医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


「医師と患者のクロストーク」の幕開け

神経内科の外来診療
医師と患者のクロストーク
 北野邦孝 著

《書 評》徳永 進(鳥取赤十字病院・内科部長)

 日常の臨床で患者さんと接していると,「どうでもいいような訴えが多い」と思ったりする。次の診察日,「アレ,よくなりました」などと言われると,「やっぱり」とか思って,なぜ治ったのかも考えず,次の患者さんの,またどうでもいいような訴えに,耳を傾けるわけでも傾けないわけでもないような態度で接し,日々が過ぎてゆく。
 これでも臨床で働けるのは,ひとえに患者さんの持つ自然治癒力だろう。もし保険点数があるなら,自然治癒力こそに膨大な点数をつけねばならないだろう。
 ところが,「患者の訴え」をなおざりにしたために,どんなにかみじめな思いにかられるかということもあらゆる臨床者は身にしみて感知している。でもそんなことは恥ずかしいことなので,他人には言えず,人知れず,心の隅に隠している。隠すことができないくらいの満身創痍の私のような臨床医も存在する。

患者は診断を語る

 オスラー博士の有名な言葉が,失敗の度に心の中に出現する。
 「The patient is telling you the diagnosis」(患者はあなたに診断を語っている)もちろん,血液検査の所見や内視鏡,超音波,CT,RIにMRなどの画像診断器械が,今までは診断に到達できなかった疾患を,われわれ臨床者の前に,まざまざと見せつけてくれるということが生じるようになった。医療者の関心は「どどどっ」とそちらの方向へなだれ込んでいる。それは近代医療の恩恵であることに間違いはない。診断に辿りつけず,患者さんや家族を前に難渋し,そうなるとあとはムンテラ(いかに権威を持って言いくるめるか)しかなかった時代のことを振り返ると,感謝さえしたくなる。
 ところが,患者さんが何か訴えているのに,そのことに真向かわず,近代医療データにだけ頼ると,不思議なことだが,患者の心も生活も,そして挙句の果てには,疾患そのものさえ見失うという現象が生じる。

問診という原点に立ち戻る

 この本は,「問診という原点に立ち戻るだけで,どれだけの神経内科的疾患が見透かせるか」ということを実証してみせたと言えよう。読むと,神経内科臨床の日常の息吹きが聞こえてきて,そして,そこに一条の光がさし当てられて,未熟者の私にも見えてなかった病気の世界が見えてきておもしろい。読み終えて,患者と医師のクロストークは,もっと多種の領域に渡って試みられてほしいと思った。「主訴学」ということを考えていた私には,この本は先駆的な1冊の本と思える。
A5・頁328 定価(本体3,800円+税) 医学書院


運動負荷心電図の実践的な解説書

運動負荷心電図
その方法と読み方
 川久保清 著

《書 評》村山正博(聖マリアンナ医大学長)

 循環器病学を専攻した後,私に最初に与えられたテーマが運動負荷心電図であったが,それが縁で運動心臓病学が終生のテーマとなった。当時,無線搬送によるテレメータ心電図が始まった頃であり,私の学位論文は「運動負荷中及び後の空間的ST-T変化の研究」であった。その頃の最大のテーマは虚血反応判定法と運動負荷試験の方法に関するものであった。それらの方法や基準の標準化を図る目的で1975年(昭和50年)に木村栄一先生(当時,日本医大教授)を世話人代表として「循環器負荷研究会」が発足した。その後,テーマの範囲も広がり,この研究会は現在まで隆盛が続いている。運動負荷試験は虚血評価にとどまらず心機能評価・治療効果判定,運動処方の作成,さらにスポーツにおけるメディカルチェックの領域で広く利用されるに至り,また評価指標も心エコー図,核医学的指標,呼気ガス分析,代謝産物などまで広がっている。しかし,簡便かつ記録が正確で情報量の多い運動負荷心電図が基本であることは間違いない。

著者の長年にわたる経験が随所に

 著者の川久保清氏は私より一回り以上若いが,当時,学園紛争などで入局者が皆無であった空白の時期を経て,ようやく研究室に入ってきた私の共同研究者第1号であった。その後,職場は違っても私の一生の友として現在に至るまで共通のテーマと夢を持ち続けてきた仲である。本書に出てくる心電図のいくつかは私にも記憶に残っているものがあり,感慨を覚えた。著者は当時から大変な熱意と工夫をもって研究を進めていたが,学位論文となった運動負荷心電図マッピングを多数の電極と絡み合うような多数のコードを工夫して記録していた時の姿を懐かしく思う。本書の「はじめに」に書かれてある「本法の活用による不必要な侵襲的検査の削減」が著者の哲学であるように思うが,賛意を表したい。日本循環器学会や日本心電学会の本法に関するガイドライン作成にも著者は大きな貢献を果たした。
 本書の特色は,何よりも著者の長年にわたる経験が随所に示されていることで,解説も明確でわかりやすい。「SIDE MEMO」の項はおそらく著者がもっとも関心を持ってきた項目であろうが,それを読むだけでも本法の発展と今後の展望が開けるような気がする。厚生省の21世紀における施策である「健康日本21」構想遂行には運動は欠かせない手段であり,その意味でも本法は医療機関のみならず,保健・体育施設さらに産業医学の現場においても必須の方法となるものと思われる。一方では,運動負荷試験が面倒になったとか,危険になったという意見も耳にするが,基本的な考え方と手順さえ理解していれば決してそのようなことはない。本法に畏れを抱く人にとっても本書は,不安の解消にはうってつけの本である。

広く運動関連職種の人に

 本書がハンディで手頃な厚さであるのもよい。本邦では,運動負荷心電図に関する入門書やガイドラインは少なく,本書のような実践的著書の利用価値は高いに違いない。循環器関連医師や検査技師はもとより,理学療法士や保健・体育関係者など広く運動関連職種の人にも購読を勧めたい良書である。
B5・頁160 定価(本体4,700円+税) 医学書院


医療従事者と糖尿病患者との関係づくりに役立つ

これだけは知っておきたい糖尿病
河津捷二 監修者代表

《書 評》金澤康徳(自治医大大宮医療センター教授・総合医学)

医療従事者に有用な1冊

 最近,糖尿病関連の書物はたくさん発刊されている。これに製薬会社のパンフレットを加えると消化不良を起こしそうになるくらいの数である。医師向けの本は種々の医学雑誌の特集等のような形で出されるか,有名教授,有名臨床医がご自分の症例や主張を学問的見地からまとめられたものが目につく。需要が多いにもかかわらず,純粋にコメディカル向けの実用書はむしろ少ない感じがする。日本糖尿病学会編の指導書の類がこれに当たると思われるし,最近発刊された糖尿病療養指導士受験ガイドブックは力作であるが,多くの執筆者によって書かれたため,そのよいところと問題点を併せ持っている。各頁の記述にやや凸凹があり,全体としての統一を図る必要があるのではないかという感じを持った。おそらく今後の改訂でよりよい読みやすいものになっていくと思われる。
 患者向けの書物も多い。どれを選択したらよいか迷うが,有名な臨床医のそれは,いずれも患者に対する愛情を感じる文章で書かれており,患者の治療の糧になる。ここにあげた河津らの監修した『これだけは知っておきたい糖尿病』はそういった患者向けの書物とちょっと異なる。

患者の質問に適切に答えるために

 外来や病棟での患者と医師,または患者とコメディカルとの一問一答をきめ細かく取り上げ,各々に簡潔な答えをまとめて記述している。この書物はそのスタイルから医療従事者が読んで,患者の一問一答に常に統一見解を示せるようにする書物として役に立つのではないだろうか。後半の2/3を占める「II.ただいま治療中」は特にそのような形でまとめられている。「I.糖尿病はどんな病気」はやや一問一答には難しいテーマではあるが,答えの部分が長く,II でみられるその特徴が出ていないのは残念である。ここは比較的平凡なスタイルになってしまっている。もちろん本書は「まえがき」にも書かれている通り,患者向けの書物を意図として発刊されたということであり,随所に入っているユーモラスなマンガもその考え方を示している。その意味から,対象とする読者がどちらであるのか,もう少し絞ったほうがよかったのではなかろうか。本書が医療従事者にとってはやさしすぎると著者らは考えるかもしれないが,患者の質問に正確に答えるのは決してやさしくない。まして最近の糖尿病学は変革しつつあり,新しい診断の考え方や治療法もどんどん取り入れられている。この書物は医療従事者にとって適切な患者との応答のガイドとなりうるので,特に有用ではなかろうか。
A5・120頁 定価(本体1,000円+税) 総合医学社


患者のケアを中心とした新たながん治療

Tumor Dormancy Therapy
癌治療の新たな戦略
 高橋 豊 著

《書 評》小林 博〔(財)札幌がんセミナー〕

 がんの治療はいま,大きな変革の時期にある。今までのがん治療の狙いはがん細胞をできるだけ叩くということで,がんの塊りが縮小すればするほど効果があったと考えられてきた。事実,がんの化学療法はそのような狙いのもとに開発され,それなりの成果をあげてきた。
 しかしながら,多くのがん患者が強い副作用に悩んできた頃から考えると,これが果たして理想的な延命効果として評価してよいかとなると疑問の余地があった。
 このようながんの治療のあり方に対する反省の念は,早くから本書の著者高橋豊博士らが指摘していた。時を同じくしてこのような動きは欧米においても見られたのである。いずれも共通して今までのがんの治療に対する反省であった。

望ましいがん治療の理念とその実際

 以上の経緯をふまえ,これからのもっとも望ましいがんの治療の理念と実際の詳細を報告したのが本書である。このような狙いで新たながん治療戦略を綴った解説書は本書をもってはじめとすると言ってよいだろう。
 本書の狙いは,「がんの治療効果はよいQOLの状態でできるだけ長生きさせる」ということである。それに伴ってがんの縮小があればそれに越したことはない。しかし決してがんの縮小を第1の目標としてはいけないという精神によって貫かれている。
 近年,がん患者の延命効果は非常に期待できるようになった。がんに対する副作用対策,あるいはがん患者の看護の改善によるところが大きい。さらには感染症対策など,がんを殺すこと以外の周辺のケアに関する対策の進歩を見逃すわけにはいかない。
 さらに血管新生阻害剤というものが登場してきた。がんの栄養を補給する毛細血管の提供を阻害し間接的にがんの増殖を抑えようというものである。このようなものは従来の化学療法に見られたような副作用はない。
 がんの化学療法でもそれの少量頻回投与などの工夫がされ,がんの縮小効果や明らかな延命効果(少なくともQOLを損なわない)のみられることがあるとわかってきた。

がん治療の原点

 がんの治療は患者のためにあるのであって,医療者側の単に学問的な興味に基づくものであってはならない。がんの治療の原点に振り返る時,今までのがんの治療に対する反省とともに,がん患者のケアを中心にした新たながん治療が大切であり,これらのすべてが高橋博士のドーマントセラピー(休眠療法)というものの中に包括されている。その詳細は本書をひもといて知っていただくことを希望する。期待は必ず報いられると信ずる。
A5・頁192 定価(本体3,800円+税) 医学書院


「痛み」をめぐる激変期に価値ある1冊

ペインクリニック
神経ブロック法 第2版
 若杉文吉 監修/大瀬戸清茂,他 編集

《書 評》菊地臣一(福島医大教授・整形外科学)

痛みをめぐる4つの変化

 「痛み」を取り扱う医師にとって,「今」という時代は稀にみる変革期であろう。この激動は,以下の4つに集約できると私自身は考えている。
 1つは,痛みをできるだけ速やかに取り除くことの重要性が,最先端の研究成果で確認されつつあることである。2つ目は,痛みの発生,増悪,遷延化には,早期から心理的そして社会的要因が,われわれが認識している以上に深く関与していることが明らかになってきていることである。3つ目は,治療する側の「痛み」に対する認識の転換である。従来は,痛みを取ることが治療の目的であった。しかし現在では,痛みの除去は,健常な生活に速やかに復帰させるための手段であるという概念が確立されつつある。4つ目は,痛みの治療効果に,医師と患者の信頼関係が大きく関与していることが明らかにされつつあることである。この観点から,速やかに痛みを取り除くことは,信頼関係の確立に有用であることは間違いない。
 このような「痛み」をめぐって激変期にある医療現場に,本書が与えるインパクトは小さくない。本書はその源を,山本亨,若杉文吉著『図解 痛みの治療-神経ブロックを中心として』(医学書院,1971)に発している。私の本棚には,セピア色の頁になってしまったが,自分の基礎の一部を作ってくれた本として,今なおこの本がある。本書は,その後1988年に本書の第1版に衣替えして,このたびの第2版の出版に至っている。
 臨床の領域を問わず,歴史とともに歩み続けている成書は多くない。この本は,数多くないそうした成書の1つである。本書は,第1版のそれと同様に,分担執筆にありがちな哲学・理念の不統一がまったく目につかない。おそらく若杉氏の一貫した哲学が,執筆陣の底流に存在しているのであろう。この本は,もはや評価を云々する段階はとうに越えてしまっている。
 麻酔医やペインクリニック医ではなく,痛みをライフワークとしている私のような他科の人間からみると,今回の改訂の意義は大きい。それは,総論に神経ブロックの安全管理を追加した点があるからである。以前にわれわれが整形外科医を対象としたブロックに関するアンケートを行なったところ,多くの整形外科医が「ブロックは必要な手技であるという認識を持っているが,合併症を考えるとためらう」という結果が得られた。ペインクリニックを専門としていない医師にとって,危険を伴う手技を行なうことには慎重になる。他領域の痛みの専門家からこの本をみた場合,合併症や安全管理に重点を置いて記載しているという編集姿勢は貴重である。

痛みを扱う医師に

 本書は,版を重ねて頁数を増している。しかし値段は第1版と同じで,値上げしていない。もちろん,本書はペインクリニックの専門家にも有用であろうが,専門家と称する人間は,往々にして自分の専門の成書を見過ごしがちである。一方,痛みを取り扱う医師,特に運動器領域での「手術もできる痛みの専門家」である整形外科医にとっては,本棚に揃えて置くべき基本的な1冊と言ってよい,価値ある1冊である。
B5・頁352 定価(本体9,000円+税) 医学書院


内分泌代謝疾患は「これ1冊」でなんとかなる

内分泌代謝疾患レジデントマニュアル
吉岡成人,和田典男,伊東智浩 著

《書 評》花房俊昭(大阪医大教授・内科学)

多忙な研修医に有用

 私は,学生に内分泌疾患を初めて講義する時,「内分泌疾患は一目見ればわかる」と話している。しかし,確かに一目見てわかる疾患もある一方,現実がそう簡単なものでないことは,実際の患者さんに当たってみればすぐにわかる。また,病棟での診療に当たっては,負荷試験も多く,それを負担に思う研修医も少なくない。そのような時,多忙な研修医にとっては,とりあえず手軽に見られて参考になる,実践的なマニュアルの必要性は非常に高い。
 ホルモンは,多様な臓器のホルモン受容体を介してさまざまな作用を発揮するため,一見関連のなさそうな症状の組み合わせが,1つのホルモンの過剰や不足で説明のつく場合がしばしばある。私は,内分泌代謝疾患の診療を始めた当初,それまで診断のつかなかった患者さんのいろいろな症状を聞き出し,内分泌疾患であることを想起し,確定診断し,それに基づいて治療したところ,みるみる元気になられるのを目の当たりにして,内分泌疾患診療の醍醐味を存分に味わったことを思い出す。
 本書は,日本内科学会の認定内科専門医であり,かつ,内分泌・糖尿病診療の第一線で活躍しておられる吉岡成人先生を中心に,市立札幌病院内分泌代謝内科の方々によって書かれた。内容は,それぞれの疾患別に,「疾患の概念」,「問診・診断のポイント」,「検査のポイント」,「治療のポイント」という項に分けられ,実際の診療に必要なことは過不足なく網羅されていながら,コンパクトにまとめられている。特に,実際に多数の患者さんを診療した経験から得られた,エッセンスとでも言うべきものが随所に見られる。また,研修医にとってとりわけ有用と思われるのは,ほとんどの項目に添えられている「症例」である。これは,その疾患を見たことのない研修医にとって,どのようなきっかけで患者さんが来られ,どのような点に注意して診断を進めるべきかの,何よりの参考となるであろう。

内分泌疾患診療の醍醐味を追体験

 本書は,「持ちやすく」「見やすく」「役に立つ」という3拍子揃ったマニュアルである。しかも値段が手頃で,研修医にも十分購入可能な範囲である。本書は,医学部学生,卒後研修医,内分泌代謝の非専門医の方々にとって,「これ1冊でとりあえず何とかなる」という有用な書といえる。
 しかし,さらによく読み込んでいくと,著者らの経験を共有し,内分泌疾患を診療する醍醐味を追体験することができる。その結果,内分泌代謝疾患の日常診療に,専門家並みの自信を持ってあたれるようになるであろう。それほどの好著として推薦したい。
B6変・頁256 定価(本体3,000円+税) 医学書院