医学界新聞

 

〔鼎談〕

乳がん検診におけるマンモグラフィ
その現状と展望

堀田勝平氏
愛知県がんセンター病院・
放射線診断部主任専門員
 〈司会〉
大内憲明氏
東北大学教授・腫瘍外科
 遠藤登喜子氏
国立名古屋病院医長
放射線科


乳がん検診におけるマンモグラフィ:その現状

導入に至るまでの過程

大内<司会> 平成12年度から,自治体レベルの乳がん検診マンモグラフィ併用が謳われましたが,今後どのような方向に進むのか。特に,具体的な精度管理をいかに行なうかが現在直面する課題だと思います。そこで本日は「乳がん検診におけるマモグラフィ:その現状と展望」と題しまして,ご専門の先生方のご意見を伺いたいと思います。まず撮影技術,それから診断,読影に関する現状把握,そして今後増えるであろうマンモグラフィ検診の精度上の問題を解決するためにどのような方策が必要であるか,現在,マンモグラフィ精度管理中央委員会で行なわれている講習会についても検討したいと思います。
 最初にこれまでの経緯について簡単に振り返ってみますと,1987年に視触診による乳がん検診がわが国に導入されましたが,ご存知のように厚生省富永班の生存率の比較による研究により,検診発見群の術後10年生存率が有意に伸びなかったという結果が報告されました。
 それから,1999年に厚生省大内班の症例対照研究で,乳がん死亡に対する検診歴のオッズ比を検討しましたが,視触診による明らかな死亡率減少効果は見出せませんでした。1995年から厚生省がん研究助成金による研究班として大内班が立ち上がり,以降4年間の研究の中で,まず対象年齢,検診間隔等について指針を作成し,それに基づいた検診システムをどう作るかということで,全国的なマンモグラフィ撮影装置や技術レベル,診断する医師の調査などを行ないました。
 そのような経緯を踏まえて,今年3月に厚生省研究班「マンモグラフィによる乳がん検診の推進と精度向上に関する研究」の中で,マンモグラフィ併用検診の導入に関する合意形成が得られたので,4月に導入されることになりました。

読影技術に関する問題点

大内 それではまず最初に,撮影技術については現在どのような状況になっているのかを堀田先生からお願いします。
堀田 平成11年度の5か所の講習会の結果では,施設からの臨床写真を評価したところ約1割程度しか合格する画像がないというのが現状で,これは乳がん検診が専門病院に偏っていることが大きな要因です。
 撮影技術はある程度経験を積まないと向上しませんので,今後検査数が多くなってくれば向上するだろうと思いますが,現状では高いレベルの撮影技術で検査が行なわれている施設は少ないと思います。
大内 施設評価の要因は2点あると思います。1つは撮影装置そのもの,ハードの問題で,そしてソフトの問題としては診療放射線技師の撮影技術だと思いますが,撮影装置の普及等についてはいかがですか。日本医学放射線学会(以下:日医放)が定める仕様基準がありますが,それに合格した装置はどの程度ありますか。
堀田 平成9年度の全国約1200施設の調査では,42%が基準を合格している装置を使用していました。マンモグラフィによる検診が行なわれるということで,ここ1-2年,特に平成11年度(1999年)に更新や新規設置する施設が急速に増えて,前年比では1.5-2倍の装置が購入され,間もなく1000台を超える状況になったので,数量的には問題がなくなったと思います。
大内 今回の通達の中にも,日医放が定める仕様基準に準じたものを使用するという一項が入っていますが,がん検診において機器の仕様基準を定めたのは,初めてはないかと思います。
 遠藤先生,日医放の立場から,撮影機器のミニマム・リクワイメント(Minimum requirement)という点についてはいかがでしょうか。
遠藤 放射線学の観点からは,被写体の中でX線を最もよく通すものが脂肪組織で,その中に乳腺は位置しており,それに皮膚,血管等が混ざっているわけです。
 その乳腺組織と乳がんとのX線の吸収度の違いは非常に小さいのですが,それを画像に表すので,その差を画像にするために機械の基準に関しても,どういうような管球を使わなければいけないとか,受光系についても,大変に事細かな基準が設定されています。
大内 これは国際基準でもありますね。
遠藤 そうですね。

品質管理について

大内 世界23か国の先進国のほとんどが加盟している「国際乳がん検診ネットワーク」という組織がありまして,その中でもマンモグラフィの機種のガイドラインが謳われています。その中にはかなり細かい検査項目が入っています。いわゆる品質管理項目ですが,今回の厚生省研究班でも盛り込んでいます。機器および品質管理について,堀田先生ご意見いただけますか。
堀田 平成11年度の講習会の施設画像評価によると,撮影機器が合格基準を満たしたとしても,最終的な写真が基準を満たしている保証はないわけです。画像が不合格であることは,読影に適さない写真が撮られていることで,先ほどの話のような撮影技術も含めて,やはり画質も現在のところ1割程度しか合格していません。
 したがって画質については,現像処理が最も大きな問題で,特に高速の現像処理に適したフィルムがないために,高速現像処理を行なっている施設は基準を通らない,あるいは線量がオーバーするというような現状があります。全国的な画質調査で,実際に各病院を回ってみても,現像処理が最大の問題ではないかと思います。
 つまり,撮影装置が仕様基準を満たしていても,画質を基準まで到達させなければ,精度が向上しません。精度管理の前に,画質の向上が最大の課題だと思います。
大内 今回,厚生省通達に盛り込まれている施設基準には2項目ありまして,1つは,いま討議されている撮影機器の問題で,さらに堀田先生が強調されました画質,それから線量の基準を満たすことです。いまのお話しの現像処理等についてですが,これは画質の基準ということになりますね。
堀田 そうですね。
大内 線量についてはいかがですか。
堀田 線量については,現在の適切な感光材料,あるいは撮影装置を使えば,日本の100施設のデータでは,十分に基準をクリアしておりまして,国際基準は3mGyですけれども,日本では2mGy以下が90%以上の施設であり,線量的には問題がないと思います。

読影技術の評価:診断放射線技師について

大内 施設基準の第2項に,マンモグラフィを撮影する者は講習会を終了していることが望ましいと盛り込まれましたが,撮影技術についてお聞きします。評価基準に関しては表1のように,評価ランクがA-Dの4段階になっています。
 この分け方について簡単にご説明しますと,Aの方は十分な実力を持ち,かつ講習会も企画でき,指導者となっていただけるような方です。BはB1とB2の2段階で分かれ,B1は指導者とはなりえませんが,技術的には十分だという評価を得ている方です。B2はなお一層の向上がほしいけれども,技術的知識,基礎的知識が到達している方という評価です。Cは技術的にも品質管理においても,あるいはまた知識の面においても不十分な方です。Dは基礎知識が不足しているので,もう一度,研修や知識を習得してくださいというようなランク分けです。
 まず,国内に適正なマンモグラフィを撮影できる診療放射線技師がいまどの程度おられるか,堀田先生にお伺いします。
堀田 何回か講習会を開催して,読影および筆記試験によって評価した結果,A-Bの方々が300名近くになっていますので,その方たちに指導していただければ,数量的には十分になってきたと思います。それから,CとDが200名ぐらいです。
大内 講習会は,どのように行なわれているのでしょうか。
堀田 2日間で,講義は乳がんの臨床,あるいは読影についてで,後はすべて品質管理,あるいはポジショニングについての実技を行なっています。2日間で16時間ほどとっておりますので,かなりハードです。各実習ごとの試験と読影テスト,それから最終的な筆記テストで評価しています。
大内 撮影技術の講習会は,放射線技術学会のマンモグラフィ撮影普及班からですので,すでに5年ほど経過しており,その成果が表れつつあるということでしょうか。

医師に対する教育:講習会とその評価

大内 次に,医師に対する教育についてですが,その前に日本のこれまでの乳がん検診がどうなっていたのかということについて簡単にご説明しますと,ご存知のように,外科医や産婦人科医を中心として視触診断の検診が進めてられてきたという経緯がございます。一方,マンモグラフィ検診はほとんどの国が放射線科医を中心として行なわれてきました。しかし日本においては,乳がん検診に放射線科医が参加されることは非常に稀でした。
 そういうことが背景にありますので,急にマンモグラフィ検診といっても,実際の検診の現場ではマンモグラフィを読めない方が多いというのが現実です。一般の医師が,スムーズにマンモグラフィ検診に参入できるようにするにはどうすればいいかということが大きな課題でした。したがって,厚生省の大内班では,当初からこの教育システムについて研究してきました。そこで,当初から教育のシステム作りに貢献されてきた遠藤先生にこの間の経緯と現状についてお話しいただきたいと思います。
遠藤 大内先生のお話にございました大内班の平成10年度のテーマとして,初心者を対象にどのような形でマンモグラム読影の講習を行なえばよいか,つまり読影力の向上をテーマにして,教育効果の上がる講習会のあり方を検討いたしました。
 その前段階としてさまざまな実験が繰り返されまして,半日程度の講習では困難だということがわかりましたので,研究班の実験では,初日の9時から夜まで,2日目の朝9時から夕方5時まで,丸々2日間をかけての講習を行ないました。そして,読影試験をその前後に行なって解析した結果,初心者でもこの2日間で読影力はアップできるという結果が得られました。そこで,2日間の講習をスタンダードにして,講習会を構築すればよいという方針を作成しました。
 その実験に引き続いて,昨年の前半までに7回,その後今年の冬から春にかけましてさらに6回ほど講習を行ないました。その中で,先ほど評価という話が出ましたが,講習を受けた後の読影力の評価も併せて行なうという方針を作りまして,講習の最後には読影試験を行なっています。
 この評価は,先ほどのお話と同様に,AからDの4段階になっております。現在のところ,Aの評価を受けられていらっしゃる先生方が115名です。Bの方が276名ですので,合計391名の方が即戦力になっていただけるようになっております。
 この講習もやはり2日間かけます。技師の講習と同様,講義ではなくて読影実習ということで,少人数を対象としたグループ講習を行なっています。

所属科によって異なるか

大内 このように講習会でしかるべき評価を得た方が検診に参加されるというのは,わが国のがん検診史上初めてのことです。これをどのように活かしていくかというシステムの問題は後ほど討議したいと思いますが,医師の教育についてはいろいろとご苦労があったと思います。
 わが国の従来の視触診による検診は,実は外科医よりも産婦人科医のほうが多いというデータがあります。したがって,マンモグラフィを読んだことのない医師が含まれてくるわけですが,そのような方に対する教育効果というのは,どの程度期待できるものでしょうか。
遠藤 やはり,乳がんの知識や,X線写真の診断に習熟している方は,欠けているところを一部補うことで済みますので,効果が上がると思います。そういう点では,外科医に対してはX線写真の読み方を,放射線科医に対しては乳がんの関する知識を重点的にお話することで,急速に読影力は向上します。今までの経験から申しますと,婦人科医は乳がんになる年代の女性の乳房に対してあまり馴染みがないようでして,そのどちらも講習をする必要があるという結果を得ております。この2日間よりもう少し時間をかけた講習が必要であろうと把握しております。
 ただ,所属する科によってではなく,興味をもってこれまでに乳房診療に携わっておられた方は,急速によいランクを得ていますので,やはり日々の診療の中での向上心が一番大きな要因になると思います。
大内 遠藤先生のお話では,専門科によらずに前向きに受講される方は効果が期待できるということですが,一般医の先生に対して,遠藤先生から何かアドバイスがありますか。
遠藤 これまでのデータをご紹介させていただきますと,一番最初の婦人科医を対象とした講習会の頃は,まだ意識が低かったと思います。
 講習前のテストではAランクが1名,Bがございせんで,Cが6名,Dが31名という状況でしたが,2日間の講習終了直後の試験では,Aの方はやはりAの評価を取られ,Bランクに14名の方が入っております。そして,Cが13名,Dが12名です。と言うことは,Dの方が2日間でBのランクを取れたということです。一生懸命精進いただければ,これくらいの力をつけることができるわけです。
大内 科を問わないデータですが,最近の読影講習会の結果をみますと,受講生がほぼ50名ほどですが,AないしはBのランク方が70%位にまでいってますから,かなり効果があると私は思っています。
遠藤 そうですね。大内先生が今ご紹介されたA,Bのランクをお取りになる方は外科医,放射線科医がかなりのパーセンテージを占めていますので,一定の素地があると考えております。そういう素地がある場合には,7割の方が2日間の講習でA,Bのランクがお取りになれるわけです。
 先ほど私が紹介しましたのは,乳房は診察しても乳がんの診察はしたことがないという方たちでも,DランクからBになれるということです。
大内 現在かなり精力的に医師に対する読影講習会を展開中ですが,その成果が表れているというわけですね。
 検診の即戦力として期待できるAランク,Bランクの方は現時点で400名近くもおられるということです。平均しますと各都道府県に10名近くおられるということになって,かなり具体的な数字になってきたと言えると思います。

4方式による検診システム

大内 それでは次に,検診全般のシステムについて討論したいと思います。今回の厚生省通達を出すにあたりまして,マンモグラフィの検診方式の検討がされました。いくつか方式がありますが,ダブルチェックが基本です(表2参照)。
 つまり,1次検診でチェックしたものに,さらに2回目のチェックが入るというわけです。そして,精度を保つためのこのダブルチェックの時点で,先ほどからお話されている診断能力の高い人がその役割を果たすと盛り込まれています。
 この点について,遠藤先生からご意見いただきたいと思います。
遠藤 マンモグラフィ検診の精度を高く保には,マンモグラムの読影が最も大きな役割を果たしていることは明らかですが,経験の少ない先生方も,当然従来,検診に携わってきてくださったわけですから,マンモグラムを読めるようになるという努力をしながら検診をしていくというスタイルもあり得ると理解しています。マンモグラムを見ながら触診することで,触診の精度向上も図れますし,またマンモグラムに馴染むことにもなります。
 ただその場合に,二重読影の2番目の読影者の責任は非常に重いことになります。読影センターのような施設に,評価AあるいはBの方たちに読影していただいて,マンモグラムだけで発見できる非常に早期のがんをピックアップしていくシステムを確立する。地方でもその地域に合ったシテスムを作っていただければ,その効果は十分上がるのではないかと思います。
大内 今後,マンモグラフィ検診が社会に根づくためには,マンモグラフィを読みながら視触診を行なっていただきたいというのがわれわれの長年の主張です。したがって,同時方式を原則とすると盛り込んでおりますが,当面の間は,なかなかそうはいかないところが出てくるかと思います。そのために,ダブルチェックを厳密に行なう必要があると思います。
遠藤 もちろん,検診に従事してくださる先生方がすべて十分な読影能力があることが望ましいのですが,現在はA,Bのランクの方が全国で400人ですので,とてもこれを即座に実現するというのは困難で,同時併用検診に従事される先生には,将来講習を受講されることを希望しております。

診療放射線技師の役割:“初めに,よい写真ありき”

大内 今回の撮影技術に関する提言の第2項の中で,診療放射線技師についてかなりきちんと書いてありますが,医師に関しては,ダブルチェックの部分に「読影能力を十分に有するものが読影することが望ましい」となっています。厳しい基準を求めている技師に対して,医師のほうは少し甘いのではないかというご指摘もあります。この点について堀田先生いかがでしょうか。
堀田 マンモグラフィによる検診の精度というのは,第1には写真の質の向上だと思います。どなたが見てもわかるような写真を撮ることが一番重要なポイントです。これに続いて撮影技術,あるいは精度管理,画質と線量に関する精度を保つことが重要な項目だと思いますね。
 したがって,まず質の高い写真を作るところのハードルを高くしておけば,後はダブルチェックというシステムを組んでいただければ,見逃し例は少なくなって,精度が上がると私は思います。
大内 “初めに,よい写真ありき”ということですね。
堀田 そうですね。
大内 よい写真がなければ,どんな優れた読影医でも診断できません。今回,正式な形で診療放射線技師の役割が盛り込まれましたが,こういうことも従来の検診制度にはなかったことです。その結果,今後診療放射線技師の役割は非常に大きくなると思いますが,現場ではいかがでしょうか。
堀田 まず,講習会の受講希望者が格段に増えました。ただ,講習会の受講者の数は限られており,せいぜい50人です。受講希望者すべてに講習会を行なうということはかなり大変ですが,受講されたA,Bのランクの方が施設に戻って,その施設の方を教育してくれるというような形が実現しつつあります。したがって,その方たちが正しい管理,画質,線量の知識,あるいは技術的なところを普及していただければ,急速に精度が上がると思います。

マンモグラフィ精度管理中央委員会・教育研修委員会

大内 1回の受講者数は,医師の場合もだいたい40-50名ですね。これを開催するには財政的な問題やマンパワーの問題もありますが,マンモグラフィ精度管理中央委員会(以下:精中委)の中に教育研修委員会という組織があります。遠藤先生がその委員長ですが,教育研修委員会としましては,要望の多い講習会をどのように開催されていくかご説明いただけますか。
遠藤 講習対象者はやはり1回で40-50人が適当だと思います。いかに需要が高いといっても,1度に100人も教えることは不可能ですので,回数を増やし,しかも全国で講習会を企画していただきたいと考えています。そして,「基本講習プログラムに準じた講習会」〔注(1)〕のプログラムの内容をクリアしている講習会に対しては,すべて従来の教育研修委員会が行なった講習会と同等に取り扱おうと思います。
 また,そのような講習会に対しては講師の派遣,あるいは試験フィルム,教育フィルムの貸与,あるいはプランニングに関しても相談にのっていきたいと準備を進めています。
 講師になっていただけるAランクの先生もずいぶん増えてまいりましたが,Aランクを取れてもすぐに講師になれるわけではありません。やはり教える技術を習得することも必要ですので,講師の教育実習,教師養成の教育プログラムも考えて実践いたしました。今年の調査研究事業の中で,そのような実験的な講師養成も行ない,大変よい結果を得ていますので,今後は多くの講習会が開催できると思います。
大内 今年の4月以降,マンモグラフィ講習会を開催してほしいという依頼が大変多くなりましたが,遠藤先生の今のお話ですと,教育プログラムが完成し,フィルムを含めた教育資料もすでに揃っているので,それに対して柔軟に対応できるとのことです。

乳がん検診におけるマンモグラフィ:今後の展開

撮影技術について

大内 次に,マンモグラフィ撮影の仕方やその読み方に関する教育研修用のマニュアルが必要になるかと思います。これについて,どのような項目が求められているか,先生方のご意見をいただきたいと思います。まず,撮影技術に関して,この1-2年間で新たに浮かんできた問題点がありましたらお願いします。
堀田 まず,2日間の講習で撮影技術を向上させることはかなり無理なことでして,講習終了後ある一定期間,1週間なり2週間なり,技術的なトレーニングができるような施設を作る必要があると思います。
 知識面では,これまでのマニュアルで管理方法はわかるのですが,品質管理については,管理する機器が整備されてないという課題があります。したがって,精度管理を行なう中心的なセンター,管理センターというようなものの設置が必要になろうと思います。これは精度管理中央委員会が施設評価を行なう予定ですが,そこかまたはどこかの機関が画質と線量,あるいは施設評価についての管理をする。また,品質管理をする機器を貸し出すというようなシステムを今後作っていかなければいけないと思います。
大内 「マンモグラフィガイドライン」に「品質管理」の項目がありますね。これを具体的に実現するためには,これからどのようなことすればよいのでしょうか。何か提案はありますか。
堀田 1つは,マニュアルの中に「日常的な管理」と「定期的な品質管理」〔注(2)〕がありますが,日常的な管理というのは測定機器をあまり必要としない管理で,これはアーチファクトの発生防止のための清掃のような管理になろうかと思います。定期的な管理はかなり高額な機器が必要になりますが,大内班で行なっているように,これも線量計がなくてもガラス線量計で評価するというようなことができますので,安くて簡便にできるシステムを,これから考えていくべきだと思います。
大内 遠藤先生,『マンモグラフィガイドライン』(医学書院刊)の中に,マンモグラフィの読み方などが記載されていますが,これについてはいかがでしょうか。
遠藤 ガイドラインは,主に放射線科医や外科医が読影する立場から必要な事項が書かれていますが,検診を遂行するという視点は欠落しております。例えば,精度管理に関する具体的なシステム構築,あるいはそれを維持する時に何が必要であるか,また検診を実施する際には,受検者にどのような説明をするか,ということも必要になります。一般の診療の現場では,「インフォームド・コンセント」ということになりますが,受診に際して,検診そのものの十分な説明をいかに行なうか,などの具体的な事項が不足していると思います。

読影能力の向上・維持のために何が必要か

大内 私が思いますには,マンモグラフィをこれから学習される先生方は,やはり病理像との対応ということも必要ではないかと思います。それがあると大変助かる,かなり早くに理解できるのではないか思いますので,ぜひそういうことも含めて,さらによいマニュアルを作っていただきたいと思っております。
遠藤 読影力を身に付けるためには,本だけではなく,実際に多くのフィルムを読むことが基本であることを強調したいですね。また,受講して実力が向上しても,しばらく読まないでいますと読影力は落ちます。日々マンモグラムに接する,あるいは機会があったら,積極的に読影力をチェックすることが必要であると思います。そのためにも,そのような機会が提供される機構が必要であろうと思います。
 今年の日本乳癌学会では,「読影実習」という企画を作り,50例ほどですが,症例を供覧して,読影していただきました。読み終えたところで採点し,どのくらい正確に読んだかをチェックして,間違えた問題を次のコーナーでもう一度チェック,読み直すわけです。例えば,年に2回でもそういう場を提供する機構がありますと,恒常的に自己チェックできると思います。
大内 遠藤先生のお話のように,1度講習会を受けても,しばらく遠ざかっていると,マンモグラフィ読影能力が落ちてしまうことはよくありますので,絶えずフィルムを読む訓練を忘れずに,いろいろ場で自分を磨いていくことが大事だと思います。
 マンモグラフィ検診は,今後現場の中にどんどん入ってくると思います。ぜひとも講習会などに参加されて,自分の目でマンモグラフィがどういうものかを認識しておくことが重要になるでしょう。以前と違って,最近のマンモグラフィは非常にクオリティーが高くなり,微小な乳がんでも発見することが可能です。より早期にがんが発見できるよう,みなさんに協力していただければと思います。

都道府県の管理指導協議会について

大内 今回(平成12年3月31日)の老健第65号通達は,がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針の改正についてのものですが,この中にマンモグラフィ検診についてかなり詳しく書いてあります。つまり,精度管理について初めて具体的に成人病検診管理指導協議会の活性化が求められています。
 これはどういうことかと言いますと,各都道府県に,先ほど言いました協議会がありますが,その中に5つのがん検診の部会があります。厚生省の通達は,具体的に成人病管理指導協議会の乳癌部会が精度をチェックすることを求めています。実は都道府県によってかなりばらつきがあって,協議会を開催していない県や,あるいは開催されても機能していない県もあります。そこで,あえて協議会の活性化が望ましいと書いてあるのです。これは都道府県が主催しますので,今後は行政レベルの判断で,乳癌部会を通して精度評価のチェックを実行していただくことが最も大きな課題です。この点について,遠藤先生からご意見をいただけますか。
遠藤 いま大内先生のお話にございましたように,私もこの乳癌部会の委員になって数年たちますが,年に1度しか招集が来ません。委員の側から1回では意味がないので,もっと活性化してきちんとやるように提言しています。やはり各団体の代表が全員そういう意識をもって活性化しようという声を届ける必要があると思います。
大内 技師の立場からいかがですか。
堀田 やはり,この成人病指導協議会の中に専門の人を入れていただかないと,何をどのような形でしたらいいのかわからないと思います。専門の代表の方に入っていただいて,実際にどのような形で,どのような方法でやっていくかという具体的なフォーマットがないと,各県がばらばらになってしまうと思います。それから,どのような方法でやるかということも具体的に示したほうがいいと思いますね。
大内 成人病管理指導協議会の乳癌部会は,委員は5-10名位が平均だと思います。いずれも医師か自治体の長で,技師の方は入っていませんね。今回,この老健法の通達の中に診療放射線技師の役割という具体的な形で盛り込まれていますので,ぜひ技師の代表の方が入っていただかないと,精度管理という問題は別な方向に向かってしまうのではないかと危惧しています。

「50歳未満の適正な乳がん検診のあり方に関する研究」

大内 次に,49歳以下の方への施行をどうするかということが大きなテーマです。
 マンモグラフィ導入の対象年齢は50歳以上ですが,実は日本人の乳がんの罹患率のピークは40歳代で,死亡率のピークが55歳です。したがって,40歳代の方の早期発見が重要です。国際的にも,日本を含む東南アジアは40歳代において特異的なパターンでして,欧米にはみられない傾向です。一方欧米では,40歳代のマンモグフィ検診の有効性についてはいろいろ議論あって,まだ確立したとは言えません。
 それでわれわれは常々,日本人女性を対象としたマンモグラフィ検診を40歳代にした場合に,どれだけ効果があるかを考えてきました。40歳代の罹患率を減らすことは社会的な見地から重要であることは疑問の余地はありません。そうしたことから,昨年度から厚生省の研究班として,「50歳未満の適正な乳がん検診のあり方に関する研究班」が発足して,遠藤先生がその班長をつとめておられます。その研究状況について簡単にご説明いただけますか。
遠藤 50歳未満を対象といたしました検診方法に関しては,50歳以上に対して有効であるということからマンモグラフィの検討がスタートいたしております。マンモグラフィ検診が40歳代に適応できないのかということが1つの論点になります。もう1つは,例えば超音波が用いられないかということです。
 マンモグラフィの適応拡大については画質の検討,および実際の検診における成績という2点での検討を行なっています。
 画質に関しては,50歳以上に比べますと40歳代の女性の乳房は乳腺がたくさん残っている場合が多いことは明らかですが,また一方では,画質の向上によって,観察ができないわけではないということも明らかになっております。
 実際の検診における成績ですが,これはいわゆる「宮城トライアル」〔注(3)〕がございます。そこで発見できたことは40歳代のがん発現率は50歳以上と変わらない。ただ,少し要精密検査率が高くなっているという状況です。それでも効果がないわけではなく,むしろ管理をうまくしていけば,1つの検診方になりうるという予測をしています。
 宮城ではその後も研究を続けていらっしゃるので,その経過は私のほうからおうかがいしたいと思います。
大内 宮城トライアルには2期あります。第1期が50歳以上を対象にしまして,第2期が49歳以下を対象にして1995年からスタートしました。1万2000名以上の方が受けられ,乳がんの発見率や進行度分類を50歳以上と比べた場合,発見率も早期乳がんの比率もほとんど変わらないという結果が出ています。
 異なるのは要精密検査率で,40歳代が少し高くなっています。ただ,視触診と併用してますので,視触診で要精検だという方も多いですから,マンモ単独でそう多く増えているということではありませんが,やはり40歳代ですと乳腺濃度が高いので,50歳代よりもより高いレベルの撮影技術が必要になってくると思いますが,宮城トライアルのデータでは,日本の40歳代の女性に対するマンモグラフィ検診は効果が期待できるというのが現状です。
 40歳代のマンモグラフィ検診に関する撮影技術について,特にどのようなことを気をつけたらいいのか,堀田先生のご意見をいただきたいのですが。
堀田 大内先生がおっしゃったように,40歳代は乳腺濃度が高いので,撮影条件や感光材料の精度をもっと上げて,さらに技術的に向上させた撮影をしなければいけないことになります。しかし,日常診療の中で写真を見てみますと,それほど40歳代の映りが悪いということはありせん。現在の急速な撮影機器の進歩,それから感光材料も含めた進歩がありますので,技術的向上により十分な精度が得られると思います。
大内 49歳以下については,日本においては導入の検討が必要であるということから,現在研究中でありますが,現状からしますと,かなり希望が持てるのではないかということです。ただし,今回50歳以上に導入されたマンモグラフィ検診,それが具体的に立ち上がること,しかももっと精度を高めること,その上で50歳未満への導入ということが浮かんでくるのではないかと思います。
 本日はお忙しいところを,どうもありがとうございます。


資料1:乳がんのカテゴリー分類
(1)読影可能
(1)カテゴリー1:異常なし(negative)-異常所見はない
(2)カテゴリー2:良性(benign)-明らかに良性と診断できる所見がある
(3)カテゴリー3:良性,しかし悪性を否定できず(probably benign, but malignancy can't ruled out)良性の可能性が非常に高いが,悪性も否定できない
(4)カテゴリー4:悪性の疑い(suspicious abnormality)-乳がんに典型的な形態ではないが悪性の可能性の高い病変で,細胞診や生検も含めた精査が必要である
(5)カテゴリー5:悪性(highly suggestive of malignancy)-ほぼ乳がんと考えられる病変
(2)読影不能(カテゴリーN)
(1)N-1:要再撮影.(2)N-2:触診判定による

資料2:マンモグラフィによる乳がん検診の指針(ガイドライン)
I.対象,方法,間隔:検診は無症状女性に対して行なうことを原則とする
(1)40-49歳の女性には,年1回の視触診による検診のみ
(2)50歳以上の女性には,2年に1回のマンモグラフィと視触診による検診

II.スクリーニング方法
(1)マンモグラフィによる検診:(1)マンモグラフィ撮影(1方向〔MLO〕撮影,撮 影機器,撮影方法・フィルム管理)(2)検診マンモグラフィの診断(診断用語集, 所見の記載法,判定〔カテゴリー分類〕)
(2)視触診による検診

III.精密検査
(1)精密検査基準(マンモグラフィ検診,視触診による検診のいずれが,または両者 で乳がんを否定できない場合,すなわち判定3以上を要精検とする)
(2)検査項目(視触診,精検マンモグラフィ〔診察マンモグラフィ〕-2方向撮影,乳がん超音波検査,穿刺吸引細胞診)
(3)精密検査機関(上記検査項目の実施が可能な医療機関)           
IV.乳房の自己検診をすすめる

V.精度管理委員会などの設置によりマンモグラフィ検診の精度向上を図ること

表1:マンモグラフィ読影試験評価基準
A カテゴリー感度
特異度 
85%以上
85%以上
B-1 感度
特異度 
80%以上
80%以上
B-2 感度
特異度+特異度 
80%以上
170%以上
C 感度 70%以上
D 感度 70%未満
(1)感度とは,異常(この場合はカテゴリー3以上の病変)を正しく異常として(カテゴリー3以上として)広い上げた率
(2)特異度とは,異常なしを正しく異常とした率で,この場合にはカテゴリー2以下を,正しくカテゴリー2以下と判定した率

【注】
(1)マンモ読影2は,マンモグラムのダブルチェック(二重読影)を意味する
(2)ダブルチェックを行なう医師は,マンモグラフィ読影に関する基本講習プログラムに準じた読影講習会などを終了し,十分な読影能力を有することが望ましい


【注】(1)基本講習プログラムに準じた講習会:検診関連7学会(日本乳癌検診学会,日本乳癌学会,日本医学放射線学会,日本産科婦人科学会,日本放射線技術学会,日本医学物理学会,日本医学物理放射線学会)から構成されるマンモグラフィ検診精度管理中央委員会の教育・研修委員会の行なう講習会などを言う   

【注】(2)「日常的な管理」と「定期的な品質管理」
●日常的な管理(毎日):(1)X線装置の 清掃.(2)暗室の清掃および整理整頓.(3)自動現像機の管理.(4)画像評価(ファントム画像評価とAEC〔Automatic Exposure Control〕作動確認).(5)カセットとスクリーンの清掃    
●定期的な品質管理:(1)フィルム定着の維持(3か月).(2)シャウカステンの確認(6か月,以下同).(3)暗室内でのカブリ.(4)スクリーンとフィルムの密着性.(5)X線装置の圧迫器の確認

【注】(3)宮城トライアル:1989年12月に開始された,マンモグラフィ併用による乳がん検診。斜位1方向撮影,2年に1回検診で,今日の原点となった介入試験(non-randomized trial)