医学界新聞

 

[連載] 質的研究入門 第12回

医療の研究における質的面接法(2)


“Qualitative Research in Health Care”第4章より
:NICKY BRITTEN (c)BMJ Publishing Group 1996

大滝純司(北大医学部附属病院総合診療部):訳,
藤崎和彦(奈良医大衛生学):用語翻訳指導


2402号より続く

面接の実施

 質的面接を行なう面接者は,面接が一方通行ではなく相互作用的になるように,そして被面接者の言葉や考えを敏感に感じ取り,予定した話題にとらわれすぎないように注意する。表面的な話題からさらに奥に入り込み,被面接者の話をできるだけ詳しく探り,研究を始めた時点では予想していなかった新たな領域や考えを見出そうとするのだ。ここでは被面接者が言いたいことを自分が正しく理解できているかどうか,自分の憶測に頼らずに確認することが大切である。
 面接者と被面接者の間で誤解が生じる可能性が高い場合,例えば医療技術に疎い人を臨床医が面接する場合は,特にこの点が重要である。臨床医が面接する場合には,自分たちが話しているのと同じ意味合いで被面接者が医学用語を使っているとは限らないことを念頭に置かねばならない。
 Pattonは,「質的面接におけるよい質問とは開かれた(自由に答えられる),中立的な,微妙な点に触れるような(sensitive),そして被面接者にとって明快な質問である」と言った。
 彼は,質問を6種類に分類した。すなわち(1)行動や経験,(2)意見や価値観,(3)気持ち(feeling),(4)知識,(5)感覚(sensory)的な体験,そして(6)人口統計学的(demographic)なあるいは被面接者の細かな心理社会的背景を質すような質問である(表1)。通常は被面接者が答えやすい質問から始め,その後に答えにくい微妙な話題に進んでいくのが最もよいとされている。被面接者はほとんどの場合,研究者に情報を提供することに前向きだが,どの程度詳しい話をすればよいのかを,あらかじめはっきりと説明しておく必要がある。また時には話を聞きづらい状況に置かれている人たちを面接することもある。
 面接の構造が緩やかになればなるほど,面接の前に質問を決めたり標準化することは少なくなる。質的面接をする面接者は,調査する領域を特定するための核になる質問群を用意しておくことが多い。高度に構造化された質問紙に基づく量的面接とは違って,被面接者が何を話したいのか探るためにも状況に応じて質問の順序を変えていく。被面接者が話した言葉の言い回しを使って,その後の質問を広げていくこともあるので,質問の言葉を標準化することはできない。また,質的研究をしている間に面接者がその話題に関してより詳しくなり,さらに突っ込んだ新たな質問をする場合も当然あり得る。
 質的研究をする研究者は,自分たちが被面接者からどのように見られているかについて,そして両者の社会階層や,人種,性別,社会的距離(social distance)などがどのように面接に影響を及ぼすかについて常に考慮しなければならない。特に被面接者が面接者を医師と知っている場合には,これが大きな問題になる。すでに患者になっている,あるいは患者になるかもしれない人は,面接を受ける場合にわざと医師を喜ばせようと,求められているだろう答えを言うかもしれない。それゆえに,自分の患者を調査目的で面接するのはできれば避けたほうがよい。それでも避けられない場合には,「思ったことをそのまま話してよい」ということを患者に説明し,理解してもらうべきで,たとえ「抗生剤はウイルス感染に対するよい治療である」といったように間違ったことを患者が言った場合でも,それを指摘してはならない。
 面接中に,面接者が被面接者から質問されることもありうる。この場合に問題となるのは,それまで臨床研究者が自分たちの考えを押しつけないように努めていたのに,その質問に答えることによって,その姿勢が崩れてしまうかもしれないことである。しかし,その質問に答えなければ,面接者からの質問に答えようとしている被面接者の気持ちを損なうかもしれない。その解決方法として,「そうした質問には面接の最後にお答えしましょう」と告げることもあるが,この方法もいつもうまくいくとは限らない。

研究の道具としての研究者

 質的面接では,面接者にかなりの能力が求められる。経験豊富な臨床医は,自分にその能力が備わっていると思うだろうし,実際にすぐにその能力を身につけることができる人が多い。診療の場での面接から研究用の面接に切り替えるには,臨床研究者は自分の面接の様子をテープに録音して聞き直すこと。そして,それを批判的に検討し,他の人たちからも意見を求める必要がある。研究者が面接者として初心者の場合は,指図する傾向はないか,誘導するような質問をしていないか,手がかりを見逃していないか,言いたいことを表現してもらうための時間を被面接者に十分に与えているか,などに注意しなければならない。
 Whyteは,新米の研究者が自分たちの面接技術を評価するのに役立つ,6項目の指示的傾向指数を開発している(表2)。もちろん,非指示的なことが,常に最善というわけではない。冗長な被面接者もいるので,面接者が面接を常に適切にコントロールできるようにしておくのが大切なのである。
 Pattonによれば,面接をコントロールする戦略として,(1)面接の目的を把握すること,(2)必要な情報を得るのに適した質問をすること,そして(3)適切な言語的あるいは非言語的フィードバックを行なうことの3つをあげている(表3)。
 FieldとMorseは面接でよくある失敗として,(1)他から邪魔が入る,(2)気が散るものがそばにある,(3)面接に対して脅える,(4)質問がぎこちなくなる,(5)唐突に話題を変えてしまう,(6)カウンセリングをしてしまう,といったものをあげている(表4)。これらを意識しておくと,面接への対策も立てやすくなるだろう。

面接の記録

 質的面接を記録する方法には,その場で書く「覚え書き」,後で書く「覚え書き」,「録音」などがある。その場で覚え書きを書く場合には,面接の流れを妨げてしまうことも考えられる。また,後で書くのでは細かな部分が抜け落ちやすくなるといったデメリットもある。被面接者の中には,録音ではなく覚え書きを好む人もいるが,ほとんどの人は,テープレコーダーの前で自由に話すようになるには少し時間がかかるにせよ,面接を録音することを了解してくれるだろう。よい機器を用意し,事前に試用して使い慣れておくことがとても大切である。録音から記録を書き起こすのは大変に時間がかかることを覚えておかねばならない。録音状態にもよるが,1時間の面接を記録するのに6-7時間かかることもある。そのためにも,面接に基づく研究をする際にはその時間を十分に見込んで予定を組むべきである。

被面接者の集め方

 標本抽出の方法は調査の目的によって決まる。質的調査では,通常は,統計学的な代表性を追究したりはしない(23882390号掲載,第3章参照)。同様に,標本数も確固とした基準で決まるのではなく,面接の深さや長さ,あるいは1人の面接者にできることなど,さまざまな要素によって決まる。例外はあるが,大規模な質的研究でも,面接する対象者が50-60人を超えることは多くない。
 医療の場で社会学者が調査を行なう場合には,調査対象者と接触することについて慎重に交渉しなければならないことが多いが,臨床医が自分の仕事場で調査する場合には,このような問題は生じにくい。しかしその場合でも,調査をしようとする者は被面接者候補に調査への協力を呼びかけ,たとえ協力しなくても今後の診療には影響しないことを強調しつつ,調査の目的について説明する必要がある。趣旨説明の手紙では,どのようなことをするのか,面接に要する時間の見込み,秘密が守られることの保証なども説明しなければならない。面接は被面接者の都合に合わせて行なうために,被面接者が日中働いている場合には夜になることも多い。環境は面接の内容にも影響するため,くつろげる環境での面接が一般的には望ましい。

まとめ

 質的面接は,数多くの研究領域を拓く柔軟で強力な手段である。実地臨床医は,この方法によって,それ以外の方法では,研究が困難な日常診療に直結した研究テーマに取り組むことが可能になる。何も訓練を受けずに,このような新しい研究手法に手をつけようとする研究者は少ないかもしれないが,総合大学や専門的な研究機関には研究目的の面接技術の訓練を受けられるところもある。
(第4章了)

●お知らせ
 本連載は,“Qualitative Research in Health Care”(Catherine Pope, Nicholas Mays編集,B.M.J Publishing Group発行,1996)を翻訳しているものです。

表1 質的面接における質問の種類
(1)行動や経験
(2)意見や価値観
(3)気持ち(feeling)
(4)知識
(5)感覚(sensory)的な体験
(6)人口統計学的(demographic)あるいは心理社会的背景情報

表2 Whyteによる面接技術評価のための指示的傾向指数
(1)話を促す相槌を打つ
(2)情報提供者(被面接者)が言ったことについて応答する
(3)情報提供者(被面接者)が最後に言ったことについて探りを入れる
(4)情報提供者(被面接者)が最後に言ったことよりも以前の話題に戻って探りを入れる
(5)面接の初期に出た話題について探りを入れる
(6)新たな話題に切り替える
 ((1)=指示的傾向が最小,(6)=指示的傾向が最大)

表3 面接をコントロールする方法
(1)自分が何を見つけ出したいのかを認識しておく
(2)必要な情報を得るのに適した質問をする
(3)適切な,言語的および非言語的フィードバックを行なう

表4 面接でよくある失敗
(1)他から邪魔が入る(電話等)
(2)気が散るものがそばにある(子ども等)
(3)面接に対して面接者や被面接者が恐怖心を抱く
(4)戸惑うような質問やぎこちない質問をする
(5)唐突に話題を変えてしまう
(6)指導してしまう(被面接者に医学的な助言をする等)
(7)カウンセリングをしてしまう(早すぎる時期に被面接者の応答を要約する等)
(8)面接者自身の見方を示して,面接に潜在的なバイアスをかけてしまう
(9)表層的な面接
(10)秘密を打ち明けられる(自殺のおそれ等)
(11)通訳の問題(不正確な通訳等)