医学界新聞

 

精神療法におけるグループと語りの役割を検討

第17回日本集団精神療法学会開催


 さる3月17-18日,東京・府中市の安田生命アカデミアにおいて,第17回日本集団精神療法学会が開催された。
 今学会の会長には,初めて看護職から武井麻子氏(日赤看護大教授)が選ばれ,「グループで語ることの意味」をテーマにしたシンポジウムや,特別講演「ナラティヴ・コミュニティとしてのグループ」(東京学芸大 野口裕二氏)などが行なわれた(本紙2月28日付,第2377号に関連記事掲載)。


病は物語,治療は物語の書き換え

 野口氏による特別講演「ナラティヴ・コミュニティとしてのグループ」では,ナラティヴ(語り)・コミュニティにおける集団療法の有効性を報告。精神疾患に対して“病=自己の物語”,“治療・回復=物語の書き換え”,“グループ=書き換えを促進する場”と捉え,「セラピストは患者と対等な立場で,書き換えの方向性を一緒に考えるだけ。最近は地域社会的なコミュニティではなく,同じ悩みを持つ者同士の制約されたコミュニティが増えており,書き換えしやすくなっている」と語った。

「グループ」で「語る」こと

 シンポジウム「グループで語ることの意味」(司会=川越同仁会病院 鈴木純一氏,武井会長)では,まず池田真人氏(聖路加国際病院)が,分裂病圏の患者に対する集団精神療法について事例を紹介。実際に交わされた患者との会話を再現し,「グループの中に相互の同質性と異質性が存在し,意外なことも受け入れられるような安全性があるグループでの集団療法は,個人面接療法にもよい影響を与える」と報告し,「語り手が次々と現れ,他者の話が聞けるようになるのが理想のグループ」と述べた。
 一方,菊池義人氏(堀川公平会野添病院)は“うつ病”に対する集団精神療法に関して口演。周囲の士気をそぎ,怠けているのではないかと思われ,ますます悪い方向へ進んでしまう「うつ」の悪循環を“ブラックホール”にたとえ,「グループ内で安心してうつを語り,受け入れ,うつに向き合うことで,ブラックホールの中心にある光に到達する」と語った。
 続く樋田洋子氏(赤城高原ホスピタル)は,「嗜癖問題を持つ家族のグループの中での語り」と題し,アルコール依存症や摂食障害などの患者を持つ家族のグループを紹介。それぞれの親子関係・夫婦関係を開放的に話し合い,アドバイスし合えるグループの有効性を検討し,「他のメンバーのまねをすることで,患者との関係を改善し,後になってその行動の意味がわかる場合もある」ことなどを発表した。
 フロアを含めた総合討論は1時間に及び,有効なグループの枠組みや,グループを維持する方法,セラピストが語らないことの意味,などについて活発な意見が交わされた。