医学界新聞

 

Skillslabを始めよう!-臨床技能教育の向上のために

津田 司氏(三重大教授・総合診療部)インタビュー


日本の臨床教育の現状

―――日本における卒前臨床教育の問題点は?
津田 系統だてて診察手技が教えられていないばかりか,患者さんや家族とのコミュニケーションのとり方など,もっとも基本的な部分がおろそかになっている大学が少なくありません。診断・治療が強調されるあまり,医師として本当に必要な技術をトータルに学べなくなってしまっているのが問題です。
―――OSCEが各大学に導入されつつあり,徐々に変わってきているという印象もありますが?
津田 確かに,OSCEは日本の臨床教育の流れを変えました。しかし,本来は教育あっての評価のはずです。評価法としてのOSCEだけを導入しても,肝心の教育がしっかりしていなくては意味がありません。日本の臨床教育はいま,大きな転換期を迎えているという気がします。
 欧米では,すでに基本的な臨床技能教育の流れができあがっています。例えば,診察手技の学習は(1)模型,(2)学生同士,(3)模擬患者,(4)本物の患者,というように段階的に実習を行ない,身につけていくという具合です。さらに,それらの学習を総合的に行なうSkillslabという施設を設置する動きが約25年前から欧州をはじめ世界の大学に広がってきています。

必要な技能訓練の場

―――Skillslabとは具体的にはどのような施設ですか?
津田 基本的な臨床技能を学習できるような機材・設備を持つ施設です。具体的には,各種技法を学ぶことができるさまざまなビデオソフト,CD-ROM等を備えたAVルームの他,聴診の学習などができるシミュレータや,眼底鏡,耳鏡等の検査の練習,乳房診察,婦人科的内診,心肺蘇生法などの各種訓練が可能な医学モデル(模型)が設置された訓練室を備えます。また,SPなどを用いてコミュニケーション・スキルの訓練ができるような小グループでの学習室を設けている場合も多いです。最も有名なオランダMaastricht大学のSkillslabでは,複数の専属スタッフが常駐して学生の指導にあたっているそうです。
 Skillslabでは,臨床技能を学ぶための資源を1か所に集めることによって,個々の手技,それから得られる所見の意味,などを総合的に学ぶことが可能になり,学習のモチベーションを高めます。
―――Skillslabは日本の医学教育でも活用されるようになるのでしょうか?
津田 そもそも,日本では学生に技能訓練の場があまり与えられてきませんでした。しかし,現在,市民の側からも医学教育のあり方に厳しい視線が浴びせられています。評価法としてのOSCEの普及とも相俟って,今後,基本的な臨床技能の教育は重要視されていくことでしょう。
 その際,臨床技能の習得には,練習の繰り返しが非常に大切なのです。また,患者さんに協力を得るのが難しい手技も模型などを使用して学習する必要があります。Skillslabのような施設は,日本の臨床教育を向上させるために不可欠です。
 例えば,眼底鏡による検査手技1つにしても,学生同士でやると,未熟なうちは患者役の学生が涙をぼろぼろ流し大変です。まして患者さんにそれはできません。米国では学生が患者さんに接する時は前もって承諾書をとるほど気を遣っています。患者さんはモルモットではありません。まず,模型を用いて,次いで学生同士で,さらにはSPを用いた練習を経て,最後に患者さんに協力していただいて訓練する,これが世界の医学教育の趨勢なのです。このような技能習得の流れを日本でも作らなくてはならない時代にさしかかっています。
―――ありがとうございました。