医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


初めて生理学を学ぶ医療系・生物系の学生に

生理学はおもしろい
高田明和,高田由美子 著

《書 評》高橋國太郎(明治薬科大教授・病態生理学)

 「生理学」という言葉は一般の人には特殊に聞こえて,私のように医学部からきて,コメディカルの場所で教育に携わる者にはなかなか説明が難しいものである。さらに,ノーベル賞では医学賞でも生物学賞でもなく,なぜ医学生理学賞なのかということも一般には理解しがたいことかもしれない。

ポストゲノム時代に必要な知識

 そこを著者は,見事に医学・生物学の中でも生体機能を個体全体の統合された機能として理解するのが生理学で,ポストゲノム時代には再び中心的な学問となれることを,初めに読者の頭にしみこませてから話をはじめている。その語りかけはきわめて平易で楽しいものである。
 しかし,大学初年級の学生を対象にしながら,生体膜の分子生物学にはじまり,こころの生理学に終わるこの140頁の本は,決して専門性をおろそかにしていない。それは,著者らがこのような一般書の企画に定評があるだけなく,一方で,国際的にも著明な業績を残された生理学者でもあるということに尽きる。
 著者らの知識の広さは,ところどころに挿話として挟まれている生理学の重要な発見の歴史とそこに登場する人物の寸評にも現れている。生理学者であるはずの私自身にとってもそれは新鮮な読み物である。例えば,筋肉生理学において,アクチンとミオシンとATPにより収縮が再構成できることを示したセント・ジョルジの実験は,ハンガリーのレジスタンス運動の最中に防空壕でなされたと書かれている。さらに,この本では「息切れとは」「便秘はどうしておこる」「熱が出るのは」など,日常的な一般人の体の疑問に答える相談室的な要素もある。

生理学の重要性の理解と興味を

 最後に付け加えると,この本はお2人で書かれ,それぞれの個性がうまく混合された独特の緩急の流れがある読み物であり,挿し絵も楽しい。医療系・生物系の学生は,ぜひ大学初年級に本書を読んで,生理学の重要性を理解し,興味を持ってほしい。また,現在医療に従事する人の勉強のためにもお薦めする。
A5・頁140 定価(本体1,800円+税) 医学書院


研修医の有能な「指導医」的存在

内科レジデントマニュアル 第5版
聖路加国際病院内科レジデント 編集

《書 評》井村 洋(飯塚病院・総合診療科部長)

診断未確定の急性疾患にどう対応するか

 先に結論を述べます。このマニュアルは使用するための本です。そして,使用する人にとって本当に有用な本です。教科書的な記述が大半を占めながらマニュアルという名を冠しているものとは異なり,本書は救急・急変の場において,実際に使用可能です。研修医だけでなく,急性疾患を診る可能性のあるすべての医療者が,本書携帯の対象になります。
 本書で取り上げられた診断未確定の急性症状に,研修医が直面することは少なくありません。にも関わらず多くの医学生は,そのような急性症状に対する具体的なアプローチの方法を身につけずに研修医になります。特に,可能性のある複数の具体的な疾患や問題を想定して,「どのような場合に,何を,どのタイミングで,どの程度,どのように行なうか」という実践的トレーニングの絶対量が足りません。ある特定の疾患についての病態生理,症状,診断そして治療へと,一定の方向だけを理解してきた学習者にとって,このようなアプローチ方法への切り替えは,非常に困難なことです。解決策の1つとして,初期研修に入る前に短期間で本書を通読し,常に携帯し,ことあるごとに繰り返し使用し,その臨床経験をフィードバックすることをお勧めいたします。
 実は私も研修医の時,このマニュアルの第1版を使用しました。低ナトリウム血症や意識障害に出会うたびに,幾度となく本書を頼りにし助けられました。当時は,急性疾患についての臨床教育は充実しておらず,私にとっては,このマニュアル自体が有能な指導医でした。その後も改訂するごとに,旧版からの書き込みを追加して,自分専用にカスタマイズし続けています。自分が指導医となった今でも,このマニュアルには大変お世話になっています。

改良点が加わりさらに充実

 今回の改訂版で,幾つかの改良点を発見しました。まず第1に,見出しが旧版よりも増えています。待望の,救急外来ではお馴染みの喀血,気胸,内分泌緊急,急性下痢症などの追加です。第2に,EBMを意識し診断や治療方法の選択に根拠のあるものを優先させようという意図が感じられます。第3に,抗生物質の選択に関して,旧版よりも詳しくしかも明瞭で切れ味がよくなっています。当院の研修医には必読を勧めました。第4に,診療者の思考の流れを意識したレイアウトの微妙な変更で,断然読みやすくなりました。時間の制約を伴う救急の場においては,重宝します。第5に,コストの意識を高める目的で,使用薬剤の保険薬価が掲載されています。アウトカムが同じならば,より少ない費用で,より確実な方法を選択する能力が問われはじめた時代において,タイムリーな企画だと歓迎いたします。他のマニュアルにも,追随していただきたいと存じます。

急性疾患の初期治療に携わる医療者に必携

 これだけの内容を,白衣のポケットに簡単に入るほどコンパクトにまとめられ,作成に携わった方々の工夫と努力に感謝いたします。また,第1版から継続して本書から感じられる独特の臨場感は,実際に困ったり悩んだり失敗したことから学び,その解決方法を探求することの蓄積から,醸し出されているものなのでしょう。
 さらなる要望としては,ACLSにおいて記載されていた診療の根拠のクラス分類を,他の検査や治療にも拡大していただきたいと期待しています。その目的のために,例えば,本書で選択された検査や治療についての読者からの指摘や意見を,ホームページ上の公開フォーラムに掲載してみる試みなどはいかがでしょうか。
 最後に難しいことはさておき,すべての医療者が本書の内容を難なく確実に行なえるようになれば,急性疾患の初期診療の医療水準は格段に向上することが期待できます。そういった意味で本書は研修医だけでなく,急性疾患初期診療にあたる医療者にとっては必携の書であると思います。
B6変・頁396 定価(本体3,300円+税) 医学書院


患者中心の循環器医療を提供するために

ECGケースファイル
心臓病の診療センスを身につける
 村川裕二,山下武志 著

《書 評》三田村秀雄(慶大教授・心臓病先進治療学)

 心電図に関する本は山ほどある。それほど,皆が心電図に困っており,それほど,どの本を読んでも満足できないのだろう。

心臓病診療の「痒い」ところを掻いてくれる

 さて,この『ECGケースファイル』,副題を見ると「心臓病の診療センスを身につける」とある。大胆なタイトルである。中を覗くと,中年女性や失神した研修医など,いろいろな人物が登場してくる。症例呈示に続いて問題を掲げ,その後に診断だけでなく,対応のコメントが明快簡潔に書かれている。随所にKey Pointやメッセージ,メモなどがあり,痒いところを掻いてくれる。1つひとつの文章が短いのもいい。薬品名も一般名でなく商品名を示してあり,確かにこのほうが馴染みもあって頭に入りやすい。たまに1種類の薬剤を断定的にあげてあり,他の製薬会社の人に恨まれそうな部分もあるが,その不公平さもまた楽しい。
 世の中には,心電図は自動診断で十分,という輩も少なくないが,コンピュータの診断は妙に最悪の可能性を強調してくる。第・9a23・誘導にQ波があればすぐ「下壁梗塞の疑い」,とくる。若い女性であろうとジギタリス内服中の患者であろうと,少しSTが低下すればすぐ「虚血」と出てくる。患者にしてみれば,その程度の異常なら大丈夫,と言ってもらいたいのに,それを言える医師は少ない。ところが本書は,その辺の迷いを見事に払ってくれる。反対に,心筋梗塞らしい症状があれば,心電図変化がはっきりしなくても「専門医に任せろ」,とアドバイスしてくれる。あくまで心電図より患者中心なのである。

循環器診療のあり方が身体の中にしみとおる

 その極めつけが,著者らのオリジナルと思われるマーフィーの法則,「あわてて病室に駆けつけた時はアーチファクト,当然アーチファクトと決めつけて無視したときには心停止」である。これをまさに地でいく事件が最近も報道されたばかりである。本書を読めば,著者らの表現を借りると,「循環器診療のあり方がスーッと身体の中にしみとおる」ような気分になれる。
A5変・頁202 定価(本体5,000円+税) MEDSi


複雑な内分泌代謝疾患をわかりやすくまとめた1冊

内分泌代謝疾患レジデントマニュアル
吉岡成人,和田典男,伊東智浩 著

《書 評》松井征男(聖路加国際病院副院長)

 内分泌代謝疾患の複雑怪奇なあの茫洋とした大海原のような分野については,概念的に何となくわかっているつもりでいても,いざ患者さんを前にして実地となると,なかなか具体的にことを運べないのが通例である。
 こう感ずるのは,多分筆者だけではないのではなかろうか。
 「序」にもあるごとく,蹄の音を聞いた時にありふれた馬ではなくて,稀なシマウマを思い浮かべてしまって,実はそうではないようなことがあるが,この分野については稀な疾患ばかりの集まりではなかろうかと思い込んでしまって,何となく敬遠してしまうことになる。この広大,複雑な分野をよくこれほどまでにコンパクトにわかりやすく,実践的にまとめていただいたという思いである。それだけに第一線の臨床に携わる者にとっては本当にありがたい1冊である。体裁もスマートで,ポケットサイズでボリュームもちょうどよく(約250頁),またよくこの値段におさえていただけたものだと驚かされる。

臨床の合間合間に手にとって

 簡潔に書かれているのでざっと眼を通してみることができ,全体を把握することができる。その後,臨床の合間合間に必要な箇所を手にとってみるとよいのではないかと思う。前半の代謝疾患は糖尿病に始まり,高脂血症,肥満症,高尿酸血症,ポルフィリン症と続く。そして,内分泌疾患は甲状腺,下垂体,副腎,副甲状腺,性腺の各疾患にまとめられている。
 さらに,内分泌疾患として神経性食思不振症とバーター症候群について述べてあり,また高カルシウム血症クリーゼについても言及されている。非常にありがたいことに,付録として,諸種の内分泌負荷試験が実にわかりやすく一覧表にして示してある。やせ,女性化乳房,多毛,高カルシウム血症等々の主な徴候とその鑑別診断などについてもまとめられており,実地に即した内容となっている。各項目は疾患の概念や定義,診断のポイント,治療のポイント,さらには必要に応じて,問診,診察,検査のポイントなどが追加されており,理解しやすい親切な組み立てとなっている。

実際の症例も提示し,疾患への理解を促す

 治療では薬物療法は色分けして枠で囲まれており,わかりやすい配慮がなされている。それぞれに実際の症例も提示されて,理解が一層しやすいよう考えられている。この1冊の書で混乱していた頭の中が随分としっかり整理されたという思いである。
 内分泌代謝に興味のある方はもちろん,医学部高学年生,卒後研修中の医師,一般内科診療や総合診療にあたっておられる方々,またそれらをめざそうとしている方々にぜひお薦めしたい実用の書である。
B6変・頁256 定価(本体3,000円+税) 医学書院


車いす利用者の立場から書かれたガイド

手動車いすトレーニングガイド
Peter Axelson,他 著/日本リハビリテーション工学協会車いすSIG 訳

《書 評》尾田 敦(弘前大医療短大)

 われわれが介護教室などで,車いすのメカニズムや車いす作製のノウハウなどをよくご存じでない専門家以外の方々に対して指導する際には,細かいゴチャゴチャした内容を伝えるよりも,その使用方法や介助方法等のより実践的な内容が求められてきます。しかし,どちらかというと専門家としての立場から,“こうするべきである”といった押しつけ的な内容になりやすいことに注意しなければいけません。どこが押しつけなのかといわれる方もいらっしゃるかも知れません。車いす使用者の方とよくコミュニケーションをとりながら,車いす使用者の方がどのような介助を望んでいるかをよく把握した上で介助することが必要だと説明した上で,あくまでも“これは基本的な介助方法ですから”と教授していることが多いのではないでしょうか。そこに落とし穴があるのです。所詮,健常者が教えるのは健常者としての見方,考え方に終始しがちで,実際に介助される車いす使用者の方がどのような気持ちを持つかはこちら側の勝手な憶測にしか過ぎないのだということを本書から実感した次第です。

著者は車いすを利用するエンジニア

 本書を著作されたPeter Axelson氏は,自らが車いすを利用するエンジニアで,車いすや多くの支援機器の設計を手がけている方であるとのことです。したがって,この本ではこれまでの書籍とは異なり,車いすの使い方について車いす使用者の立場から系統的に説明されているのが最大の特徴です。具体的には,車いすの一般的な技能に加え,操縦法,緊急時の対処法,特殊な状況での対応などについて,車いすを使用する立場から説明されています。中でも介助の頼み方や,自分の限界を知る,といった内容が前半で解説されています。その他,いたるところで手助けの求め方や役立つヒントがイラストとともに述べられています。本書を読むと,介助を求める車いす使用者の方々の心構えがわかり,介助する側がそれにどのように対応すればよいのかが手にとるようにわかるようになっています。もちろん,ボディメカニクスについてもわかりやすく解説されています。
 現実に,移動に車いすを使用している方たちにとって,日常生活の基本的な作業を行なう上で,車いす操作を習得しているかどうかは非常に重要なことです。ところが,車いすを安全に効率よく使う訓練を受けた人は多くないのが現状のようです。そもそも本書は,車いす利用者が読んで,自分自身の車いす操作能力を高めるためのトレーニングのポイントや,どんな点を介助してもらえばよいのかといった側面で書かれたものです。よって,介助者や障害者の家族,あるいは,車いすに関わる専門家,臨床場面で障害者に対してその操作方法等を指導する立場のセラピストにとっても,非常にわかりやすく役立つものと思われます。

車いすに携わるすべての人に

 本書を翻訳された日本リハビリテーション工学協会車いすSIGでは,数年前にやはりPeter Axelson氏の著作である「車いすの選び方」を翻訳し,車いすSIGの技術資料として頒布されているので,そちらも併せて読んでいただければより知識・技術の幅が拡がるのではないかと思われます。
 本書は原著の内容の忠実な翻訳により,日本ではほとんど遭遇しないと思われることも掲載されているのも確かですが,そこには日米の文化の違いなどが読みとれるかもしれないという訳者の意図も含まれているようです。車いすに関わる方々ならば,ぜひ本書を読んでいただけることを期待したいと思います。
B5・頁160 定価(本体3,200円+税) 医学書院


小児医学の知識を確実に要領よく身につけるのに最適の書

標準小児科学 第4版
前川喜平,辻 芳郎 監修/倉繁隆信,森川昭廣,内山 聖 編集

《書 評》原 寿郎(九大院教授・生殖発達医学専攻成長発達医学分野)

最新の重要な情報をコンパクトに

 本書は,1991年の初版以来,主に学生の教科書として愛用され,今回2000年を迎えるにあたり第4版が刊行された。日進月歩の医学の発展に合わせ,内容的にもかなり改訂されたものとなっている。まず,表紙にならぶ笑顔の子どもたちの写真が,彼らの無限の未来の可能性を感じさせ,小児科の勉強意欲をそそる。
 さて,本書の特色としてあげられるのは,最新で重要な情報をコンパクトに,わかりやすく,しかも正確に伝えることに重点をおいていることである。コンパクトでありながら内容は広範にわたり,かつ詳しい。編集者らは,本書を主に医学生の教科書と位置づけており,上記の点に特に留意されたあとがうかがいしれる。診療とは,まさに目で見ることからはじまるが,本書には写真もふんだんに掲載されている。さらに図や表を豊富に使用し,非常にわかりやすく具体的に説明されており,病態の理解に適している。
 本書の構成は以下の通りである。第1章から第4章までが正常の成長・発達・栄養,小児保健などについて,新しい統計を取り入れて記載されている。第5章の小児診断治療も病歴のとり方から全身の診察法,治療法に至るまで重要ポイントをおさえたすばらしい内容となっている。第6章から第23章までが疾患別各論から構成されているが,多くの新しい執筆者に変更あるいは分担されており,内容的にも積極的にup-dateしようとする意欲を感じる。各論の内容についても基礎となる病態生理などの要点がわかりやすく説明されている。
 小児科学,しかも正常から異常までといった広い範囲について確実かつ要領よく知識を身につけるには最適の書の1つといえる。さらに,本書は医学生のみならず,卒後の小児科研修医にとっても良書と考える。
B5・頁688 定価(本体8,800円+税) 医学書院