医学界新聞

 

研究成果を教育・実践へ循環する意義

第10回日本看護教育学学会が開催される


 さる8月28日,第10回日本看護教育学学会学術集会が,杉森みど里学会長(群馬県立医療短大学長)のもと,前橋市の前橋市民文化会館で開催された。
 今年で第10回を迎えた本学会のメインテーマは「研究・教育・実践の循環と看護教育学の発展」。看護教育学の発展を図り,広く知識の交流を深めることを目的に,日本の看護の現状が,「研究成果を教育現場や実践の場において十分に生かし切れていない」ことから,看護教育学の研究成果を教育や実践へ還元し,循環していく意義を改めて確認することを意図したもの。
 なお今学会では,看護職者によって産出された研究成果が,看護実践や教育の質を改善・向上していることを確信させる内容の企画や演題発表が数多く見られた。その結果として,研究業績の蓄積が学問大系を形成していくという長い道のりを,学会が確実に歩みつつある,という手応えを感じさせる学術集会となった。

研究と経験が支える看護学実習の展開

 小川妙子氏(順天堂医療短大)は,「研究と経験が支える看護学実習の展開」をテーマに掲げた基調講演で,いかに研究結果を実際の教育や実践に生かし,次の研究に循環させるかについて,自らの指導・研究活動の経験を踏まえた上で,具体的に論じた。
 氏は,実習に関する2つの研究成果を示し,「質の高い教授活動には,経験の蓄積により獲得した教員の知識・技術と専門領域の一致が重要」と結論づけた。また,実習における教授活動は,「教員の看護実践と教育実践の統合の中で展開されており,この統合が研究成果を活用することで,促進され支えられている」ことを明らかにした。その上で,質の高い実習展開のための課題に,「看護実践能力や教授活動の質を高めること」をあげ,そのためには,「(1)実習に関する研究成果の活用,(2)看護教育学研究の成果の活用,(3)実習としての授業評価,の3点が不可欠」と強調した。
 さらに,研究から再び実践の場に立ち返って見えた新たな研究課題として,実習における教員行動の特徴を示す「説明概念」という研究成果の発展的活用をめざし,各看護学領域の実習における教員活動の特徴を明らかにすることで,専門領域における実習指導の質の向上を実現していくことをあげた。
 なお一般演題発表では,ロールモデル行動に関連した演題2題に加え,職業経験に関する研究1題が口演され,各演題についての批評とともに活発な質疑応答が行なわれた。
 続いて亀岡智美氏(千葉大)が,特別演題として「キング目標達成理論の検証」を講演。目標達成理論の命題を経験的に検証するという,研究の独自性が注目を集めた。氏は,看護婦・士の目標達成度と満足度との関連が,実際のデータによって支持されること,すなわち経験的に妥当であるという結論を導いた。

自己評価の重要性

 一方,シンポジウム「職業活動への自己評価が導く看護職者の発達」(司会=千葉大 舟島なをみ氏)には,三浦弘恵氏(千葉大大学院看護学研究科博士前期課程),野本百合子氏(愛媛県立医療術短大),岩波浩美氏(国立病院東京災害医療センター),大賀明子氏(横市大看護短大)の4名が登壇。各シンポジストからは,自らの看護職者としての経験を振り返り,現在までに経時的に行なってきた自己評価をさらに深く検証した。
 三浦氏は,継続教育と現在着手している研究との循環について論じ,また野本氏は,研究結果が教授活動に与えた影響と現在の教授活動に関して発表。
 岩波氏は,博士課程前・後の実践活動の循環をそれぞれ自己評価し,今後の課題を見出したと報告。さらに大賀氏は,授業過程評価スケールによる授業評価の結果と,自らの教授活動上の変化に加え,自己評価における測定用具の有効性を論じた。また氏は,学生による授業過程の評価結果をどのように授業の質向上に向けて活用するかという点を,新たな課題として提示した。
 各シンポジストの個性あふれる道程とその評価の発表は,自己評価の成果を看護実践,教育実践に還元するための心強い指針を与えるものとなった。
 司会の舟島氏は,シンポジウムのまとめとして,「自己評価」が成人の学習に必要不可欠なものであると位置づけ,「系統的な評価方法の模索,確立が今後の課題である」と明言した。その上で会員相互が,職業上の問題点の解決を学術に求める,という学会の基本姿勢を再確認するに至った。
 今学会の閉会に際し杉森会長は,「高等教育のめざすものは自立した人間の育成であり,その実現のために,『自己評価』が重要な役割を持つ」ことを強調した。また,さらなる研究の発展と学会活動の充実を呼びかけ,学会は盛況のうちに終了した。