに従事する人は全体の62%で,工場労働者は13%程度です。バンコクを離れると豊かな水田地帯が広がり,1年に何度でも米が実るのです。しかし,土地の貧しいタイの東北部では収穫が少なく,多くの人たちがバンコクに出稼ぎに出ていきます。
 このようなバンコクへの人口集中は,10年ほど前から深刻な都市問題を引き起こすようになりました。バンコク市内で,交通整理の警察官が一斉にマスクをかけ始めたのは11年前のことですが,アジアの経済成長が急激に進み,街に車やバイクが増加し続け慢性的な交通渋滞と排気ガスのためです。
 人口の都市集中化が招いた事態と言えますが,街には多くのスラムが形成され,中でも最大規模のクロントイスラムの環境改善は,国としての大きな課題でした。地区環境改善は,タイと外国のNGOが協力しながら生活向上のための支援が今も続けられており,その努力には頭が下がります。

「マイペンライ」=気にしないでいこう

 タイで生活していると「マイペンライ」と言う言葉をよく聞きます。あらゆる場面で使われ,日本語に翻訳するとその都度違ってくるためどう説明してよいのか困るのですが,「ま,気にしない」とか「構いませんよ」と言う場面が多いようです。
 あまり細かなことにはこだわらずに「マイペンライ」。人の失敗を大らかな気持ちで許してあげて「マイペンライ」。ついでに自分の失敗も「マイペンライ」。そう考えるとタイではすべてのことが,この一言で許し許されることになるではありませんか。
 このように日本人の文化や習慣と比べると,まるでいい加減で,規律などないように映ってしまうのですが,実際は女性たちのパワーや責任感が社会をしっかりと支えています。初めてタイに行った当時25歳だった私は,このしたたかで,たくましいタイ女性たちとともに楽しいタイ生活を送りました。もちろん,大好きなタイ料理や果物に舌鼓を打ちながら,ワイワイガヤガヤと……。
 さてこの続きは,また次回にいたしましょう。