医学界新聞

 

第22回日本生物学的精神医学会開催


 さる3月30日-4月1日,第22会日本生物学的精神医学会が,鈴木二郎会長(東邦大)のもと,東京・千代田区の日本都市センター会館において開催された。
 この学会では,鈴木氏による会長講演「精神疾患の病因と精神症状」,若手プレシンポジウム「病因解明への新しいアプローチ-夢と未来と現在」(座長=東医歯大 大久保善朗氏,東大 加藤忠史氏)や,日本神経化学会との合同企画シンポジウム「神経回路網のダイナミックス-精神疾患への新しいアプローチを求めて」(司会=東医歯大 西川徹氏,広島大 山脇成人氏)などの企画が用意され,多くの参加者を集めた。本紙ではシンポジウム「精神分裂病の素因(遺伝)と生物学的機能」(司会=帝京大 南光進一郎氏,山梨医大 神庭重信氏)を中心に報告したい。

精神分裂病の病因

 初めに大野裕氏(慶大)は,双生児研究を通して人間の性格形成における遺伝との影響に関する研究を概説。一般住民を対象とした「慶應義塾双生児研究プロジェクト」の研究協力者262組の双生児を対象とした遺伝分析の結果や,最新の知見を交えて報告。氏は,「精神疾患発症には遺伝と環境の影響が考えられることから,治療者として患者に接する時には,生物学的モデルに心理・社会的要因や物理環境などを加えたモデルが必要」と結んだ。

神経発達異常と精神分裂病

 胎生期における種々の因子など人生早期から始まる神経発達異常が精神分裂病の病因に関与するという「神経障害発達仮説」を背景に,功刀浩氏(帝京大)は,精神分裂病の神経発達障害における産科的合併症の関与に着目。母子手帳から得られた情報・所見をもとに,分裂症群312名と健常者群517名と比較した結果から,早産・低体重出生は,精神分裂病発症の弱い危険因子となる可能性を明らかにした。これらは「低酸素や虚血性の脳障害を生じることが,神経障害の原因となるのでは」と推測。最後に氏は,「精神分裂病は脳性麻痺,知的発達障害,てんかんなどの周産期障害によって生じる一連の病態の中に含まれる可能性がある」と述べた。
 次いで岡崎祐士氏(三重大)が,学童期の精神分裂病患者とその同胞25組を対象に,小中学校時の学業成績と教師による行動評価を資料としたケース・コントロール研究を概説。解析の結果,患者の成績は同胞より低い傾向があり,特に小学校低学年では図工のデザイン,体育技能,器用さなどが有意に低く,行動では自信や自主性の乏しさ,緊張の強さなど対人関係の不適応などが認められたことを明らかにした。氏は,「この結果が素因か修飾因子かの証明は困難だが,少なくとも小学校低学年から分裂病患者と非罹患の同胞に比べて成績と行動に差違が存在すること,また技能,表現の困難や対人関係の困難は分裂病発症後にもみられる特徴であり,分裂病罹患や経過に影響する要因ではないか」と考察した。

脳の形態変化

 最後に大久保善朗氏は,MRI研究から精神分裂病発病後の脳の形態変化について検討。分裂病患者28例と正常ボランティア18例を0,4,10年ごとにMRI検査を施行し,対照群と比較したところ,分裂症群では10年間における脳室の拡大率と大脳の萎縮率が有意に大きいという結果が認められた。氏は,「分裂病患者における脳の形態変化は発症後も継続してみられることから,発症原因を神経発達障害だけに求めるのは困難」と指摘。また,発症後の脳の萎縮について,「アポトーシスによる神経細胞の消失,シナプスの過剰な間引きなどが考えられる」と結論した。