医学界新聞

 

《投稿:研修報告》

ハワイ大学小児科研修プログラム

ウエハラ真理(ハワイ大学医学部)


研修開始まで

 何とか試験に合格し,ECFMGの証書を手にしたのは1996年もおわりに近い頃だった。次のマッチングの締切りは過ぎていて,1年待つかマッチング後の空きを探すのかと,がっかりした。そもそも試験の結果など待たずに申し込んでおけばよかったのだ。どうしてもハワイで研修を受けたい事情もあり,地元の先生にも尋ねてみたところ2年目以上としてなら小児科研修医のポストがあることがわかった。American Board of Pediatricsに問合せると,自国の小児科で3年以上臨床経験があり,受け入れ側がOKであれば,1年間,または,試験を受けて2年間の研修免除も可能であるという。FMGはハワイ州の医師免許を取るのに2年以上アメリカで臨床研修する必要がある。2年目研修医として始めるのは願ってもないことだった。

小児科研修のはじまり

 小児科の研修期間は3年。私が2年目研修医として働き始めた年には,1年目6人,2年目10人,3年目7人の小児科研修医の他に,内科小児科研修医(研修期間4年)やトリプルボード(研修期間5年。小児科,精神科,小児精神科の3つの認定医試験受験資格を得る)の研修医もいた。他にFamily practice(成人,小児,産婦人科も診るいわゆるプライマリ・ケア)やTransitionalといわれる救急医療などをめざす研修医もある期間一緒に仕事をする。
 FMGは私を含めて3人,いずれも同じ2年目研修医であった。1年目からここで研修を始めた中国出身の医師と,私と同じように自国で小児科研修を終えてきたフィジーからのFMGである。1人ひとりの研修医にはアドバイザーが付き,研修生活全般について相談にのってもらったり,毎年行なわれるin-service examという筆記試験の結果について(好むと好まざるに関わらず)一緒に検討もしてくれる。
 研修病院になっているのは大学附属病院ではなく,Kapiolani Medical Center for Women and Childrenという非営利団体の経営による市中病院である。名前のとおり産婦人科と小児科の専門病院で,11階建ての病院には産婦人科80床,小児科88床,新生児コット90床,NICU47床(level II 15床,Intermediate 12床を含む),およびPICUがある。分娩数は1年に約6000件。24時間体制の病院はまさに来るもの拒まず,満床で一時的にリカバリー室まで患者が入ったこともあった。研修は1か月づつ各部門をローテートする。病棟,新生児科,PICU,救急外来など必須のローテーションの他に,2年目以上ではいくつかのsubspecialtyを選択する。
 研修を始める前に,まず心肺蘇生の講習を受ける。基本的なCPRの他,投薬や除細動を含めたadvanced CPR,新生児CPRを練習し,受講証明書が発行される。これらは期限付きで,定期的に講習を受けなくてはならない。病棟担当のupper level(2年目以上の研修医)は蘇生チームのポケベルを持っており,これが鳴るととにかく患者の元へ走っていかねばならない。時々抜き打ちの実習があり,病室にはattending physicianとダミーが待っている。また,新生児科では分娩,挿管,ハイリスク分娩等を一定数こなすまで1人で分娩時の新生児のケアにあたれない。

病棟の1日

 一般小児病棟を受け持つのは1年に2か月間(1年目は約4か月)。日本での研修は年中病棟にいたわけだから,それに比べれば短い期間である。もちろんPICUや,新生児科も病棟だが,ここでは一般病棟について述べる。
 1年目3-4人,2年目以上が2-4人のチームで病棟を担当し,当直の時も1年目と2年目以上が1組になる。当直は4日に1度,もちろん朝から働いているが,その日の夕方から次の日の朝までに入院になった患者は当直研修医が全部受け持つことになる。1晩で8件前後の入院が多いが,17件の入院で一睡もできなかったこともある。
 Upper levelの受け持ち患者は多くないが,病棟の全患者の状態を把握している必要がある。1年目の研修医はたいてい10人ほどの患者を常に受け持つ。毎日朝7時からチームのミーティングがあり,各症例についてその日のプランを立てる。したがって,それぞれの研修医はそれに間に合うように自分の患者を回診しておかなくてはならない。その後attending roundと呼ばれる症例検討会があり,入院患者から2例ほどの症例発表をし,鑑別診断を検討して,治療法について話し合う。Upper levelはこのまとめ役を務め,指導医も意見を述べる。
 昼には毎日1時間の講義があり,研修医は出席が義務づけられている。午後4時半頃からの申し送りが済むと当直医以外は帰宅できる。

小児科外来

 患者には必ず主治医がいる。親になる者は,子どもが生まれることがわかると,小児科医を探し始める。だから外来では,まだ子どもが生まれる前の家族に始まり,その子どもが18-21歳になるまで診る。出生前には産婦人科とは別の小児科の立場から,近い将来親となる人たちにカウンセリングする。主治医は子どもが生まれると病院から連絡を受け,24時間以内に診察してカルテを記入しなければならない。外で開業していても,生まれた子どもを診察しに病院に行くのである。NICUやPICUなどの入院以外,開業医が主治医として研修医とともに病院で診療するのは一般小児病棟でも同じで,彼らも研修指導医なのである。
 新生児はたいてい48時間以内に退院となる。退院後3-5日で外来に来てもらい,状態をみる。次は2週間,1か月,2か月,と健診や予防接種を行なうのも主治医である。同じ子どもたちの成長を追って診る。保健所もなければ,学校の体育館で1列になって行なわれる健康診断もない。
 研修が始まるとすぐ外来の時間を受け持ち,ローテーションに関わらずその時間は確保される。診療は予約制で,始めは45分から1時間に1人,そのうち20分に1人になる。予定通り受診しなかった場合には電話などでフォローしなくてはならない。患者側も事あるごとに主治医に電話で問合せる。だから,開業すると毎日24時間働くといって過言ではない。
 カルテにざっと目を通し,診察室へ入る。ここで診察室に入るのは医師のほうで,患者とその家族は中で待っている。診察後外来の指導医に報告し,治療方針を立て,今度は指導医と一緒に患者の部屋へ戻る。そしてさらに検討し,治療に当る。効率は悪いかもしれないが,研修医にとってこんな贅沢な外来はないだろう。

卒業後

 太平洋の真中に点々と並ぶハワイの島々-人口約120万人,その内5歳以下は7%,5-19歳は20%ほどを占める。オアフ以外のハワイの島はもちろん,今までほとんど知らなかった遠くの島からも患者が運ばれる。ここには医療の基地としての役割もある。子どもの虐待,麻薬や暴力の問題,思春期外来や障害をもった子どもたちとの関わり等“研修プログラムの紹介”という中には入りきれない経験をした。そういうものを今後も何らかの形で伝えていければと思う。当面はdevelopmental & behavioral pediatricsの分野で勉強を続けていく予定である。


ウエハラ真理氏
1989年佐賀医大卒。国立病院医療センター(現 国立国際医療センター)小児科を経て,97年7月よりハワイ大学医学部で臨床研修(小児科研修プログラム,2年間)。現在,同大でフェローシップ研修中(Developmental & Behavioral Pediatrics)