医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


がん患者の諸症状をコントロールするためのバイブル

終末期の諸症状からの解放
WHO 編/武田文和 訳

《書 評》渡辺孝子(国際医療福祉大教授)

WHOによるガイドライン

 本書は,世界各国でがん患者の痛みのコントロールのバイブルとも呼ばれた,『Cancer pain relief』の姉妹書としてWHOが1998年末に発行した『Symptom relief in terminal illness』の日本語版である。
 『Cancer pain relief』は,『がんの痛みからの解放』として1987年にその日本語版が金原出版より発行され,がん患者の医療に携わっている多くの医師,看護職,薬剤師などによって読まれ,ベストセラーの仲間入りを果たした。世界全体で22の言語に翻訳され,日本もそうであるように世界中のがん患者を悲惨な痛みから解放するという大きな貢献をした。
 痛みから解放されても,がん患者を苦しめる痛み以外の諸症状は,がん医療を担っている医師と看護職のさらなる課題であった。その関心の高さは,痛み以外の症状コントロールについての研究が盛んなことからも窺うことができ,痛み以外の諸症状のコントロールのガイドラインが待ち望まれていた。そのような中で,パリアティブケアの粋を集めた本書がWHOから出版され,時を経ずして日本語に翻訳された。このことは,長い間がん患者のケアにあたってきた看護職の1人として嬉しい限りである。このWHOのガイドラインは痛み以外の諸症状のコントロールのバイブルになるであろう。

各々の症状への優れた対処法

 本書は進行病期および終末期がん患者を悩ませている主な症状14の原因,治療,予防,看護ケアについての基本的知識を簡潔かつ明瞭に述べている。症状の内容は身体症状が11項目,精神症状が3項目である。
 各々の症状の対処法は,がん末期の症状コントロールを早い病期の場合や他の疾患の症状コントロールと同じ方法で実施してみても効果がなく,時には患者を苦しめることすらあった私たちの過去の体験を一掃する内容である。がん患者に接する医師,看護職,薬剤師の方々にはぜひ本書を読みこなし,それをベッドサイドでフルに活用していただきたいと願わずにはいられない。長期に延命するがん患者が増加するなかで,痛みに次いで痛み以外の症状が適切にコントロールされれば,がんに対する人々の恐怖はきわめて小さくなるはずである。
B6変・頁134 定価(本体1,800円+税) 医学書院


女性の身近な存在としてピルを捉えることができる

低用量ピルハンドブック 安達知子,菅睦男 編集

《書 評》齋藤益子(東邦大医療短大教授)

 女性にとって妊娠するということは,その人の人生を大きく変化させる。産む性として運命づけられた女性が,自分の意志でそれを自由にコントロールすることができるのがピルである。この自由を日本の女性もようやく手にすることができた。
 1999年9月2日,低用量ピルが「避妊薬」として発売された。ピルを求めて女性たちがもっと産婦人科の門を叩くのではないかと考えたが,以外と少ない。根本的な理由は,ピルに対する認識不足ではあるまいか。これまでの副作用神話から脱却できず,今もなお,「ピルは副作用がある」と毛嫌いする傾向が根強く残っているように思う。

気軽に読める「ピルの本」

 ピルの認可に前後して,ピルに関する本は何冊か出版されたが,難解なものや固いイメージがあり,気軽に読めるものが少なく,女性たちが身近な存在としてピルを捉えることのできるような本が待たれていた。
 このたび,安達知子,菅睦雄両氏により医学書院から上梓された『低用量ピルハンドブック』は,まさにこの期待に応えるものである。
 まず,第1章でわが国の避妊法といわれるコンドームが最も多く使用されているが,確実性がないことから人工妊娠中絶が多く,また近年の性感染症の増加も問題になっている。それらの現況をわかりやすくまとめてある。
 第2章から第4章までは,ピルについて,その特徴,種類,避妊機序,服用の実際,効用,副効用,副作用について詳細にまとめてある。わかりやすい図表を用いて説明してあり,ピルに対する理解を容易にしてくれる。改めてピルの副効用を理解し,女性の健康管理という避妊以外でのピルの役割も理解できた。
 そして,最後の第5章では心理・社会的影響としてパートナーとの関係や社会的影響などについて言及している。ここでは,ピルが社会的存在であることを考えさせられ,単に避妊ということではなく,男女の性のあり方やパートナーとの人間関係まで考慮することの重要性をも語っている。

看護職もピルの啓蒙活動を

 また,ピル服用の実際については随所にQ&Aを盛り込んで,より具体的に理解できるように工夫してある。菅氏のホームページには多くの質問が寄せられていると聞くが,これらの質問は実際の女性の“なまの声”であろうと思われる。
 特徴的なものとして,特別にコラムを作成し,ピルの変遷がわかりやすく述べられているのも大変効果的である。随所にみられる図表の表現にも,菅氏の几帳面さやこだわりが感じられる。
 ピルに人生をかけた男である菅氏と,安達氏の女性の幸せを願う心が,この本を書かせたのであろう。両氏に触発されて,われわれ家族計画を指導する立場の看護職も,女性の幸せのために,ピルの啓蒙活動を積極的に行なわなければと思う次第である。
A5・頁120 定価(本体2,000円+税) 医学書院


読後の爽快感が味わえる1冊

プロのナースになるために
メロディ・シェネバート 著/竹尾惠子 監訳

《書 評》山西文子(厚生省・国立病院部政策医療課)

ナースのことがよくわかる

 この本は,ナースになりたい人がナースの仕事がどのようなものかを知るために,ナースになるとどのような生活ができるのか,職業として続けるにはどのような問題が生じているのか,社会的な評価はどうなのか,また,看護の仕事はどんなに素晴らしい感動を覚えるか,将来どんな可能性があるのか,を教えてくれる。
 また,ナースの仕事を知らない素人でも,看護の専門職としての全体像がよく把握できるほど,全体的に内容が網羅されており,他の職業との違いが明確にわかる。ナースたちが普段,何をどのように思ったり考えたりしながら仕事をしているか,から始まって,仕事上での問題点や,権利と責任のあり方,給料について,ナース本来の仕事について,生き甲斐を持って日々を過ごすための方法などなど,非常に細部にわたって書かれており,看護に興味関心のある方にとっては,最適のテキストとなるであろう。

問題解決の糸口が見えてくる

 さらに,すでにナースとして働いている方々にとっては,非常に納得できる話である。ナースの手によって書かれたものだけあって,書かれた内容に共感でき,1つひとつ楽しく,意外に客観的に読める。また,ユーモアあふれる表現であるため,読んだ後に,暗さや重さはなく,さわやかさが残るのも事実である。これだけの重みのある事実をユーモアあふれる表現で淡々と述べており,一気に読めて,読み終わってもさわやかさが残る書物はめずらしい。読みながら思わず笑顔がこぼれるほどであり,楽しめる。また,非常に現実的な話で,アメリカと日本の医療現場の状況がほとんど変わらないことに気づく。
 現在,ナースとして働いている人は,自分の職場の問題点と照らし合わせながら読めば,その問題点が整理でき,解決の糸口が見えてくる。どうしたら解決できるか示唆を与えてくれそうである。
 具体的な内容をちょっと紹介すると,興味あるデータとして,ナースの97%が女性,ステータスが低い仕事をみつけるのは難しいと考えている。米国のナースも日本と同様,報酬も低く,身体の疲れがひどく,つらい仕事で,自分の子どもには勧めないと,自己否定している人が多い。このあたりはお国が異なっても,3Kだとか8Kだとか言われた以前の日本とまったく同様にも受け取れるほど,真実味がある。
 わが国においては,看護の日の制定や記念行事など,看護に関する全体的な動きがウェーブのように進み,国民的にナースに対する理解が大分深まっていることを実感できる。自分の子どもに同じ職業を選択させるナースも増えている。最近の日本では,むしろ不況に強い職業として見直されつつあるようである。
 ナースの皆さん,看護をしていて落ち込んだ時,本書の好きな章から読んでみよう。どこからでも楽しく読めるはず。そして,読み終わって,ほっとさわやかな気持ちになること請け合い。ぜひご一読あれ!!
A5・頁232 定価(本体2,300円+税) 医学書院