医学界新聞

 

「診療記録開示時代のPOS」をテーマに

第22回日本POS医療学会大会開催


 第22回日本POS医療学会大会が,さる3月18-19日の両日,岩井郁子会長(聖路加看護大)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。なお,女性看護職が初めて大会長を務めた今回のメインテーマは「診療記録開示時代のPOS-21世紀の幕開け」とした(関連記事を掲載)。

医療情報開示をめぐるプログラム

 同学会大会では,岩井会長が座長を務めた大会副会長講演「医療の良心・POS」(くらしき作陽大 篠田知章氏)を皮切りに,特別講演「医療情報開示と診療記録-情報開示は誰のためか」(佐賀医大 只野寿太郎氏),フォーラム「診療記録開示時代のPOS-POSをめぐる課題」(司会=日医大岩崎榮氏,佐賀医大病院 坂井靖子氏),および「診療記録開示の目的にかなうPOS-患者とともに問題解決に取り組むために」をテーマとした,8グループによるワークショップが行なわれた。
 また,ワークショップと並行して開催された教育講演は,(1)「診療情報の提供および診療記録の開示-その目的と意義」(岩井氏),(2)「POSのための診療記録」(聖路加看護大 植村研一氏),(3)「EBM時代のPOS」(京大 福井次矢氏)の3題。
 さらに,一般演題12題の発表や「医療への患者参加を促進する情報公開と従事者教育の基盤整備に関する研究会」(代表=岩井氏)による「医療への患者参加を促進する情報提供に関する実態調査」の報告セッションの他,シンポジウム「ワークショップの報告と討議」(司会=名大 中木高夫氏,武蔵野短大森美智子氏),昨年文化功労賞を受けた日野原重明氏(聖路加国際病院)による学会のプログラムを締めくくる会頭講演「POSはどこから来て,どこにおり,どこへ行くか」も行なわれた。

初の一般市民によるセッションを企画

 なお,8つのワークショップの内訳は下記の通り。A「基礎情報および問題リスト」,B「初期計画(クリティカルパスを含む)」,C「経過記録(SOAPノート,フォーカスケアノート等を含む)」,D「臨床薬剤師とPOS」,E「外来における記録」,F「訪問看護における記録」,G「診療情報管理士と記録管理をめぐる課題」,H「積極的に医療に参加するために」。
 Hグループは,1979年から始まる同学会の歴史中で,初めて市民主体によるセッション。鈴木千介氏(ピースハウス病院ボランティア),高須克子氏(聖路加国際病院ボランティア),田畑恭子氏(同),林茂氏(熊切産婦人科)をファシリテーターに,主として(1)医療に参加するための心構えや知識,コツ等の準備,(2)病気に関することなど,自分の情報をどう伝えるか,(3)医療側に何を求めるのか,を中心に話し合われ,「自分のことをよく把握していないと医療に参加できない」などの意見が出された。また本セッションには日野原会頭や篠田副大会長が参加しサジェスションを与えた。
 次回は,明年3月24-25日の両日,西島利一大会長(神戸市立中央病院)のもと,「21世紀にPOSのこころを生かす」をメインテーマに,神戸市で開催される。


フォーラム「診察記録開示時代のPOS」

第22回日本POS医療学会大会より

 さる3月18-19日の両日に,横浜市のパシフィコ横浜で開催された第22回日本POS医療学会大会(大会長=聖路加看護大 岩井郁子氏)では,メインテーマの「診療記録開示時代のPOS-21世紀の幕開け」を受けて,さまざまなプログラムが企画された(参照)。

21世紀の診療記録のあり方

 特別講演「医療情報開示と診療記録-情報開示は誰のためか」を行なった只野寿太郎氏(佐賀医大)は,21世紀の医療のキーワードとして「情報公開と透明性の確保」を掲げ,(1)国民の医療に対する不信,不満の解消,(2)医療機関や医師の選択材料の提供,(3)医療のムダの排除と効率化の推進,(4)医療の公共性,公益性に対する理解,(5)医療の場への市場原理の導入の5点をあげ,その理由と課題を概説した。
 また只野氏は,「患者が医療に求めるのは,自分の病気が的確な治療によって治ることであり,患者にとって質の高い医療とは,患者がよく治る医療」と指摘。医療に対する要求の変遷を語るとともに,(1)診療録の記録保管が診療科ごとにまかされ,密室の作業になっている,(2)診療録の法的保管期間が5年と短い,(3)診療録の内容をチェックする第3者による監査システムがないの3点を,診療録からみた日本の臨床医学が評価されない理由とした。
 一方その解決策としては,(1)POS方式を採用し,診療情報管理士による管理,(2)診療録の永久保管を義務づける,(3)公平な第 3者による監査システムを導入することを提示。「診療記録は,今後ますますコンピュータ化されていく。また,情報開示にともなうインフォームドコンセントのしやすいカルテは,全国統一したもので医療者にも患者にも理解できる『わかる日本語』による記載が求められる」と述べ,診療情報提供の環境整備の必要性や,情報公開につながる21世紀の診療記録のあり方を解説した。

刺激的なナースの「情報依存症」

 フォーラム「診療記録開示時代のPOS-POSをめぐる課題」では,司会の岩崎榮氏(日医大)が冒頭に,日本医師会が1999年4月に提示した「診療録の望ましいあり方」の中に,「SOAPによるPOMR方式の推奨」の一項があると紹介。また,今国会で成立が見込まれている第4次医療法の改正に,医師の卒後臨床研修の必修化(2003年より実施)の項目も含まれることに触れ,卒後臨床研修の目的として「インフォームドコンセントの習得,診療録が的確に書ける」などが盛り込まれていることを述べた。さらに氏は,患者への適切な情報提供となる「診療録管理体制加算」が,診療報酬の改正で新設されることも明らかとした。
 これらを背景として,同フォーラムでは(1)医師,(2)看護職,(3)診療情報管理士,(4)患者・家族という4つの立場から演者が登壇し,それぞれに意見を述べた。
 まず(1)では,中村定敏氏(小倉第一病院長)が「マルチ時代の情報開示とPOS」を口演。小倉第一病院は,患者の枕許にカルテが置かれ,いち早く開示をしている病院として知られている。中村氏からは,早期からコンピュータを導入し,POS方式による患者の問題リストを作成,コンピュータ判断に基づく所期計画を立案,実施していること。診療記録,看護記録,食事記録などが同一の用紙に,患者の目の前で記載されている実態などが報告された。
 (2)からは,井部俊子氏(聖路加国際病院副院長)が,客観的な診断がつきにくいナースの「情報依存症」について語った。井部氏によると,その症状は「同僚やカルテに情報を委ねる」ことであり,確定診断は「私は情報がないと働けません」とのセリフが発せられることでつく。また,予後は良好で「臨床経験4年を過ぎると自然治癒する(らしい)」と紹介され,反響を呼んだ。
 また(3)の重田イサ子氏(佐賀医大)は,「情報開示時代にはますますPOSの威力が発揮できる」と述べるとともに,「医療者と患者の信頼関係が良好となる情報開示に向けて,POSを導入する病院が増える」と予測。
 さらに(4)の鈴木千介氏(ピースハウス病院ボランティア)は,「情報開示にあたっては,難しい専門用語を多用するのではなく,平易な言葉で正しい情報を伝えてほしい」と医療者への要望を述べた。
 総合討論の場では,日野原会頭が「医療者が患者の情報を得る場合には,家族歴や病歴とることを優先しているが,現在の患者の状態を把握し訴えを聞くことが優先されなければならない」と,治療を行なう中から情報を得る重要性を指摘。
 また,岩崎氏はフォーラムの結びにあたり,在院日数の短縮化に伴い「情報を収集しているうちに患者は退院,という時代になってくるだろう」と述べた。