医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護学教育の質の向上のために

看護学教育評価論 質の高い自己点検・評価の実現
舟島なをみ,杉森みど里 編著

《書 評》グレッグ美鈴(岐阜県立看護大助教授)

「自分の授業をよくしたい」

 1999年の大学,短期大学設置基準の改正において,「自己点検・評価」が義務づけられた。自己点検・評価が義務であるか否かを問わず,教育に従事する者は,自分の授業をよくしたいという思いを持っている。そしてこの本は,その思いを教育経験の長短に関わらず実現させるためのものである。
 序章で述べられている「看護教育学の理念の反映」としての評価の姿勢は,第7章の終章に至るまで一貫している。看護教育学とは何か,その学問に基づいて人間をどうみるか,その人間が行なう看護活動や教授学習活動をどうとらえるかが短い序章の中に明確に表現されている。この本のphilosophyが非常によくわかる序章である。
 まず看護学教育評価の基礎として,教育評価の理論的解説がなされているが,この中で最も注目されるのは,教育評価における倫理的配慮についてである。研究をするにあたり倫理委員会の許可を必要としない日本では,教育評価においても倫理的配慮が十分になされているのか疑問に感じることがある。倫理的配慮の意味するものが何かの解説に留まらず,具体例をあげて教育評価の倫理的問題を明確にしている。
 第3章から第5章では,さまざまなスケール,インベントリが提示されている。看護学生によって評価される授業過程評価スケールの看護学講義用,看護技術演習用,看護学実習用,教員自身が評価するための授業評価活動スケール,および教育組織運営を評価するためのインベントリ大学版,短期大学版,看護専門学校版である。
 これらのスケールとインベントリがユニークである点は,すべてが看護教育学研究の成果に基づいていることである。作成過程(研究過程)が明示されており,信頼性や妥当性の検討も行なわれている。学生による授業評価質問項目自体は,インターネットの検索でかなりの量を集めることが可能である。しかし信頼性,妥当性が検討されたスケールは,おそらく他には存在しないのではないだろうか。
 アメリカで一学生として,少なからず授業評価をする立場にあった私は,このスケールが授業過程のすべてを網羅し,非常に評価しやすいものであると感じた。その理由は,看護学生の生の声から,質的帰納的に質問項目を導き出しているからである。一方,教師1年生の私には,教員が用いる授業評価活動スケールの価値を判断することは困難だが,このスケールの活用は,詳細に記述された活用方法にそって可能である。組織運営を評価するインベントリによる測定結果とその解釈の具体例は,このインベントリがどのように組織運営を評価できるかを示しており,非常に興味深い。

今なぜ自己点検・評価なのか

 さらに本書は,看護学教育評価を自律的,循環的,継続的に実施に移すために,各章の関連が,「看護学教育評価システムモデル」として示されている。ここで使用されている「Theory derivation」は,比較的短期間で看護理論を開発する方法として,アメリカでも特に大学院の教育で盛んに使われているものだ。自己点検・評価の実施のみならず,モデルや理論開発の参考として用いることが可能である。
 この本を読む中で,今なぜ自己点検・評価に取り組む必要があるのかを改めて考えさせられた。掲載されているスケールやインベントリを実際に使用するかどうかを別にしても,自分の授業や看護学教育そのものの質の向上を考えている人には,ぜひ一読をお勧めしたい本である。
B5・頁120 定価(本体1,800円+税) 文光堂


精神医療のあり方を模索する人に多くのヒントを与える書

精神科クリニカルパス
Patricia C. DyKes 著/末安民生・伊藤弘人・三原晴美 訳

《書 評》松尾貢治(不知火病院サポートセンター長)

 この本はクリニカルパスの導入を検討するか否かに関わらず,精神医療のあり方を模索する人に多くのヒントを与えてくれる。特に医療現場に近い職種にとっては目からウロコであろう。しかしこれは精神医療に従事している多くの人のアタマにすでに描かれているシナリオかも知れない。システムの明快さと細部に至るまでのメニュー。これはアメリカの文化と医療制度を背景に構築されたものである。それだけに自分たちのツールとして活用するには多少の覚悟と努力が必要だ。訳本であるため聞き慣れない用語が並んでいるが,この際用語は無視して何を言わんとするか,その本質をていねいに読み取ってほしい。

クリニカルパスを理解する

 本書は全14章で構成されている。簡単に内容を紹介する。
 1章:医療の受け手,提供者。保険機構のそれぞれにコスト意識が求められる根拠を述べてある。日本の保険機構では見えにくいコストの問題が見えてくる。
 2・3章:クリニカルパスの発展過程と基本形。
 4章から8章:急性期ケア,慢性期ケア,在宅ケアなどで実用してあるクリニカルパスの実施原則を中心に,ケアの焦点,機能レベル分類,ゴールに対する考え方が述べられている。
 9章:問題の原因を明らかにするためのアルゴリズム。クリニカルパスが機能するためのツールである。何か問題が発生した時,その原因を探る思考順路を表したものと言える。人間は知識と経験によってあらゆる可能性を検証することなく,直観またはバイパス思考というか,ベテランのなせる技で判断できる人もいる。ところが現実派個性や状況によって視点や評価が変わるものである。クリニカルパスはこのような節目や枝別れの動きに,さまざまなツールを取り入れることで完成されていく。
 12章:クリニカルパス:ケアの継続性。精神科の多様性,介入のレベル,ネットワークの開発。ここでは患者自身の意思と生活の尊重を共有するためのプログラムが示されている。これから必要とされる医療,社会資源を考える上でも参考となるであろうし,多方面で継続共有できる言語などその課題にも気づかされる。
 13章:クリニカルパスの医療過誤と使用責任の法的検証を行なってある。アメリカでは交通事故現場には救急車より弁護士が早く駆けつけるという話もある。何ごともルールに基づいているかどうかが重要とされている。さらにクリニカルパス開発者の賠償責任…。ドキッとしました。これはあくまでアメリカの話です。今のところ。
 14章:クライアントパス。“結局のところ誰が一番クライアントの治療結果に興味があるか?と聞かれれば,それは明らかにクライアントである”。この一節に沿って,クライアントパスが解説されている。

随所で費用の問題に触れる

 この本では随所で“費用”の問題に触れている。クリニカルパスの誕生そのものが費用から発しているためである。これは対岸の火事ではない。すでに日本の保険医療も危機的な財源不足に陥り,根本的な改革に向かって動いている。精神科においても同様である。コストに裏づけされた効果的な医療が,選ばれる医療機関の指標になる日は近いであろう。
 訳者の方々にひとこと言いたい。どうしてもっと早く出してくれなかったのかと。筋違いの苦情であることは重々承知しているが,これには理由がある。私の勤務する病院では2年前から精神科クリティカルパス(精神科クリニカルパス:以下パスという)をイメージしたシステムを取り入れている。パスと言い切れないのはパスそのものの理解が不十分であったことと,当院のシステムもまだ不十分なためである。このような状態にも関わらずパスという表現を発信してきたことで,多くの方に誤解を与えてしまった。この場を借りてお詫びしたい。
A4・頁192 定価(本体3,200円+税) 医学書院