医学界新聞

 

「個別性をみがく」看護教育を論じ合う

第10回日本看護学教育学会開催


 さる8月8-9日の両日,第10回日本看護学教育学会が,近田敬子会長(兵庫県立看護大教授)のもと,「次世代の看護教育-個別性をみがく」をメインテーマに,神戸市のポートピアホテル,および神戸国際会議場で開催された。
 同学会では,会長講演「発動性の理論と個別性の教育」や,招聘講演「学習者の個別性に応じた看護教育」(オレゴン保健科学大 クリスチャン・ターナー氏),教育講演「わが国の専門・生涯教育課程のビジョン」(文部省 寺脇研氏)をはじめ,10周年記念シンポジウム「看護学教育の歩み-過去・現在・未来」(座長=兵庫県立看護大 南裕子氏),メインテーマに沿ったシンポジウム「学生の個別性をみがく看護基礎教育-その可能性と限界」(座長=南裕子氏),事例ディスカッション「個別性が開花する看護教育を探究して」(座長=神戸市看護大 沼本教子氏,東女医大 佐藤紀子氏)などが企画された。
 なお,同学会の前身は「全国看護教育研究会」であり,1991年に同研究会を発展解消し「日本看護学教育学会」を設立。研究会には40年の歴史があったが,その中で会長を12年間歴任し,また学会へ移行されてからの6年間を初代理事長として務めた吉田時子氏(前聖隷クリストファー看護大学長)が,その功績を称えられ学会初の名誉会員に推薦された。


個別性に関心を向ける教育とは

 近年,看護専門学校の卒業生の編入や,社会人入学を受け入れる看護系大学・大学院が増えつつあるが,近田氏は「大勢の学生集団の中にあって,社会経験のある学生の個別性にどのように接近することができるのかが,現在の大学教育者の課題でもある」として,「個別性をみがく」をメインテーマに据えたことを報告。会長講演では,「個別性に関心を向ける教育とは,学生の葛藤している内面世界に関心を向けて対話すること。換言すると,学習の営みとしてのReflective Thinking(反省的思考)を支えること」と定義づけ,Reflective Thinkingすることで前向きな情緒の安定につながり,ひいては発動性が発揮できると理論化した。

個別性の教育をめぐって

 メインテーマに沿って企画された事例ディスカッション(写真1)では,蝦名美智子氏(神戸市看護大)が看護大学編入学受け入れ制度に関して発表した他,看護専門学校における大学(短大)卒業者の教育や,入学生からの意見が述べられた。また,シンポジウム(写真2)では,藤原顕氏(兵庫県立看護大)が「個性化のための個別化」や「個性化のための共同化」という新しい論を展開した他,手島恵氏(東札幌病院)は臨床の立場から,武田宜子氏(横市大短大)は看護基礎教育の立場から発言を行なった。
 さらに10周年記念シンポジウム(写真3)では,山口瑞穂子氏(順天堂短大)が1991年7月29日に「全国看護教育研究会」40周年記念式典を開催し,同日に第1回日本看護学教育学会を発足(学術集会は翌日)したことなどの学会設立の経過を,安酸史子氏(岡山大)はこれまでの学会誌の編集方針の変遷について,また川口孝泰氏(兵庫県立看護大)は専門職育成のための看護学教育や,倫理・人権に対する看護学教育などのあり方を論じた。
 なお,同学会ではこの他に161題に及ぶ一般演題発表や,交流セッション(1)自分で学ぶ体験の場としての授業展開-さまざまな授業形態の組み合わせによる学生主体の学習,(2)3年課程短大生の進路決定理由の実態からみた看護基礎教育の課題,(3)看護基礎教育におけるカウンセリング教育-学生の成長を支える教育,なども企画。
 一方,今年度の事業計画として,看護教育に関する研究および情報提供としての報告書の発行や,学会創設10周年記念事業として「記念シンポジウム」の開催を予定。また,理事・評議員の改選が行なわれ,南理事長に代わり,田島桂子氏(広島県立保健福祉大)が新理事長に就いた。
 次回は,明年8月4-5日の両日,小山眞理子会長(聖路加看護大)のもと,横浜市のパシフィコ横浜において,「基礎教育から継続教育へ」をテーマに開催される。
・日本看護学教育学会ホームページ
 http://www.so-net.ne.jp/medipro/kangokyouiku