医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


貴重な資料をコンパクトに収めた精神科看護の手引書

精神科看護ポケットリファレンス
櫻庭 繁 監訳

《書 評》神郡 博(福井県立大教授・看護福祉学部)

 本書は“Mosby's Psychiatric Nursing Pocket Reference”の完訳である。全体は6章からなり,それぞれ「精神障害の分類と診断の手引き(DSM-IV)」,「アメリカ看護婦協会の精神科・精神保健臨床看護実践の基準-ケアの基準」,「アメリカ看護婦協会の精神科・精神保健臨床看護実践の基準-専門家としての実践基準」,「アメリカ看護婦協会の精神科・精神保健看護のための精神薬理ガイドライン」,「NANDAの看護診断(1999-2000)」,「アメリカ看護婦協会を中心とした看護政策の歴史的発展」の内容がわかりやすい形で載せられている。

初心者や多忙な実務家に配慮

 例えば,アメリカ精神医学協会(APA)が開発した実際の『精神疾患の診断・統計マニュアル』(“Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder〔DSM〕”)は疾患の定義や判断基準,タイプや分類尺度などを詳細に記した膨大な手引書であるが,ここではそれらの重要な事項を網羅する形でコンパクトに収め,利用者が手に取りやすいように編集されている。同じような配慮は,第5章「NANDAの看護診断(1999-2000)」の掲載の仕方にもみられる。書物の価値の1つにわかりやすさと手に取りやすさがあげられているが,このような配慮は,初心者や毎日多忙な仕事に追われている臨床看護の実務家にとってはありがたいことである。
 現在,わが国の精神科看護は,カリキュラムの改正や精神医療の変革の中でその役割が問われ,専門性や倫理性,仕事や責任の範囲等に対する関心が高められている。本書の第2,3,4,6章に収められているアメリカ看護婦協会の精神科・精神保健看護実践の基準,および看護政策の歴史的発展は,現在わが国で精神科看護に従事している看護者がこれらの問題を考える上で,いろいろな示唆に富む内容を持っている。また,こうした事情を予測したかのように,精神保健福祉法の運用マニュアルなど,巻末に収められている付録も精神科看護関係の貴重な資料として有用である。
 このように,本書は学生や初心者,多忙な実務家にとって,精神科看護の貴重な資料をわかりやすい形でコンパクトに収めた格好の手引き書と言える。
B6・頁120 定価(本体1,600円+税) 医学書院


高齢化社会における医療のあり方を示す

重度痴呆性老人のケア 終末期をどう支えるか
ボリサー・L,ハーレイ・A 編集/村井淳志 監訳

《書 評》野口美和子(千葉大教授・老人看護学)

 本書は,進行した痴呆症患者のために米国で最初に緩和ケアプログラムを開発したロジャーズ記念退役軍人病院痴呆療養棟での10年の研究と実践に基づいて書かれた。これが日本において痴呆症患者の緩和ケアを推進している「京都老人のターミナル研究会」の会員によって訳されたものである。

問題提起,そして工夫と試み

 延命を達成することに価値をおいて発展した,いわゆる科学的医学の研究と医療に対して,QOLと尊厳に価値をおいた医療のあり方について,根拠を示し,かつ具体的に,そして情熱を持って語られている本書は,医療・福祉の関係者にとって,いま必読の書と言えよう。痴呆症患者とその家族への倫理的実践の例がわかりやすく示されているので,21世紀の高齢化社会の生き方を問うためにまたとない教養書でもある。特に,痴呆症を恐れ,不安な人にお勧めしたい。
 第1章は「アルツハイマー病と他の進行性痴呆症」で,豊富な研究と臨床経験により痴呆症の治療の現状が示される。そして,「これらのどの病気でも終末期の患者は,緩和療法とホスピスの関与の資格があり,その恩恵を受けてよいだろう」と問題提起されている。
 続いて第2章は,「終末期感染症への対応」にあてられている。身体の老化とセルフケア能力の低下した痴呆症の老人に対して,医学的予防法と抗生剤の治療の限界が示され,「根本にある痴呆症は決して改善しないという理由から,積極的な感染症治療を差し控えることは倫理的に正当である」と断じられる。
 第3章と第4章は,「食事が困難になったらどうするか」「痴呆症の異常行動」である。
 痴呆症の末期では,必ず食べることができなくなる。医学的処置として経管栄養や点滴が行なわれれば,患者にとっては拷問であり,さらに抑制などにより人間の尊厳がはぎとられていく。異常行動は,ともに暮らすという人間的生活を困難にする。経口摂取と異常行動への取り組みについて,さまざまな工夫と試みの成果が示されて圧巻である。

看護婦はモラル・エイジェント

 第5章以降はロジャーズ記念退役軍人病院でのホスピスプログラム開発の理念と実践が述べられる。
 末期痴呆症のケアの目標は,「安全で,快適で,高いQOLを維持し,患者の尊厳を守ることである」,「治療が望めない時には,患者の尊厳と安全を保つための積極的な看護処置が最も重要になる。最後まで患者の意向に沿うために,事前の代理治療計画を実践する上でも,医療チームメンバーが皆このような倫理的な理解を深めることが大切である」としている。そして,看護職をモラルの実行者(モラル・エイジェント)として位置づけている。
 モラルの具現化の方法と成果は,ケアする中での看護職者の体験で説明されている。その中で看護職は揺れ動き,苦悩し,決断し,家族と話し合いを続けている。ここでは,明解な因果関係で説明されるEBMとは大いに異なる「相互作用を通して主体的に把握された根拠による実践」が見事に示される。これが高齢化社会の医療のあり方なのである。
 巻末に章ごとに収録された膨大な文献は,専門的研究の貴重な資料となる。
A5・頁270 定価(本体3,000円+税) 医学書院


IT革命なんかこわくない

ナースのための
わかる! 使える! インターネット

中山和弘,藤井徹也 編集

《書 評》杉浦稜子(名古屋第二赤十字病院看護部長)

ITに不安を感じるナースのために

 世はまさにIT(情報技術)革命の真っ只中。医療の世界にコンピュータはそぐわないなどと言われたのも今は昔。電子カルテが導入されるのも時間の問題となり,コンピュータが使えないと業務に差し障りが出る時代になってきた。
 どの分野においても,機械に強い人弱い人がいるのは当たり前。ナースの中でも,自分にやっていけるだろうかと不安を感じている人は多いと思う。そんなナースのために作られたのが本書である。
 本書は4つの章で構成されている。第1章ではインターネットの概略とその活用法を述べ,第2章では情報発信元(ウェブサイト=ホームページ)の検索のテクニックやその保存法,ゲームやショッピングの利用法などをわかりやすく解説してある。第3章はメールのメリットやアドレスの付け方,正しい送り方から英文メールの書き方までを事例を通して学べる。
 そして第4章では,「看護・医療関連分野のサイト紹介」と題し,大きく5つのカテゴリーに分けた上で,看護についてはさらに10の項目に細分化して,400以上のサイトが簡単な説明文つきで紹介されている。この第4章は,見出しを見るだけでもどんな内容かのぞいてみたいと思わせるサイトでいっぱいである。
 つい最近,当院の救急部長が国際救援のため,3か月間東ティモールに派遣された。戦傷外科は2件しかなかったそうだが,専門外の眼科の手術などでの処置に大いに困った。そこで持参したデジタルカメラで撮影した写真を当院の眼科のドクターにインターネット経由で送信し,アドバイスを受けた上で処置にあたったそうである。改めて,インターネットの重要性を認識するとともに,世界も狭くなったと感じたものである。

初心者から習熟者まで

 インターネットは情報の宝庫と言われる。解説書もたくさん出ているが,本書は,文字通り「ナースのための」インターネット解説書として,初心者から習熟者まで,年代や役職を超えて活用できる最もよい参考書である。ぜひ一読し実際に使ってみることをお薦めしたい。
A5・頁220 定価(本体2,300円+税) 医学書院