医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


PT・OTの知識と技能修得に最適なガイドブック

標準理学療法学・作業療法学 〈専門基礎分野〉 小児科学
奈良 勲,鎌倉矩子 監修/冨田 豊 著

《書 評》竹下研三(鳥取大教授・脳神経小児科学)

 今日の小児科学を1人で記述するのはとても大変である。それほど小児科学は分化,専門化している。しかし,1人で記述された本が非常に読みやすいことも事実である。ことばの流れが統一され,波長が一定していてどこからでも読み始められる。さらに,内容の量的関係から著者が比重を置いている箇所が自然とわかる。
 この本には著者の略歴がないので,私はなぜこのようにこの本の内容がバランスをもって統一され,読みやすいのかを著者の略歴を紹介しながら説明をしてみたい。
 冨田豊先生は,京都大学医学部を昭和50年に卒業,ただちに小児科学教室に入局され,一般小児科学を研修された。その後,新しく新設された島根医科大学小児科学講座の教室作りのため,循環器を専門とされる森忠三教授のもとに移籍された。小児科一般の臨床とともに広く教育に専念されたのである。この本の総論の部分や循環器に関する内容の安定感はこの時代の蓄積によっている。冨田先生はその後,以前から興味を持っておられた小児神経学や発達障害医学をより深く勉強されるため,鳥取大学医学部脳神経小児科に移籍され,講師を務められた。小児神経学を広く研修されるとともに神経生理学を中心とした研究ですばらしい業績をあげられた。この本の先天異常,神経・筋疾患,代謝異常,新生児医療,心身症などの内容はこの時代の経験に基づいている。また,随所にみられる病態からの考え方は,この時代の研究の成果である。その後,冨田先生は,京都の重症心身障害児施設びわこ学園の副園長として勤務された。通常の本にはみられない重症心身障害児の欄はこの時代の経験が生きている。平成7年,広島県立保健福祉短期大学がスタートするとともに乞われ,作業療法学科長として転任された。
 子どもの全体を診ることのできる小児科医であり,安定した教育者であり,臨床指向の研究者であり,小児神経の専門医であり,福祉や発達障害,リハビリテーションにも造詣の深い臨床家である。この本の安定感,読みやすさ,しかも随所にみられる新しい思想は,このような経歴に裏づけされたものであることがよくおわかりいただけると思う。

コメディカル教育に最適

 コメディカルにおける小児医療,それを支える小児科学の教育は,少子化と老齢化の狭間にゆれる日本において非常に重要な位置にある。コメディカルの中でも,リハビリテーションは看護とはお互いを意識しつつ異なった方向で努力せねばならない。まだ歴史の浅いわが国のリハビリテーションが,教育と彼らの努力を通して社会にその実力の認知される日の来ることが待たれるが,この本は彼らの知識と技能修得のスタートになるガイドブックとしてすばらしい役割を果たすものと期待している。欧米で自信を持って医師と議論をたたかわしているPT・OTの姿を思い出しつつこの本の利用を期待したい。
B5・頁224 定価(本体4,000円+税) 医学書院


心電図を学ぶ研修医のための不整脈カンファレンス

症例から学ぶ不整脈カンファレンス
山科 章 著

《書 評》日野原重明(聖路加国際病院名誉院長)

 今般医学書院から,上記のB5判160頁の単行本が出版された。
 不整脈の正しい診断なしには,抗不整脈薬を使うか,使わないかは決定できない。それが日本の内科の前線では,やたらに抗不整脈薬が使われ,そのため心不全患者の容態が悪化したという例も少なからず認められる(近年,心不全患者に抗不整脈薬を使ったものと使わないものの無作為比較試験では,抗不整脈薬を使ったほうが生存率が低かったというアメリカの文献がある)。
 不整脈の心電図診断の学習は,不整脈のテキストを初めから終わりまで読み終わることだけでは,効果が少ない。もちろん基本的なわかりやすいテキストブックは必要であり,その名著は,五十嵐正男元聖路加国際病院副院長と山科章先生との共著で書かれた『不整脈の診かたと治療』(医学書院刊)がある。

研修医とのカンファレンスの記録

 聖路加国際病院では,臨床能力を高める教育はカンファレンスを中心になされ,この方法は非常に効果的であった。山科医長が東京医科大学第2内科教授として転出されるまでの過去10年間に,先生は若い研修医を集めて,朝7時から20分間の心電図カンファレンスをもっておられた。その中から不整脈のケースを選んで質疑応答の記録を整理してまとめられたのが本書である。山科先生の巧みな,また鋭い質問に答えていく研修医の応答は興味深く,先生のペースで,研修医の判断や解釈を聞くこと自体が読者には刺激的であり,よい勉強になる。
 本書は9章からなる。第1章は「正常であると言うには」,第2章は「RR間隔が短くなったら」,第3章は「RR間隔が延びたら」,第4章は「RR間隔が不規則になったら」,第5章は「QRS波形が変化したら」,第6章は,「PR時間が短くなったら」,第7章は「頻脈になったら」,第8章は「非常に不規則な波形になったら」,第9章は「徐脈になったら」という分類である。
 各章のタイトルの下でまず一片の心電図と,患者の主訴と年齢と性別が紹介され,各章について4-10症例のプレゼンテーションがなされ,それに次いで研修医は即座にその判読を求められる。各症例で示される心電図の後にはその不整脈についての討議が書いてある。読者はまずこの心電図を見た上で,自分もこのカンファレンスに参加している気持ちで,診断を考え,討議の内容を読むと,自分の読む目のどの点が優れているか,または劣っているかがよくわかる。自分に生きた知識があるかどうかがわかる。
 毎日1章のペースで読めば9日間で不整脈の読み方が一通りできるようになる。その上で上述の『不整脈の診かたと治療』を読めば理論的な根拠が習得され,初心者にも教えられる自信がつくと思う。

臨床医からナースまで

 循環器専攻の研修医でなくても,少なくとも内科を学ぶ研修医には,この程度の能力はなくてはならない。また,開業して心電計をもってプライマリ・ケアをやっている臨床医は,この程度の能力がないと,心電計は使ってはならないと思う。その意味で本書は日本の臨床医の多くに,そして当然医学生にも,また21世紀に訪問看護を行なうナースにも読んでほしい本である。
B5・頁160 定価(本体3,400円+税) 医学書院


予防医学分野の技術評価の成果と重要性を明示する書

Evidence Based Medicineによる健康診断
矢野栄二,小林廉毅,山岡和枝 編集

《書 評》甲斐一郎(東大教授・健康科学)

 EBM(Evidence Based Medicine)は最近,医学の中で急速に流行してきたが,その内容を考えると,実は,それほど目新しいものではない。特に,予防医学においては,疫学が方法論として不可欠であり,何らかの予防対策の立案,実施,効果判定にあたっては,疫学的なデザインに基づいてデータを収集し,それをもとにして議論を行なうというのは,ごく自然のことであろう。
 EBMの主眼の1つは,医療・保健にかかわる技術についての効果判定を行ない,従来,しばしば習慣的に用いられてきた技術を見直すという点にあると考えられよう。しかしながら,このような技術評価(technology assessment)は,わが国においては十分行なわれてこなかったのが実情である。本書は,健康診断,中でも職域において行なわれている各種の健康診断に焦点をあて,その効果判定を行なうことをめざした意欲的な試みである。
 欧米諸国では,技術評価が数多く行なわれており,例えば,米国においては,技術評価庁(Office of Technology Assessment)が種々の医療・保健の技術について効果の評価を行なってきた。予防医学分野についても,本書で引用されているように,予防サービス研究班(Preventive Services Task Force)の1996年の報告書が著名であり,多数のスクリーニング,健康教育,予防接種の評価について広く文献を集め,メタ・アナリシス(評価研究のreview)を行なっている。むしろ近年,米国においては,あまりに多くの技術評価が行なわれるため,技術評価自体の手間,費用・効果が問題視されるほどになっている。
 これに反し,わが国ではこのような評価を目的とした研究が十分行なわれていなかった。この理由は筆者には今までよくわからなかった。しかし,本書を読む限りにおいて,その原因は,EBMの基本になる疫学的データがまったく存在しなかったということではないように考えられる。むしろ,医療・保健従事者の間に,各種の技術が用いられる際には,当然のこととして,その評価が行なわれなくてはいけないという発想がなかったのが最大の原因なのではないだろうか。

EBMに基づく予防医学

 その意味で本書は,わが国の予防医学分野における技術評価研究の最新の成果を紹介するものであると同時に,予防医学分野における技術評価の重要性を明らかにした,すぐれた啓蒙書でもある。職域における健康診断について,つねづねその効果に疑問を感じておられた現場の方,EBMに基づく予防医学の考え方(いわば,Evidence Based Public Health)について理解しようとしている方にとって最適の書であると考える。
B5・頁168 定価(本体2,500円+税) 医学書院


脳腫瘍の組織診断に携わる病理医の日常業務に最適

脳腫瘍臨床病理カラーアトラス 第2版
日本脳腫瘍病理学会 編集/編集委員=河本圭司,吉田 純,中里洋一

《書 評》秦 順一(慶大教授・病理学)

 日本脳腫瘍病理学会が編集した,待望の『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス 第2版』が上梓された。本書は1988年に初版が出版されている。このたび,日本脳腫瘍病理学会が発足したのを機会に第2版の刊行が計画され,このほど完成した。脳腫瘍病理学会は,そもそも脳神経外科医と病理医が一体となって脳腫瘍の臨床と病理を討議する場であった,脳腫瘍病理研究会を母体としている。
 最近10年間,脳腫瘍の概念は神経発生学の発展とともに,その母細胞の分子細胞生物学的特性が明らかになり,大きく変わってきた。腫瘍の診断も従来の形態学的手法に加えて免疫組織学的手法や遺伝子レベルの解析手段が導入され,病態診断を含めより詳細になされるようになってきた。WHOの分類が近年改訂されたのも,そのような新知見に基づくものと理解される。
 さて,装いも新たになった脳腫瘍臨床病理アトラスは新たな組織分類に基づいて記載されている。取り扱かわれている腫瘍項目数が初版より約2倍に増えており,各腫瘍が原則的に見開き2頁でまとめられている。特筆されるのは,各腫瘍ごとに鮮明なMRI所見と病理組織像に加えて,適切かつ簡潔な記述によって見事にわかりやすく解説されていることである。特に,病理組織像がすべて鮮明なカラー写真となったことにより,従来のアトラスより数段わかりやすくなった。また,解説に分子生物学的知見が加わり,腫瘍の特性がより詳細に理解できるようになっている。各腫瘍の解説は56名の脳腫瘍を専門にしている病理医,脳外科医によって分担執筆されている。
 序にも述べてあるように,アトラスの「命」であるMRI画像および組織像については広く良質のものを求め,厳選された写真が収載されている。本書は分担執筆ではあるが,各腫瘍ごとによく統一された記述法,体裁によって記述されている。これは,分担者の原稿を編集者3名がチェックするとともに,必要に応じてリライトし,アトラス全体の調和をとったためと思われる。

脳腫瘍に興味を持つすべての医師に

 一般病理医にとって,脳腫瘍の組織診断は迅速標本を含めて困難を感じることが少なくない。また,新たな分類になじめないことも多い。本書は,これらの点を十分意識して編集してあり,病院で診断に携わる病理医の日常の診断業務にきわめて有用と考える。さらに,本書は最新のトピックスがコンサイスにまとめられており,脳腫瘍に興味を覚える入門書としての役割もある。このような点から,本書を病理医,脳外科医を含め,脳腫瘍に興味を持たれるすべての先生方に推薦したい。
A4・頁200 定価(本体19,000円+税) 医学書院


スポーツ関係者に必要な知識を盛り込んだテキスト

スポーツ医科学ハンドブック (財)神奈川県体育協会 編集

《書 評》雨宮輝也(日本体育協会スポーツ科学研)

 スポーツ医科学に関係する本は数多く発刊されているが,本書のように(財)神奈川県体育協会が編集するといった方法は大変めずらしい。私には本書を刊行する「きっかけ」として思い当たることがあるので,そのことから触れてみたい。
 日本体育協会は,47都道府県体育協会の協力のもと,組織内にスポーツ医・科学研究班を組織して,平成2-4年に「国体選手の健康管理に関する研究」をまた平成5-11年には「国体選手の医・科学サポートに関する研究」を継続して行なっている。この研究は都道府県の国体選手に対するメディカルチェックの実施にとどまらず,選手強化のための体力,心理,栄養など,多方面から積極的にサポートしている事業である。
 神奈川県体育協会は,47都道府県の中でも国体選手への医・科学サポートを積極的に実施しているモデル的な県である。それは平成10年に「第53回かながわ・ゆめ国体」を開催したことも関係していると思われるが,神奈川県の国体選手は全員がメディカルチェックを受けて大会に出場している。このための県内にいる多くのスポーツドクターの協力を仰いでいる。このような神奈川方式を採用している県は他に見あたらず,各都道府県への影響は大きいものがある。この方式は国体選手へのサポートにとどまらず,これからの生涯スポーツの振興に寄与する所も大であり,国体開催後のソフト面と育成された人材を有効に活用して住民に還元されることになった。
 本書の編集委員や執筆者の方々はいずれも神奈川県体育協会のスポーツ医科学委員会のメンバーでもあり,そのチームワークが本書の刊行の大きな原動力となっていると言っても過言ではない。

スポーツ指導者や医師らに最適

 内容をみると,パート1は子ども(ジュニア)のスポーツ,パート2は競技スポーツ,パート3は生涯スポーツで,各パートともA.けが(外科的疾患),B.病気(内科的疾患)C.運動生理・トレーニング,D.サポートに分類された内容が解説されている。いずれのパートも今日,スポーツ医科学が抱えている重要なテーマであり,スポーツ指導者,スポーツドクター,アスレチックトレーナー,スポーツカウンセラー,スポーツ栄養士などスポーツ関係者に必要とされる内容のテキストブックとして最適であり,ぜひお勧めしたい本である。
 本書の特徴として目につくのは,字が大きくとても読みやすいことである。しかも見開きの中味が左側は解説の文章になっており,右側は主に図表によるイメージ化がはかられるなど,理解しやすい方法を採用している。
 都道府県体育協会が刊行しているスポーツ医・科学報告書も国体選手の医・科学サポートに関する内容であるが,本書のような出版物として刊行されたのは初めてであり,大いに期待される。
A4・頁136 定価(本体3,400円+税) 医学書院


洗練された消化器病診療をめざすために

開業医のための消化器クリニック
多賀須幸男 著

《書 評》荻野知己(おぎの胃腸科クリニック)

 最近,内科,外科の経験ある医師が,その専門性を生かすために,内科,外科の標榜を秘してあえて「消化器クリニック」として開業される場合が多く見られる。医学書院から発行されている「開業医のための」シリーズはそれぞれの専門領域について読みやすい形で記述することを目的にしているが,今回発行された本書はこれらの医師の疑問に答えうる実に時宜を得た著書である。
 消化器科のおもしろいところは,個人でありながら大病院に遜色のない水準で消化器病に対処できることであると著者は述べる。東大卒業後,東大第1内科,国立がんセンター,関東逓信病院で膨大な数の消化器病の患者さんを診断,治療し,多数の内視鏡検査の経験から著作を書かれた著者にとって,現在のクリニック診療生活は,往年の名F1レーサー,あるいは名ラリーストが,街中を軽自動車で運転するような感じかもしれない。渋滞する街中では交通事故に注意し,目的地へは安全,かつ迅速に到着しなければいけない。
 本書は大きく3章に分けて述べられているが,第1章の「患者さんの評価」では,問診,自覚症状,視診,触診などが筆者の体験からわかりやすく,ああそうだったのかと思わせる。肝前面に腸管が入り込むChilaiditi's signを思い出させていただいたり,直腸指診,便潜血の意義,有効性など筆者には教訓的であった。
 画像診断では著者はX線診断装置がなくてもほとんど困らない,実際著者の診療所にはX線診断装置は置いてないが,必要な時は外注されている。それに替わるものとして超音波診断についての蘊蓄が語られている。画面の横で患者さんに説明しながら検査する著者の笑顔が浮かんでくる。内視鏡では,著者が勧める内視鏡技師資格を持つよき介助者とともに行なう二人法の必要性について述べられる。往年の名ラリーストのよきナビゲーターにたとえるべきであろう。二人法での上部消化管検査では食道診断での見逃しが少なく表在癌の診断に有効であったこと,下部消化管では,見逃しの少ないていねいな検査を行なえる点を強調している。パンエンドスコピーの先駆者である著者の話はいろいろと賛否はあると思うが,体験に基づいていて説得性がある。消化器癌の検診への対応,ピロリ菌への考え方など,迷える消化器開業医によきアドバイスを与えてくれる。

開業医のここはという疑問に答える

 第3章の治療では治療成績に基づいた医療(Evidence Based Medicine:EBM)が求められるが,開業医として患者さんに治療方針のアドバイスをする立場から,各種登録調査報告に基づいて,食道,胃,大腸,肝胆膵癌など消化器癌患者さんへの対応について語る。失敗例を述べつつ,やり過ぎのないように患者さんの身になった意見である。著者は胃を切った患者さんの会(アルファー・クラブ)の顧問をしておられるが,術後障害の治療,GERD,胃炎,慢性肝炎の治療,針刺し事故への対応など,開業医のここはという疑問に答えてくれる。
 洗練された消化器病診療をめざすため書かれた本書は,日常の消化器病医の反省点をえぐり出す。診療所ではお1人で毎日,4-5例の上部内視鏡と1例以上の全結腸内視鏡をされている。著者は「患者を捌く」という言葉が大嫌いで,ていねいに検査しているだけと仰るが,なかなかこれだけのことは私にはできない。医学部を出て,初心者マークで出発する人,いきなりバスの運転手になった人など,いろいろな立場の医師に目安を与えてくれる本書だが,よきナビゲーター(介助者)が見つからない私の内視鏡診断は大丈夫かな?
A5・頁160 定価(本体3,400円+税) 医学書院