医学界新聞

 

実践知から理論知への発展をめざして

第2回日本災害看護学会が開催される


 さる8月27日に,第2回日本災害看護学会が,新道幸子会長(青森県立保健大学長)のもと,青森市の青森県立保健大で開催された。
 今学会では,体験から生まれる実践の知識を,災害看護学の体系化の基礎となる理論知につなげるためのきっかけ作りにすることを目的に,「災害看護学の萌芽-実践知から理論知へ」をメインテーマに掲げた。

今,そこにある危機に対して

 新道会長は,昨年夏以降に起きたトルコや台湾での大地震,茨城県東海村での核燃料加工施設における臨界事故,そして今年の北海道有珠山,東京都三宅島雄山の噴火および伊豆諸島で頻発する地震による災害などを重視。今学会のワークショップでは,これら最近の災害の発生状況を勘案し,(1)PTSD(心的外傷後ストレス障害)の看護,(2)災害図上訓練,(3)核燃災害時の看護活動,(4)災害時支援ネットワーク,の4テーマが取りあげられた。
 なお,同学会ではその他に,会長講演「災害看護活動のリーダーシップ-阪神淡路大震災の経験から」や,メインテーマに沿ったシンポジウム「災害看護の理論化に向けて」(座長=神戸市看護大 中西睦子氏,兵庫県立看護大 片田範子氏)が企画された。また,一般演題は,災害看護の活動報告,防災訓練,地域支援,災害教育などの分野から49題の発表が行なわれた。

大規模災害訓練から得たもの

 本年9月はじめに,東京の銀座を中心に東京都による総合災害訓練が自衛隊を動員して行なわれたために賛否を呼んだが,首都圏大震災を想定・実施した報告が,本学会の一般演題発表でも取りあげられた。武蔵野日赤病院は,災害拠点病院としての機能を果たすべく,昨年11月に日赤東京都支部および18施設団体の協力のもと,約1万1000名が参加する災害救護訓練を実施した。その結果を「首都圏の大地震を想定した地域団体との共同の災害救護訓練から得たこと」と題し,(1)「大規模訓練の企画および実施上の課題」,(2)災害対策本部運営の実際と課題」,(3)「トリアージエリアにおける看護婦長の役割」,(4)「治療エリアにおける看護の役割」の4テーマにまとめて報告した。
 (1)では,大規模災害訓練を実施した上での看護の視点からの課題として,災害看護時役割認識と共有化や地域との協力体制,訓練実施に対する予算化の必要性,および中央倉庫の適正在庫管理などの資材確保をあげた。また(3)および(4)からは,トリアージの重要性が指摘されるとともに,トリアージ班員の継続的訓練が必要とされた。

初の臨界事故に接して

 一方,日本初の臨界事故として社会的な注目を集めた,茨城県東海村のウラン加工施設従業員が搬送された放射線医学総合研究所(放医研)からは,「臨界事故による緊急被曝患者の看護を体験して」と題し,徳山憲子氏(放医研重粒子治療センター)が,(1)受け入れ,(2)無菌室での看護,の2題を報告。通常は使用することのない緊急被曝医療棟での受け入れ準備から,重粒子治療センターの無菌室への移送,患者管理,2次汚染防止と資料採取としての排泄物保管や,使用機器管理などの実態が報告された。
 原子力発電所だけではなく,全国の都市部にも,核燃料加工施設が存在していることが,この事件から明らかとされた。危機管理体制に関しては,核燃事故に限らないが,話題性もあったのか会場には多くの参加者が参集し,討議に加わった。
 また,ワークショップ(2)災害図上訓練(コーディネーター=三重県立看護大 河原宣子氏)では,三重県のある地域の模型図をもとに,災害が発生した時の避難ルート確保,自分自身を守る行動どが,参加者間でシミュレートされ,討議された。
 なお,新道会長,南裕子理事長(兵庫県立看護大)は今学会の開催にあたり,「三宅島をはじめとする伊豆諸島の各診療所の看護職は予想以上に疲れており,何らかの支援が必要」と報告。緊急措置として,看護人材派遣のための募金が実施された。
 次回は,中西睦子会長のもと,明年7月29日に神戸市で開催される。