医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


透析医療に携わるすべての医療従事者に

CAPD実践マニュアル
石崎 允 監修/今井裕一 編集

《書 評》鈴木洋通(埼玉医大教授・腎臓内科学)

 現在本邦では透析療法を受けている患者さんが20万人に達しようとしている。透析療法は大別して2つあり,1つは血液透析,1つはCAPD(持続携帯式腹膜透析)に分かれる。本邦では血液透析を受けている患者さんが95%近くを占め,CAPDは9000人前後にとどまっている。血液透析が多くCAPDが非常に少ない理由の1つは,CAPDは患者さんにとっても,また医療者側にとってもなんとなく億劫である,あるいは煩わしいというようなことがあげられている。

進化するCAPD

 諸外国ではCAPDと血液透析が半分くらいずつのところが多い。血液透析に関して言えば,本邦のダイアザイラーを中心とする機械,器具が発達したために,安全性が高まっているということがあげられている。一方,CAPDの場合にはここ10年間くらいは大きな進歩がなかったが,最近になって急速にいろいろな面での改善がなされてきている。その1つは新しいCAPD液で,従来は非常に酸性度が強かった液が最近になって中性になった。また,接続システムの改良,腹膜機能検査システムの開発,さらに出口部に対する感染等の治療の発達などもある。これらは毎年,日本透析医学会などでのシンポジウムあるいはセミナー等によって情報が伝えられてはいるが,CAPDに関してきちっと誰にでもわかる本は非常に少なかった。

患者さんへの対応に迷った時

 今回,石崎允先生が監修され,今井裕一先生が編集された『CAPD実践マニュアル』は,まさにそれらの要望に応えるものである。おそらく本書はCAPDをほとんど知らない人が最初に読む本としても,またCAPDを行なっている看護婦や医師にとっても,時にちょっとしたことで迷った場合に参考にするのにはうってつけの本である。さらに「サイドメモ」と「Q&A」が適所に配置されており,そこには本当に知りたい,よく患者さんがする質問が書かれており,それに対して適切な回答がなされている。また「サイドメモ」ではやや程度の高い,しかしながらちょっと見過ごしてしまっているようなことがよく載せられている。それらを全部読むとほとんどCAPDに関しては一気に専門家になった気がする。また,文献も適切なところであげられておりこれも役立つ。さらにトータルにこの本はいろいろなことを述べており,医療廃棄物のことまで言及しているということが,本当にこの本を『CAPD実践マニュアル』という題名どおりの本に仕上げていると思われる。
 実践的なマニュアルで大切なポイントである見やすい,わかりやすいということが本書では基本になっており,その点でもこの本は成功している。従来CAPDを毛嫌いしていたような人たち,あるいはなんとなくCAPDは理解しにくいと思っていた人たち,あるいは現在CAPDに携わっている人たちもぜひ本書を一読され,かつ診療室に備えておかれることをお薦めする。
B5・頁128 定価(本体2,400円+税) 医学書院


EBMの概念を取り入れたAPAのうつ治療ガイドライン

米国精神医学会治療ガイドライン
大うつ病性障害

日本精神神経学会 監訳/樋口輝彦 責任訳者

《書 評》山脇成人(広島大教授・精神医学)

 最近ではEvidenced-based Medicine(EBM)の重要性が認識されているが,精神疾患は高次脳機能の障害であり,その発症には個体要因のみならず多彩な環境要因が関与するため,客観的な診断や治療法が確立されにくい点がある。しかしながら,近年の脳科学や精神薬理学の進歩に伴い,精神疾患の病態解明や新薬の開発が進展しつつあり,Randamized Clinical Trial(RCT)などの信頼性の高い臨床研究に基づいた治療法の確立が試みられている。
 米国精神医学会(APA)は精神疾患の診断についてはDSM診断基準を提唱しているが,治療法についてもガイドラインをまとめた。本書は日本精神神経学会による大うつ病性障害のガイドラインの翻訳である。訳者が冒頭に述べているように,本書はアメリカの治療ガイドラインを日本の精神医療に導入しようとしたものではなく,日本における治療ガイドライン策定の参考として利用してもらうために翻訳されたものである。

公平でバランスのとれた記述

 本書の特徴は大うつ病性障害の治療に関して,これまでに報告された研究論文を「I.根拠が明確なもの」,「II.確信度はやや劣るが信頼に足るもの」,「III.個々の患者の状態によっては勧められるもの」,という3段階に分類し,信頼性の高いEBMの概念を取り入れてある点である。また,大うつ病の治療では,薬物療法に力点が置かれがちであるが,精神療法的介入の重要性とその限界についても率直にまとめてある点が,公平でバランスが保たれている。
 薬物療法に関しても,「十分な反応性を確認するためには4-6週間必要であり,不十分な治療で難治性とすべきでない」とか,維持療法としては「症状が寛解しても16―20週間は投与する必要がある」など,根拠に基づいた数字を示して説明してある。わが国では選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)はやっと使用可能になってきたが,欧米あるいはアジア各国に比しても選択肢が限られており,日本人患者におけるRCTは非常に少ないのが現状である。また,注目すべきは電気けいれん療法(ECT)に関して,「抗うつ薬の多剤併用療法よりは安全である」,「ECTが絶対的禁忌となる患者はない」,「精神病症状を伴ううつ病には第1選択」と言い切っていることである。わが国でもECTの効果は再認識されつつあるが,残念なことに欧米で使用されている矩形波を用いた刺激装置は医療器具として承認されておらず,古典的な装置で行なっているのが現状で,ECTに関する信頼性の高い臨床研究は行なわれていない。

日本におけるガイドライン作成の参考に

 わが国でも,EBMを導入した薬物選択のアルゴリズム作成などが試みられており,日本精神神経学会としても,日本の精神科治療ガイドラインの作成に着手している。アメリカ版の長所あるいは問題点を参考にして,よりよいガイドラインが早く完成することを願っている。
B5・頁100 定価(本体2,000円+税) 医学書院


オールラウンドの超音波入門書として最適のテキスト

超音波検査マニュアル 第2版
Matthias Hofer 著/片山 仁 監訳

《書 評》伊藤勝陽(広島大教授・放射線医学)

 超音波検査は画像診断の中でも確固たる位置を確保しているにも関わらず,今ひとつ信頼性に欠ける。それは検者の技量に左右されることが主因と言っても過言ではない。日本とドイツとでは臨床実習体制が異なるようであるが,本書はドイツの医学生向けに超音波実習を1週間程度でマスターできるよう編纂されている。そのため本邦における入門書と異なり,第1章(本書では「第1日目」)は腹部大血管やリンパ節の観察から始まり,2章から4章までは比較的馴染みのある上腹部臓器が対象となっている。大静脈に比べて大動脈は意外と追跡しにくい臓器であるので,第1日目がうまくいかなかったといって嘆く必要はない。初心者は4日目まではどこから始めても構わないと思う。5日目(第5章)からは消化管,産科領域,小児,頸部・甲状腺が割り当てられ,心,乳腺を除くほとんどすべての領域が網羅されており,臨床実習でここまでするのかと驚いた。

超音波検査を学ぶ人に

 ところで,初心者が病変拾い上げの手段として検査を行なう場合,種々の計測値を知っておくと異常を指摘しやすい。本書は表紙と裏表紙に各々折り返しがあり,腹部超音波の基本走査法,最低限診断に必要とされる標準値などが掲載され,さらに付録の別表も付いている。また本文中の症例にはシェーマが描かれており,そこには臓器の名前は伏せられ数字が記入されている。見よう見まねでも検査はできるようになるが,あらかじめ検査を任せられた時を想定して,基本的走査で何が見えるのかをまず考え,さらに得られた画像が何であるか自学できるようにとの意図であろう。プローベは気になる表現であるが,それを気にしなければオールラウンドの超音波入門書として最適のテキストである。
 ポータブル超音波装置が市販され,聴診器がわりに超音波検査を行なうことが現実となり,また初期研修も制度化されようとしている。このような時期に,これから超音波を始めようとする研修医,すでにある程度研修した放射線科医,また超音波専門医,超音波検査士をめざす人たちにも十分役に立つふさわしいテキストと思う。できるだけ多く人がこのテキストを利用し,さらに上級の専門医をめざされることを期待すると同時に,学生教育にあたる教官もぜひ一読されるようお勧めする。
A4変・頁120 定価(本体4,600円+税) MEDSi


システム導入の必須のステップをわかりやすく解説

成功する病院情報システム導入マニュアル
良質の医療を提供するために
 小山博史 著

《書 評》大江和彦(東大教授・法医学・医療情報経済学/中央医療情報部長)

システム導入に悩める人に

 多くの病院で,病院情報システムの導入が進められている。コンピュータが好きだったというだけで,ある日突然,病院情報システムの導入担当者に命じられ,何をどのように検討すればよいのか試行錯誤を迫られている人が多い。そのような人たちは,数社の大手コンピュータ企業の担当者に話を聞いて,あとは提案をさせればよいと,はじめのうちは思っている。しかしそのうち,どうも様子が違うことに気づく。企業の担当者の言うことと院内のいろいろな人の希望することが噛み合わないのである。何がどうなっているのかわからないが,見積もり額は目が飛び出るほど高い。院内の要望もバラバラでワガママでまとめようがない。ストレスばかりの毎日が待ち受けている。そんな途方に暮れる人々のためのすばらしい本が出版された。
 著者の小山先生は,国立がんセンター中央病院新棟の病院情報システムをその企画立案段階から担当され,平成10年に先端的な病院情報システムを稼働させた経験をもとに,この本を執筆された。本書は13章からなるが,技術書によく見られるような情報システム技術の一般的なことにはほとんど触れていない。病院情報システムの導入仕様を策定し,どのように院内の各部門の要望をとりまとめ,専門の情報部門のない病院がいかに大きな情報システムを安定して稼働させるか,といった事柄に大部分の頁を割いているのが大きな特徴である。これは,病院情報システムを導入する担当者にとって最も重要なのは,技術知識ではなくて,いかに組織のニーズをまとめバランスのとれた仕様を策定し,それをシステムに反映させるかというシステム組織学とでもいう領域である,という著者の信念の現れであろう。そして,病院情報システムの導入とはまさにその通りなのである。

成功の秘訣は組織管理能力と自主的な組織化力

 本書には,一度でも病院情報システム導入に関わった者であれば膝を打つような名言がちりばめられている。「出席していない会議で決まったことに異議をとなえない」「院内の意見がコロコロかわる日和見症候群に注意」等々。システム設計のポイントから院内の意見のまとめ方,リハーサルの仕方から障害対策まで,病院情報システム導入に関して必須のステップを幅広く,かつわかりやすく解説した本書は,これから病院情報システムを新規に導入しようとする担当者はもちろんのこと,医療情報を専門に扱う部門の人にもぜひ読んでもらいたい。なぜなら,医療情報を専門に扱う部門の人でさえ,本書に書いてあるような重要な事項を知らず,先端技術の応用にだけ走りすぎてアンバランスなシステム化を企てる人が多いからである。
 そして病院情報システム導入を進めている病院では,病院長や事務長などの病院管理者に必ず本書を読んでいただき,本書をテキストにして院内の各部門を集めてレクチャーを開くことを薦める。そうすれば,病院情報システム導入の成功は,単に担当企業や院内担当者だけの能力にかかっているのではなく,病院管理者自身の組織管理能力と病院全体の自主的な組織化力そのものにかかっているのだということを,皆に理解してもらえるであろう。
B5・頁136 定価(本体3,000円+税) 医学書院


日常診療に最適なポケットサイズの実用書

泌尿器科ベッドサイドマニュアル 第2版
秋元成太,西村泰司 編集

《書 評》加藤哲郎(秋田大教授・泌尿器科学)

 最近わが国でも,泌尿器科関係の教科書あるいは参考書が相次いで出版されている。泌尿器科の隆盛を物語る喜ばしいことではあるが,ではどれを選ぶかとなると判断に迷ってしまう。いずれも泌尿器科学全般にわたって詳述しており,甲乙つけがたいからである。また内容が多岐にわたるので,全国各地の著者による分担執筆形式をとり,そのため全書的な色彩を帯びているのが常である。このような書籍は勢い大部となり,本棚に収めておくことになる。

白衣のポケットに収まるサイズ

 その中にあって,『泌尿器科ベッドサイドマニュアル』は異彩を放つ参考書である。それは本書が,文字通り外来と病棟における日常診療を念頭において編集されているからであろう。このため,白衣のポケットに収まるサイズの中で,必要最小限の事項が記載されている。頁を開くと,細かい文字がビッシリとつまっていると思いきや,わかりやすい図表と写真が随所に配されていて,文字恐怖症を払拭してくれる。そして表紙はビニールカバーで,価格も手ごろであり,惜しげなく携帯できるのが嬉しい。1995年に出版された第1版が好評を博してきた所以であろう。
 医学は加速度的に進歩しており,本書も最新の情報と技術を組み入れて改訂第2版が刊行された。例えば,TNM分類には1997年改訂版,画像診断ではカラードプラ,ED治療にはバイアグラ,腎移植では脳死判定法,腹腔鏡下手術では腎摘術,などを取り入れている。その上で日常診療で遭遇するであろう基本事項のほぼすべてが網羅され,それぞれについて診断法と治療法が簡潔に述べてある。図表写真も十分である。にもかかわらず,ポケットサイズの利便性を失ってないのは驚きでさえある。

実地臨床に即した内容

 本書の最大の特徴は,実はサイズと見やすさだけではなく,その内容が実地に即していることになる。例えばカテーテル挿入困難な場合,嵌頓包茎,腎瘻が抜去されてしまった場合などのトラブル対処法が,あるいは異物除去法が,それぞれ図解入りで的確に解説されている。感染症の項には,MRSA感染防止対策,難治性前立腺炎患者への説明法,また尿路性器結核を見落とさないための注意などがある。腫瘍に関しては,診断治療法に加えて,疼痛対策も具体的に述べてある。さらに各項目で注意すべき点を,one point adviceやpitfallとして別枠で解説助言している。実地医療に精通した者でなければ気がつかないことであり,かゆいところに手が届く配慮がちりばめられている。欲を言えば,インフォームドコンセントが喧伝される昨今の事情から,患者対応と理学的所見の重要性を冒頭に言及してもらいたかった。
 本書は秋元,西村両教授を中心とした日本医科大学泌尿器科関係諸氏の分担執筆によるものである。このため同泌尿器科の長年にわたる診療姿勢が一貫して滲み出ており,それが通常の分担執筆参考書と趣を大いに異なるものとしている。研修医のみならず実地臨床家に広く愛用されてしかるべき実用書であり,編者の労を高く評価したい。
B6変・頁408 定価(本体5,500円+税) 医学書院