医学界新聞

 

「リスクマネジメントと看護記録」をテーマに

第3回朝日看護セミナー開催


 第3回朝日看護セミナー(共催=朝日新聞社/医学書院)が,さる4月1日に,東京・有楽町の有楽町朝日ホールにて,「リスクマネジメントと看護記録」をテーマに開催された。朝日看護セミナーは,昨(1999)年3月に第1回「クリティカル・パスのすべて」(名古屋市)を,10月には第2回「情報開示時代の看護記録」(神戸市)を開催し,多くの参加者から好評を得てきた。今回,東京での開催には定員を大幅に超える申込みがあり,会場には700名を上回る参加者が詰めかけた。
 なお,今セミナーでの講演は,(1)「情報開示時代の看護記録」(聖路加看護大 岩井郁子氏),(2)「ヒヤリ・ハット報告を事故防止にどう役立てるか」(杏林大保健学部 川村治子氏),(3)「医療裁判と看護記録」(日大法医学 押田茂實氏)の3題。各演者からは,それぞれにユニークなパフォーマンスによる講演が行なわれた。

  

看護記録と診療録の統合を提言

 岩井氏は,昨(1999)年7月の医療審議会中間報告から,「診療情報等の提供のあり方」を紹介。その基本的な考えは,「インフォームドコンセント(以下,IC)の理念に基づく医療の推進」であるとし,ICのあり方に関する歴史を概観。ICの前提となるのは,「患者を自律した存在として尊重すること」であり,1960年代から始まるアメリカの消費者運動から「権利」として獲得してきたものである。また,ICのめざすものは「自律の促進,健康の維持・回復,相互作用の促進(Appelbaum,1978)」であるが,「お任せ医療が国民の意識の根底にある日本では,患者の権利はまだ認められていない。組織そのものが考えていかなければならない課題」と指摘。医療者自身が既存のパターナリズムの医療から脱却する必要性を示唆した。
 また,「診療情報提供の1手段が診療記録開示であり,ICの概念が情報提供の目的と意義の鍵である」として,情報提供の一環としての診療記録開示をめぐる課題にも触れた。診療記録には,診療録(カルテ)の他,看護記録,処方箋,検査記録,X線写真が含まれる。看護記録は,法に基づく公的記録ではなく,業務記録である。そのためもあるのか,岩井氏はICの実態調査から「診療記録の開示に賛成を示す医師は約8割いるが,看護記録を開示すべきとする医師は46%,また国民もほぼ同数の49%であり,半数以上の医師,国民は看護記録の開示までを望んでいないことが明らかにされた」と報告。その理由の1つに「プライバシーの問題を多く含んだ内容のため」をあげた。
 その上で,看護記録の多くは経時記録となっているが,「情報開示の時代」には患者の情報を的確に得ることができ,「問題が明確に示されるSOAPで書かれた記録が主流となる」と示唆。21世紀を迎えるにあたって,「責任性,確実性,完全性,守秘性,常時利用可能な正確な情報がわかりやすく,同じ内容を医療者,患者(家族)が共有できる記録」であることが求められる。そのためにはガイドラインも必要になるが,「現在統合できる診療記録はPOSである」として,「看護記録と診療録の統合」を提言した。

誰もが事故を起こす危険性はある

 一方,川村氏は1万数千件もの「ヒヤリ・ハット報告」を分析。実例をあげながら「事故防止に役立てる方策」について解説した。
 川村氏は,1:29:300の「ヒヤリ・ハットの法則」(図参照)を示し,「誰にも損害を与えていないヒヤリ・ハット事例なら,オープンにして皆と話し合うことができる」と述べ,医療事故に至る前の事例から予防策を講じる重要性を説いた。また,ヒヤリ・ハット事例を看護職間の共通の認識とすべく,「報告書を記述し,組織としてどう活かすかを考えなくてはいけない」と述べるとともに,「個々人は事故を起こす危険性があることを根底に考えるべき」とも示唆した。
 一方で,これまでの事故を分析すると注射・転倒事故はどの病院でも多く起きているが,事故はどのような経過でどう起こったのか,またなぜ防げたのかの教訓をフィードバックするためにも,報告書の分析は必要であることを解説。その際に定量的分析は意味をなさず,定数的分析が重要であり,「分析していくとある種の傾向がわかってくる」とも述べた。

実例から学ぶ医療事故

 また押田氏は,実際の医療裁判から「看護職が実刑を受けた」ケースをクイズ形式で紹介。これは,最近起きた医療事故から,看護者・医師の責任,損害賠償の程度などを会場の参加者全員に問うもの。頻発する医療事故の中で,看護者が専門職としての責務が大きく問われるようになってきたことを示し,看護職も責任を持たなければならない実態を語った。
 なお,医療事故は(1)薬物,(2)異形輸血,(3)内部遺物,(4)手術部での人違い,左右違いが多いことを報告し,「注射器は全国的に色別に統一すべき」と指摘した。また,「医師の指示は文書ですること」などを含めたマニュアルは厚生省が作成すべきとしながら,「各病院単位でも作成すべきであるが,人事考査にヒヤリ・ハット記録を入れないこと」と述べ,ヒヤリ・ハット記録は医療者間の共有とすることが予防につながることを示唆した。
 一方,医療紛争の際に証拠ともなる看護記録に関して,「自分自身を守るものであり,自分の正当性を証明するもの」と定義づけし,カルテ開示の重要性も指摘した。
 なお,今回に引き続き「実践にいかすリスクマネジメント」をテーマとした第4回「朝日看護セミナー」が,きたる9月3日に福岡市で開催される。詳しくは,弊紙および弊社発行の看護系雑誌に随時掲載される案内をご覧いただきたい。