医学界新聞

 

 〔連載〕ChatBooth

 「燃え尽きた」ケアマネジャー

 栗原知女



 最近,多くのケアマネジャーにインタビューする機会があった。話を聞けたのは最終的に10人ほどだが,なかなか応じてくれる人がいなくて難航した。みんなよほど精神的に余裕がないのだろう。聞けば,介護保険導入直前の3月から猛烈な忙しさが始まり,5月まではろくに休日をとれなかったとか。世の中に初めて登場した新職種であり,だれもが初体験の暗中模索。特にパソコンの操作に慣れないための効率の悪さや,制度の全体像を含め将来の方向を見極められない不安感が,精神的な負担となって重くのしかかったのであろう。
 この少し前,介護保険制度のプランニングにかかわってきたその道の権威に,やはり10人ほどインタビューをした。作った本人たちが言うのだから当然だが,みな制度のすばらしさを絶賛し,これで日本の介護は変わると高らかに謳い上げた。しかしながら,制度を作った人たちほどには,現場の担い手たちは仕事の手ごたえや達成感を感じ取ることができていない。そのギャップのなんと大きいことか,としみじみ思う。
 多くのケアマネジャーは言った。
「こまごました事務作業や介護サービス事業者との電話連絡に追われ,本来の仕事をする時間がない」と。
 本来の仕事とは,利用者に本当に必要な介護サービスを見極めてケアプランに具現化するためのアセスメントであり,また,ケアプラン実施後,本当に満足されているかどうかを調べる追跡調査である。厚生省はケアマネジャー1人あたり50人の利用者を担当するのが妥当,との数字を目安としているが,この数ではとても質を保てず,30人が限度だというのが現場の意見の一致するところだ。
 だが,30人だけでは十分な収益につながらず,自分たちの人件費分を稼ぎ出せない。病棟から転職してきたナースは,夜勤がないからと覚悟してきたとはいえ,「手取りで月に10万円も下がったのはショックだった」と話してくれた。
 それでも「当分は」ケアマネジャーを続けたいと語る人が多かった。世の中に初めて登場した職業に携わるパイオニアとして,仕事を通じて多くのことを学び,成長できるという期待感があるのだろう。みな,驚くほど勉強熱心だ。私は,その熱意が空回りしないようにと願うばかりである。
 でも,中には「燃え尽きました」と言って,早くも現場から去った人もいる。彼女は訪問看護ステーションの所長とケアマネジャーを兼ね,多忙な中でも「生涯一看護婦」の意識が強く,訪問看護の現場へもまめに足を運んだ。まじめで優秀な女性ほど,何もかも自分で抱え込もうとしがちで,心と体をすり減らしていく。それでもまだありありと手ごたえの感じられる達成感が伴えば,「がんばろう」という意欲がどこからか湧いてくるが,それがないといつか燃え尽きてしまうだろう。
 多くの取材拒否に遇って落ち込んでいた私をなぐさめてくれたケアマネジャーのこんな言葉が忘れられない。 「私も取材拒否したい。その気持ちはわかるけれど,世の中に対して声をあげていかなければ,何も変わらないと思う」
 介護の現場で働く多くの人が,ネットワークを作り,共感と連帯を通じて,新しい改革に取り組んでいってほしいものだ。