医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


最新の小児治療学の参考書

今日の小児治療指針 第12版
矢田純一,柳澤正義,山口規容子,大関武彦 編集

《書 評》白木和夫(鳥取大名誉教授)

最近の小児医療の進歩を網羅

 本書は1970年に創刊されて以来,30年にわたって2-3年ごとに改訂され,今日では小児の治療指針として最も信頼され,よく使われている本である。最近,出版された第12版を第11版と比べて見ると,大幅な改訂が目立つ。編集者にはこれまでの矢田純一,柳澤正義,山口規容子の3氏の他に,新たに浜松医科大学小児科の大関武彦教授が加わって,より強力になった。また編集協力者もこの版から大部分の方が交代されて若返り,17名中13名が新たに加わった専門家という陣容になっている
 第12版は総頁数700頁で,全項目641を600名の各分野の専門家が執筆している。本文頁数は第11版の545頁から約10%増え,602頁となった。
 近年,小児医療の進歩と変容にはめざましいものがあるが,これに対応して本書第12版では各項目立ての大幅な見直しが行なわれ,随所に組換えと新項目の設置が行なわれている。大きな項目では,新たに「生活習慣病の予防と生活」の章が設けられた。「小児保健」の章は削られたが,「予防接種」など必要な項目はそれぞれ適当な章でカバーされている。またこれまで「腎・泌尿器疾患」の章に入っていた男性性器疾患と小児婦人科疾患の一部がまとめられ,「生殖器疾患」の章が新設された。

項目立てを一新し工夫を凝らす

 小項目でも各章で新たな項目が加えられ,項目の組換えが行なわれているが,特に「染色体異常・奇形症候群・遺伝カウンセリング」の章は,奇形症候群の主なものがそれぞれ独立した項目となり,カウンセリングの項が充実された結果,第11版の8頁から16頁へと倍増した。また「循環器疾患」の章では,「心疾患を有する小児の日常生活の管理と指導」が乳幼児,学童・生徒,年長児・成人の別に小項目が立てられ充実した。これは近年の小児医療の進歩に従って,キャリーオーバーが問題となっている現状からも適切な改訂であり,特に成人まで範囲を広げたことは成育医療の立場からも妥当と考えられる。また主な循環器手術術式の適応が,それぞれ小項目として取り上げられたことは,小児内科医にとってきわめて実用的で歓迎されよう。不整脈,心筋症も適切な小項目に分割され,より実際的になった。これらの改訂の結果,「循環器疾患」は旧版の21項目,21頁から大幅に増え,34項目,31頁となった。
 この他にも,ほとんどすべての章において,小項目の見直しと組換え,新たな小項目の追加がなされているが,目次で各章に関連した小項目の掲載頁が矢印で示された結果,旧版の読者も迷うことなく目的の項目にたどり着けるよう配慮してあるのは親切である。
 『今日の小児治療指針 第12版』は以上のごとく,最近の小児医療の急速な進歩を取り込んでいるとともに,項目立てにも工夫が凝らされた結果,旧版に比べてより使いやすくなっている。最新の小児治療学の参考書として強くお勧めしたい。
B5・頁700 定価(本体15,500円+税) 医学書院


がん征圧に関与するさまざまな立場の方々に有用な好著

Tumor Dormancy Therapy
癌治療の新たな戦略
 高橋 豊 著

《書 評》杉村 隆(国立がんセンター名誉総長・東邦大学名誉学長)

Must we kill cancer?

 この高橋博士の本を見た時に,瞬間的に読みたいと思った。表紙にうっすらと「Must we kill cancer?」という字が出ている。本当にわれわれが体内のがん細胞のすべてを殺すことができることに,私は長い間懐疑的であった。
 「Must we kill cancer?」は私の心の中ではいつも「Can we kill all cancer cells?」に連想が飛び,さらに「We can not kill all cancer cells!」になり,「We should not kill cancer patients!」になるのが私の連鎖反応であったから。最近の学問の進歩を学ぶにつれて,私の心は「We can control cancer cells;we can control cancer patients」と次第に変わってきた。

複雑な変化の組み合わせがDormancyに関係する

 この本はタイムリーな本であった。真摯にがんを考えている多くの臨床従事者,がんの基礎研究者,がん征圧にさまざまな立場より関与している方々にとって有用な本である。もちろん,製薬企業や薬事行政に関わる方々にも有用と思う。
 がん細胞も,がんを持つ患者さんも実にさまざまであり,一筋縄ではいかない。わかったつもりになっても本当にはわからない。乳がんの手術後10年以上も経って再発したと思われる例がある。前立腺がんが,いわゆる潜在がんとして存在することは多いし,その潜在がんが突然転移することもあり,そのまま10年も潜在していることもある。交通事故で亡くなったニューヨーク市民の甲状腺には潜在がんが多い。
 がんは遺伝子変化により起こる。変化する遺伝子はシグナル伝達に関係するものが多く,具体的には直接・間接に細胞分裂,分化,増殖,自殺死,転移等に関連しているものである。さらにDNAの塩基配列異常を伴わないけれど,その遺伝子発現の異常が起こるエピジェネティックな変化もある。変化の組み合わせは気が遠くなるほど複雑であり,ある組み合わせがいろいろな角度からDormancyに関係しているのだろう。
 本書は大別して(1)がんの生物学,(2)現在の化学療法,そして(3)Dormancy Therapyに分けられている。記載は具体的である。また,A5判192頁の大きさは持ち運びに便利で,電車の中でも読みやすい。日・英語の索引があるのもありがたい。各章ごとに文献がついていて便利である。

dormantになってしまった考え方を見直すために

 がんに関係している人は自分の考えにこり固まりやすい。がん化の予防に有効なCOX-2阻害剤が,がん治療剤にもなりそうな今日であるから,Dormancyということを皆で深刻に考えるとよい。
 「がんの分化療法」やこの「Dormancy Therapy」は,21世紀に進む科学の1つである。故司馬遼太郎先生に前がん病変のお話をしたら「未発のがん」だと言われた。Dormancy Therapyは,実際には10年くらい前に,この本の著者が提唱した「長期不変(long NC-long no change)がん」とも言うべきである。われわれの頭の中にdormantになってしまっている考え方を見直すために,このDormancy Therapyという本はさまざまな材料を提供している。遺伝子治療を含めて,新しいがん治療には,この側面をいつも考えたほうがよい。
 重ねて,多くの方々に,この好著をおすすめしたい。
A5・頁192 定価(本体3,800円+税) 医学書院


学童期以降の小児精神科の現状をコンパクトにまとめた1冊

小児・思春期の「心の問題」診療ガイド
Dulcan MK,Martini DR 著/松浦雅人 訳

《書 評》市川宏伸(都立梅ヶ丘病院)

臨床的対応を考えるのに最適

 この書は米国の児童青年精神医学の指導的立場にあるDulcan, Martini両氏によって書かれている。特に学童期以降の小児精神科の現状をコンパクトにまとめてあり,全体を概観するのに便利であるとともに,臨床的な対応を考えるのに最適である。操作的診断基準によって解説しているのも時宜にかなっている。
 各章について簡単に触れてみる。
 第2章では,評価の仕方や心理検査を中心に治療計画について書かれている。第3-6章で,小児・思春期の精神科疾患をDSM-IV の I 軸を中心に分類して説明している。3章では,最近社会的に話題になっている破壊的行動障害(注意欠陥/多動性障害,行為障害,反抗挑戦性障害)を取り上げている。著者の専門の分野でもあり,comorbidityや心理的背景を中心に詳細にわたって記述されている。4章では幼児-青年期に診断される障害(分離不安障害,チック障害,排泄障害,選択的緘黙,反応性愛着障害など),5章では小児-青年期に始まる“成人の”障害(摂食障害,物質関連障害,精神分裂病,気分障害,不安障害,睡眠障害,適応障害など),6章では発達障害(精神遅滞〔II 軸〕,広汎性発達障害,特異的発達障害)について解説している。

臨床でのノウハウを具体的に

 第7章では日常臨床で直面する問題へのノウハウについて,具体的に取り上げてある。近年,児童青年精神科を賑わしている問題を中心に,救急事例,家族の変化,若年妊娠,肥満,身体疾患を持つ青少年,精神障害を持つ子どもなどがテーマになっている。危機介入事例の増加と他分野との連携,旧来の家族形態の形骸化と崩壊などは,まさしく臨床場面で直面せざるを得ない問題である。第8章の精神科薬物療法では,SSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)をはじめ最近の薬物も含めて簡潔に記してある。第9章の心理社会的治療では,精神療法を中心に入院治療やデイケアまで取り上げてあるが,家族,学校,地域,福祉,司法などとの連携の重要性が指摘されている。
 訳者の所属する日大の精神神経科では,以前から小児専門外来を設置し,小児精神科の治療を実践している。その点でも,臨床的経験に基づいた適切で読みやすい翻訳がなされており,この分野に興味を持つ読者に一読を勧めたい本である。
A5変・頁280 定価(本体4,400円+税) MEDSi


日本における精神科リハの展開に対する1つの解答

精神障害リハビリテーション
21世紀における課題と展望
 村田信男,川関和俊,伊勢田堯 編集

《書 評》高橋清久(国立精神・神経センター総長)

大きく変動する精神医療・福祉

 現在,日本の精神医療・福祉は大きく変動している。1988年に精神保健法が制定された後,すでに3回も改正が行なわれている。特に1995年の改正では精神保健法が精神保健福祉法に変わり,福祉面での施策が大きく展開されている。また1993年の障害者基本法の制定で精神障害者が他の障害者と同等の対応がなされることになり,ここでも大きな新しい展開が見られた。現在,3障害を統合してケアマネジメントシステムを導入し,2002年から導入されるホームヘルプ事業などサービスメニューを増やして,地域ケアを進めようという計画も検討されている。しかし,社会資源の少ない現状や患者・家族の高齢化,社会的偏見等々,問題は山積している。
 21世紀には精神障害リハビリテーションはいかに展開するであろうか。関係者の多くが期待と不安を持ちながら大きく関心を寄せるところである。そのような問いに対する1つの答えが本書であろう。これまでの日本の精神障害者のリハビリテーションの歴史を振り返り,現状を分析し,今後のあるべき姿を浮き彫りにしている。カバーしている領域も広く,それに相応しい豊富な執筆陣を揃えており,ユーザー自身もその希望するところを記述している。それだけに読みごたえがある。
 本書の構成は第1章「精神障害リハビリテーション発展の理念と展望-実学の視点から」を総論とし,医療の立場からの課題の整理(第2章,第3章),地域ケアとそれに不可欠な救急の問題点(第4章),今後の地域ケアの重要な一翼を担う自治体の課題(第6章),当事者であるユーザーの担うべき課題(第7章),ユーザー自立には欠かせない居住と職業の問題の整理(第8章,第9章),高齢化の課題(第10章)と広く重要課題が述べられている。それに加えて新しい障害概念が今後のリハビリテーションにどのような影響を与えるかという予測(第5章)と,精神障害の予防(第11章)という21世紀最大の課題にも触れられている。

精神科医療を担う若い医師に

 評者は21世紀には必ずやノーマライゼーションに向けて大きな前進があるものと期待しているが,そのためには20世紀の正と負の遺産を整理して,21世紀の課題を明確にする必要がある。そのような意味から,世紀の変わり目のこの時期に本書が出されたことは誠に時宜を得ている。医療,保健,福祉,労働,行政の各分野の方々に一読をお勧めするとともに,特に精神科医療の中心となる若い精神科医師が読まれて関心領域を広げられることを願っている。
A5・頁248 定価(本体4,000円+税) 医学書院


ポケットに忍ばせたいベッドサイドの参考書

泌尿器科ベッドサイドマニュアル
第2版
 秋元成太,西村泰司 編集

《書 評》三木 誠(東医大名誉教授)

実際の臨床に則した具体的記述

 秋元,西村両教授を中心とする日本医科大学泌尿器科学教室のグループによる,『泌尿器科ベッドサイドマニュアル』第2版が出版された。
 まず大項目でみると,第1版の内容に新たに「腹腔鏡下手術」と「腎移植」の項目が加えられている。前者では泌尿器科領域で保険適用になっている術式,臨床的に確立した術式を案内し,また腎移植については,脳死判定基準にはじまり,拒絶反応の診断と対応までそれぞれにつき要領よく説明されている。
 もちろん他項目の内容も,適宜書き改められ内容も一新されている。例えば検査の項では,「ウロダイナミックスタディ」「腫瘍マーカーの読み方」「生検法」「遺伝子診断」などが,また尿路結石の項では,「結石の学会分類」「結石に対する薬物溶解療法」などが加えられている。また検査の「4.骨シンチ・スキャン」の項などは,第1版ではRIを異常取り込みする疾患,鑑別法が簡単に述べられていただけだが,第2版では,骨シンチ・スキャンの適応と意義にはじまり,骨転移病巣の骨シンチグラム上の特徴まで図示され,さらに骨転移の広がりを示すEOD(extent of disease)についても具体的に述べられている。この傾向は「5.超音波検査」の項でさらにはっきりしており,第1版ではほとんど実例が示されていなかったものが,第2版では腎細胞癌,腎血管筋脂肪腫の実例をはじめ,パワードプラエコー像まで示して説明している。
 ところですべての点で内容を濃くしただけではなく,一般の教科書に出ているようなところは極力省いて,実際の臨床に則し具体的記述をし,すぐ利用できる文献をあげて冗長な説明を避けているところもある。例えば「尿路変向術の選択と術前術後管理」の項では,第1版ではそれぞれの方法を図示していたが,第2版では,このような図示はせず,研修医などがより知りたい術前処置,特に食事,抗菌薬,浣腸などをより具体的に説明している。なお細かいところでは,「尿路変更術」を「尿路変向術」に変えるなど,用語も用語集に沿って訂正されている。
 また「3.レノグラム-施行上,読影上の注意点とpitfall」をみると,第2版では核種に99mTc-MAG3が加えられており,レノグラムの解析図も改良されている。ただ残念なことに,ここでは「泌尿器科で用いられるRI検査」という項を無理やり入れたためか,「レノグラムの解析」という表題と実際の表の内容がちぐはぐになっていたり,表中の99mTc-MAG3が99mTc-MG3と誤記されていたりする小さな間違いが多少認められる。

若き泌尿器科医のバイブルに

 全体的に見て泌尿器科医,特に研修中の泌尿器科医が常にポケットに忍ばせ,真にベッドサイドで参考にするには大変便利な書である。泌尿器科の書で版を重ねるものは少ないが,この書は今後さらに版を重ねることが確実であろう。今回は初版刊行以来5年経過しての改訂であるが,今後もぜひ改訂を続け,日本の若き泌尿器科医のバイブルとなることを期待したい。
B6変・頁408 定価(本体5,500円+税) 医学書院


「患者のためのシステム作り」をめざす病院関係者のために

成功する病院情報システム導入マニュアル
良質の医療を提供するために
 小山博史 著

《書 評》河口 豊(広島国際大医療福祉学部教授・医療経営学科)

国立がんセンターの試み

 この本は,国立がんセンター名誉総長(現横浜労災病院長)・阿部薫先生が推薦の序でも述べている通り,国立がんセンター中央病院改築にあたり,新棟の情報化を行なう上で,必要であった組織,体制,プロジェクトの管理,システムの考え方などを手順に従って整理し解説したものである。ナショナルセンターである国立がんセンター中央病院は特定機能病院であり,国内のがん基幹病院とのネットワークの中心であるとともに,世界的にもネットワークを組んでいる。その情報システムを刷新するために,筆者はまず第一に「『患者のためのシステム作り』と思うことで気持ちを整理してきた」と視点を明らかにしている。
 本書の構成は「はじめに」でこの本の目的とともに,なぜシステム化が必要かを述べ,「組織化と役割」「システム化とプロジェクトの概要」「病院の業務と施設の機能モデル」「病院業務の再編成」「調達の方法」「仕様書の作成」「選定システムの稼働まで」「要件定義・外部設計・内部設計:システムアナリスト」「総合リハーサル」「システムを育てる」「システム障害対策」「病院システムの今後の課題」へと進められている。
 本書の特徴は,
(1)病院情報システムの導入を検討している病院長,事務長や医療情報部門を持たない病院の開発担当やシステムエンジニアリングの人々を読者対象としている。すなわちユーザーに対する情報化に伴う一連の作業に関する情報提供である
(2)いかに効率的にシステムを構築し導入・管理していくかを,システム化の行程順に整理し,事例とともに作業項目の注意すべき点を示している
(3)多くの病院では専従職員を配置できないため,院内職員による情報検討委員会を立ち上げてコンサルタントに依頼することになるが,その際にコンサルタントに何を期待し,院内職員は何を決定すべきかを示している
(4)目次からもわかるが,導入後の運用管理,障害対策にも触れており,障害のパターン別に対処方法が整理されているため,既設の情報システムでも参考となる
(5)臨床研究,DRG/PPSなどの診療データの2次利用についても触れられ,今後の診療録等の患者情報について取り扱いの示唆を与えている

病院情報システム導入の技術書

 本書は136頁のさして厚くないものであるが,このように病院関係者向けのシステム導入の技術書としてわかりやすい言葉で,手順を追って書かれた中味の濃いものと言える。また,「病院の病」を「情報システムという治療法」で解決するという視点,あるいはプロジェクトの進め方はまさに組織の動かし方であり,その本質をついている。さらに各章の最後に要旨がまとめられており,重要事項を確認できることはありがたい。
 今後さらに,「患者のためのシステム作り」から「患者参加の医療のためのシステム作り」へと発展させた導入マニュアルを著してほしいと願うものである。
B5・頁136 定価(本体3,000円+税) 医学書院