医学界新聞

 

〔寄稿〕

国際保健学生フォーラム

第4回全国会「地球の保健室1999」


●概要報告
 伊藤淳
(企画・編集部長,横浜市立大学医学部4年)

 国際保健学生フォーラムの第4回全国会「地球の保健室1999」が,東京代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで昨(1999)年の12月4-5日に開催されました。
 私たちの団体は1996年に「国際保健や途上国医療へ興味を持つ学生たちのネットワークを作る」目的で設立されました。普段はメーリングリストで情報交換を行なっているのですが,最大のイベントは年に1回開催される全国会です。全国会では講師を招いての講演会やワークショップ形式でのディスカッション,また個人や団体が普段の活動の成果を発表する分科会,そして夜はざっくばらんに参加者同士が語り合える交流会が行なわれます。
 以下では,全国会での企画について紹介します。

基調講演

 初日は開会式の後,基調講演「国際保健-誰のため?何のため?(International Health ?  For Whom and For What ?)」と題して若井晋先生(東大教授)にお話しいただきました。先生は「生と死」における公平,不公平の視点から世界の医療,貧困,戦争のお話をされました。また最後に学生へのメッセージとして,「アルマ・アタ宣言で唱えられている包括的PHC(プライマリ・ヘルスケア)の実現のために,学生の間は医学の専門だけを学習するのではなく,どうしたら社会・経済・政治的貧困が根絶するのか,またそこで果たす公衆衛生の役割を学ぶことも大切である」と述べられました。

ワークショップ

 ワークショップでは4つのテーマを用意しました。そのうちの1つ「愛は世界を救えるか-ラクの物語を通して」では,インドのとある貧しい農村で起こった赤ん坊の死をケースとして,その原因をディスカッションしました。
 参加者は,赤ん坊の死の背景に「栄養失調」という直接的な原因の他にも「貧困」「差別」「文化・伝統」「教育」といった事柄が複雑に絡み合っていることに気づいたようでした。また,「文化が子どもを殺すとき(医療人類学)」では,国際保健医療協力の現場でしばしば直面するジレンマを,「文化」を扱うケーススタディを用いてディスカッションしました。命を守ることが常に正義なのか,参加者は非常に重いテーマを存分に議論できたようです。その他の「エイズ,今私たちができること」,「疑似国際会議体験-福祉vs財政」も好評でした。

分科会

 分科会はどの発表も個性的で聞き応えのあるものばかりでした。特に国際保健通信代表の高山義浩氏(山口大)*による「プライマリ・ヘルスケア-そして,僕たちの地図とコンパス」は,世界中を旅されている氏が,現在の,そしてこれからの国際保健を体験談を踏まえてわかりやすく解説したもので,この発表は最も聴講者が多く,立ち見客が教室からあふれるほどでした。

国際保健に興味を持つ学生のみなさんへ

 国際保健に興味を持っているが何をやったらいいかわからない,といった方々に国際保健活動のきっかけ作りを行なうのも全国会の目的の1つです。実際,全国会参加者の半数以上が国際保健の勉強を始めたばかりの「初心者」です。彼らは,例えばあるサークルのスタディツアーの発表を聞いたり,個人で何か国も渡り歩いていて各国の医療状況に詳しい「つわ者」の話を聞いたりすることで,自分にもできる「何か」を見出すのです。その「何か」とは,途上国を旅することかもしれませんし,国内ではどこかのNGOの会員になることかもしれません。
 次回の第5回全国会は,今年の12月頃に仙台周辺での開催を考えております。この「週刊医学界新聞」を読まれたみなさんもぜひ国際保健学生フォーラムに参加して,学生にできる国際保健を一緒に考えてみませんか?
 フォーラムの企画・運営を行なうスタッフも募集しています。一緒にフォーラムを作ってみませんか。普通に参加するのとはまた違った感動と喜びが得られると思います。フォーラムに関する質問・意見・この文章を読んでの感想などは電子メールでforum-adm@umin.ac.jpまでどうぞ。
 メーリングリスト(電子メールによる情報交換システム)に登録を希望される方は,(1)氏名,(2)所属(学校・学部・学年,または勤務先),(3)メールアドレスを添えて登録希望の旨をjun-jun@netpro.ne.jpまでお送りください。なお,ホームページはhttp://square.umin.ac.jp/forum/です。


●国際保健学生フォーラム第4回全国会を終えて
 高橋亮太
(第4代代表,防衛医科大学5年)

 さて,昨年末に代々木のオリンピックセンターにて行なわれました国際保健学生フォーラム第4回全国会は,北は北海道,南は九州・沖縄まで全国から256名の参加者のもと無事に終えることができました。1年間代表として活動してきて思うことなど書いてみたいと思います。

「国際保健」とは何?

 国際保健とは何でしょうか?実際に国際保健という言葉はあまり,聞きなれない言葉だと思います。
 端的に言うと,海外での医療,途上国での医療・保健問題を扱う分野のことです。具体的には国境なき医師団等のNGOの行なう緊急医療援助や青年海外協力隊の活動などを思い浮かべるとわかりやすいと思いますが,国境を越えた海外の国々,特に発展途上国の国々に対する医療協力や医療援助を主に扱っています。
 国際保健の「保健」という言葉は,人が生活する上で最も基本になることです。それは例えば「外から帰ったら手を洗おう」など,本当に身近なことから確立されていくものなのです。ですから,途上国に行って保健の質の低さを感じた人が「何かできないものかなあ」くらいに興味を持って始めるようなことなのです。みなさんも途上国を特集したテレビ番組などを通じてこのような思いを持ったことはありませんか。

私が国際保健に興味を持つ理由

 私が普段よく思うのは,日本人の国際問題に対する意識の低さです。日本,さらに日本人として,この国際社会で生き抜いていくためには,世界標準の意識レベルと適応能力が必要であると考え,私は学生フォーラムの活動をしています。
 そして,実際に学生フォーラムで活動をしていると同じ思いを持った学生に出会うことがあります。彼らの多くはNGOの主催するスタディツアーに参加するとか,個人的に海外の病院などを訪問・見学するなどして現地の医療状況を肌で理解し,実際に働く時の参考に,あるいは将来医師となる時の経験にするといった活動を行なっています。
 海外に出れば,日本の常識はまったく通用しません。水が貴重な資源であるとか,極度の貧困が身体に与える影響などは言葉で理解するのに限界があります。国際保健に関わっていこうという学生にとって海外での現場を見学し,実際に体験することは非常に重要な学習なのです。
 国際保健に興味のある学生はここ数年で確実に増えてきています。このような環境の中,海外での経験を分かち合い,体験を共有し合い,情報交換を行なう場がフォーラムなのです。すなわち,本フォーラムで同じ目的を持った学生と出会うことがさらに自分たちの活動を高めることにつながっていくのです。

「出会い」をきっかけに

 全国会の開会式の際にもお話しさせていただきましたが,今回の学生フォーラムのテーマとして「出会い」を添えました。その意味には,学生フォーラムはその2日間だけで終わるのではなく,その日の「出会い」をきっかけにこれからともにがんばっていきましょう,という意味があるのです。出会った者どうし,自分とは違った考え方をする人の意見を聞いて視野を広げることができますし,お互いの活動を参考にして自分たちの活動を発展させることもできます。
 そして全国会で出会った多くの方から,学生フォーラムの存在自体の重要性を,すなわち,このような集まりがいつまでも続くことを願っていると言っていただきました。僕も実にそう思います。国際保健に興味ある学生が,将来に対しての熱い思いを持った学生が集まる場,として学生フォーラムは素晴らしい「出会い」をいつまでもプロデュースする団体であり続けたいと思っています。
 今年の第5回全国会も次期代表の高橋健介(弘前大学医学部3年)のもと始動しました。どうぞ皆様,今年の学生フォーラムもご期待ください。
 最後になりますが,この国際保健学生フォーラム第4回全国会を開催するにあたりわれわれ第4回全国会運営スタッフを支えてくださった皆様に対して,また長い間ボランティアとしての活動にも関わらず文句ひとつ言わず,みんなが仲良くまとまって運営することができたスタッフのみんなに,感謝の意を表したいと思います。本当にありがとうございました。

*国際保健通信代表の高山義浩氏(山口大学医学部5年)による「国際保健-新しいパラダイムが始まる」(1998年5月-99年12月,本紙にて連載)は,国際保健とは何かを実体験に基づきわかりやすく解説した内容で,好評でした。ぜひ参考にしてください。