医学界新聞

 

赤十字の理念に基づく看護の実践と学術的発展をめざして

日本赤十字看護学会が発足,第1回学術集会を開催


 さる5月27日,東京・広尾の日本赤十字看護大において,日本赤十字(以下,日赤)看護学会の発会式が行なわれた。

1200名を超える会員が登録

 同学会の発起人会では,21世紀の赤十字看護の課題として,(1)人間の生命と健康にアプローチする看護学の学術水準の向上が望まれる,(2)急速に変わりゆく今日の状況の中で,常に研究によってもたらされる最新の看護学の知見に基づき,教育と実践を展開するために,実践・教育・研究に携わる者が互いに知識を交換・共有し,相互に研鑚しあえる場を作る必要がある,(3)赤十字活動をはじめ,国際的に活躍する看護専門職を育成する中心的教育機関の役割を担い,研究ネットワークを拡充する必要がある,の3点を指摘し,「これらの課題に取り組むためには,英知を集め,それを共有し,真摯に批判しあう学会組織が不可欠」として,赤十字看護の発展に向けた学術的な組織基盤としての学会設立を呼びかけた。
 これに呼応し,1215名が同日(午前)までに,「赤十字の理念に基づき,会員相互の研鑚と交流を図り,看護学の発展をめざす」の目的に賛同し,会員登録をした。
 樋口康子発起人代表(日赤看護大学長)は,「日赤看護大が創立15周年を迎えたこの機を節目として,全国にまたがる赤十字看護関係機関と協力しながら,看護の教育・研究と実践を統合し,推進させていく母体として『日本赤十字看護学会』を設立したい。実践,科学としての看護学を追究し,従来の医療のあり方を客観的に検証し,新しい看護学のあるべき姿を探っていきたい」とその趣旨を述べた。
 なお,発会式では会則の承認,評議員,理事の選出などが行なわれ,樋口氏が理事長に,川島みどり氏(健和会臨床看護学研究所長)が副理事長の任に就いた。また,同学会では学術集会の開催,学会誌の発行などを今後の事業活動にあげた。

「21世紀の赤十字の看護」をテーマに

 同学会は,発会式に引き続き「21世紀の赤十字の看護」をテーマとした第1回学術集会を開催。近衛忠てる氏(日赤学園理事長)による「21世紀の赤十字に期待するもの」と題する特別講演,およびシンポジウム「21世紀の赤十字の看護教育-私たちの構想と私たちの約束」が行なわれた。
 近衛氏は,講演の中で赤十字の理念の根幹である「人道(ヒューマニティ)」の意味について,国際人道法の観点から解説するとともに,赤十字はその中でどうあるべきかを語った。
 一方,「新しい世紀を迎え,さらなる発展を期するために,赤十字看護教育の百有余年の歴史に学びつつ,将来進むべき方向性を明確にし,実現することが看護教育に携わる者に課せられた使命であり,約束である」との趣旨のもと,川島副理事長の司会により行なわれたシンポジウムには,樋口理事長の他,中西睦子氏(神戸市看護大学長),稲田美和氏(日赤看護部長)が登壇。川島氏は,シンポジウムの開始にあたり,「これからの赤十字看護教育はどこにいこうとしているのか,赤十字の特性を活かす教育とは何か,新しい世紀に臨んで,何をめざしどのような変化を社会にもたらすのかを率直に語り合いたい」と述べた。
 まず最初に中西氏は,「専門学校教育では平均的な学生,一定の質のレベルが保てるが,大学教育の場合には学生はお客さまであり,茶髪・ガングロは当たり前。性格に問題があっても一定以上の成績であれば公正原理の原則から,落とすことはできない。偏差値主義の国公立大学入試の仕組みに問題はあるが,成績が一定以上であれば,卒業もできるし,資格も取れるという,社会的,時代的変化に対応せざるを得ない大学教育の現状がある」と指摘。
 その上で,「赤十字看護は過去の経験知を外に向かって情報発信をしていない。蓄積された赤十字の考えを,どこがリンクできるのかを視野に入れた提言・提案を外に向けて発信すべきである」と述べた。
 稲田氏は,「赤十字看護教育の歴史,現状と問題点,将来のビジョン」をテーマに発言。明治23年から始まる日赤の看護婦養成から現在の大学教育までの歴史を概説するとともに,「初期の赤十字精神を,もう一度振り返る必要があるのではないか」と述べた。また,全寮制で,学資その他の費用を負担していた看護婦養成を変更,画期的でもあった平成6年からの全寮制の廃止,平成8年度入学生から養成経費の一部負担制度を適用したことに触れるとともに,明年開設予定の日赤九州国際看護大を筆頭として,数年のうちに20数校にまで増える日赤系の大学教育を展望した。
 氏はさらに,「これまで,赤十字看護教育が他の教育と比して独自性があるのか,ディスカッションされることがなく,理念教育に満足し,理論指導がなかったのではないか」と述べ,「患者を統制するために,自らを統制するという戦前の理念が存在し,改革につながらなかったのではないか。今後はグローバルな視点で自発的に活躍できる看護職が望まれる」とまとめた。
 樋口氏は,1960年からはじまる自らの渡米経験や,日赤看護大学設立にまつわる裏話を披露。渡米中に大学設立構想が伝えられ,教員就任要請の話があったこと,新しい改革に必要な財政的基盤がなく,教員資格などの大学設置の基準に満たないままに,大学化に向けたカリキュラムを模索していたことなどが語られた。
 その後の総合討論を踏まえて,司会の川島氏は「日本赤十字を設立した佐野常民氏の言葉を現代語に直し,振り返ることも今の日赤の役割であろう。かつて日赤の看護婦が世間から一目置いて見られていたのは,それなりの自負と実績があったからである。細やかな心遣いは日赤看護婦のプライドでもあり,評価もされていた。これからはその経験を生かした日赤看護教育のスタンダードを考えていく必要があるのではないか」と示唆し,「次回第2回学術集会(明年5月27-28日,東京,会長=日赤看護大 濱田悦子氏)では,これこそ日赤看護という演題を出していってほしい」との要望を伝え,シンポジウムをまとめた。
 なお,同学会では会員を募るとともに,2001年3月に発刊される「学会誌」への投稿を募集している(締切=9月29日)。
・連絡先:〒150-0012 東京都渋谷区広尾4-1-3 日本赤十字看護大学
「日本赤十字看護学会」事務局
TEL(03)3409-0716/FAX(03)3409-0589
なお,学会誌の投稿は下記へ
「日本赤十字看護学会誌編集委員会」
TEL(03)3409-0265/FAX(03)3409-0595
E-mail:y-kuroda@redcross.ac.jp