医学界新聞

 

カリキュラム改革-21世紀の医学教育をめざして-旭川医大の場合

棟方 隆(旭川医科大学助教授・第2外科)


 旭川医大は1973年の開学以来,第1学年から第6学年まで一貫させた医学教育を特徴としてきた。これは基礎教育,基礎医学および臨床医学等の全課程を楔型に結ぶ教育システムであり,その時点では斬新なものであった。しかし医学の急速な進歩や医療の拡大によって医学教育,中でも卒前教育の到達目標は必然的に高められ,従来の系統講義が主体の知識注入型教育では広範囲,高度な医学知識,技術を習得させることが困難になり,カリキュラムの質的・量的な見直しが迫られた。

動き出した新カリキュラム

 将来構想の基本として,(1)統合カリキュラムの編成,(2)自学自習態度の涵養(チュートリアル教育,早期体験学習(early exposure)の導入等),(3)卒前臨床教育の充実(基本的臨床能力教育,臨床実習の早期開始・期間延長およびクリニカルクラークシップの導入等)などがあげられた。
 この基本構想のもとに教育課程編成小委員会(委員長=産婦人科学講座 石川睦男教授)が設けられ,1997年12月より25回の小委員会と2回の全学的なワークショップが開催され,1999年度入学の学生から開始する新カリキュラムが策定された。

統合カリキュラム:チュートリアルで自学自習の姿勢を養う

 新カリキュラムの第1の特色は,基礎教育,基礎医学および臨床医学を有機的に結ぶ「統合カリキュラム」の教育システムにある。1つの系統的な主題に関して講義内容を検討し,その内容に合わせて担当教官を決め,講座の枠を越えて講義を行なうものである。主なものは,「総合生命科学」,「臨床基礎医学」および「総合臨床医学」がある。
 しかし,学生が自ら学ぶという態度がないと,講座の枠を越えて実施されるので,かえって関連性が理解しにくくなる危険性があることから,入学直後に「医学チュートリアル I」を導入した。
 「医学チュートリアル」では小人数で構成された学習グループに共通の課題や症例を掲示し,これらを掘り下げ自学自習する。
 「総合生命科学(講義と実習)」は,医学を学ぶ前提としての一般教養として捉えられ,第1学年から第2学年前期にわたって展開され,基礎教育,基礎医学および臨床医学系講座が連携して行なう。第1学年から臨床講座系教官の医療現場の声を聞くことになる。
 「臨床基礎医学」は臨床医学に深く関連する基礎医学を基礎および臨床医学講座で担当するもので第3学年から展開される。「総合臨床医学」は臨床医学の統合カリキュラムであり,「医学チュートリアル II」と並行して展開される。これはチュートリアルの症例に関連する内容を複数の臨床講座が分担して,関連する講義を行なうものである。入学直後と,この第3学年の後期からの1年間のチュートリアルにより,医療人として生涯を通じて新たな知識を学び続ける学習態度をさらに涵養することを目的としている。

早期に保健・医療・福祉の現場に触れる

 さらに,自学自習の動機づけを目的として,第1学年と第2学年の2度にわたって「早期体験学習」が展開される。医療,保健および福祉施設等の現場に直接触れ,第2学年では,国内はもとより,国外も含めて体験することが可能となっている。基礎教育科目は現代社会人として幅広く深い教養を養うため,第1学年から第4学年にわたって開講され,すべて選択科目とした。チュートリアルと並行した時期には,「医学研究特論」が展開され,医学の進歩に必須な研究の実際を学ぶために,少人数で約半年間にわたり各講座に配属される。同時期に医学英語の実際,英語によるディベートなどの「医学英語 IV」も必須科目として展開される。

OSCE,クリニカルクラークシップの導入,講義を100分から60分に

 第4学年最後には「臨床実習序論」が展開され,単に知識のみならず,医療面接や身体診察技術などの基本的臨床能力を身につけることが要求される。臨床実習序論の最後にはOSCE(客観的臨床能力試験)が行なわれ,OSCEの合格が第5・6学年の臨床実習のハードルとなっている。第5学年からは「臨床実習」が開始され,第6学年ではクリニカルクラークシップを導入した,より実地に近い「臨床実習」が展開される。
 また講義時間は効率的に集中力を高めるために,従来の1コマ100分から60分に短縮された。図1に新カリキュラムの科目展開図を載せたので参照されたい。このように今回のカリキュラム改革はこれまでの小規模なものではなく,従来の教授(teaching)主体から学生自身の学習(learning)主体への軸足の移動という大きな改革である。
 この改革を受けて,早期に実施可能なものはなるべく早く実施していこうとの考えから,現行の臨床実習開始前に新カリキュラムと同様の臨床実習序論が実施された。医療面接や身体診察を習得させ,最後にOSCEが行なわれた。
 従来の臨床実習序論は,講義が主体で臨床実習現場にあまり役立たないことや最終評価がないために出席率が悪い等の問題があった。そこで1999年6月に臨床系教官12名からなる基本的臨床能力教育カリキュラム専門委員会(委員長=第3内科教授 高後裕氏)が組織された。数回の委員会では,実施までの具体的計画やテキストの作成が行なわれた。
 同年9月には指導教官養成ワークショップが開催され,臨床講座を主体として約70名の教官が参加した。基調講演として川崎医科大学総合臨床医学の津田司教授(現三重大学総合診療部)の特別講演を皮切りに2日間にわたって,医療面接教育や身体診察技能教育を体験・学習した。このワークショップ実施にあたっては北海道大学総合診療部とCOML札幌患者塾の多大なる協力をいただいた。
 同年10月18日から29日に臨床実習序論が展開された。タイムスケジュールは図2に示した。医療面接と身体診察を中心にして,これからの臨床実習で必要とされる知識の教育と基本的臨床能力教育が行なわれた。医療面接では学生同士のロールプレイの後,SP(模擬患者)を相手に行なわれた。OSCEは実習の最後に行なわれ,7つのステーション(医療面接,バイタルサイン,頭頚部診察,胸部診察,腹部診察,神経診察および胸部X線読影)を2列用意し,試験5分,移動2分で朝9時から夕方5時近くまでかかって行なわれた。医療面接のSPは岡山SP研究会の方々に協力いただいた。
 試験直後に採点結果のコンピュータ解析が行なわれ,不合格者十数名が発表され,翌日午後に再OSCEが行なわれた。再OSCEでは不合格者はなく全員が臨床実習への切符を手にした。

医学部の実習で最高の経験

 学生たちにとっては試験前ということもあり,非常にきつい2週間であったが,「ポリクリを始める上で,非常に有用であった」,「過去5年間の実習の中でもっとも素晴らしい充実した2週間だった」,「今まで机上で学んできたことが,実際にはどう必要で,どう使えばよいのかの糸口が見えかけた。非常に勉強になりました」など,とても充実していたという感想が多かった。実習後のアンケート調査結果を図3に示したが,非常に好評で来年度も是非実施すべきであるという意見が多かった。北海道で初めて行なわれたOSCEということで,北海道新聞,北海道医療新聞および地元NHK等に取り上げていただいた。
 以上のように,旭川医大でも急速に教育改革が進んでいるが,何よりもまず教官の意識改革と教育に関する意識を高めることが重要であり,大学全体としてのFaculty Developmentを常に心掛け,さらに教育効果の上がる教育改革をめざす必要がある。