医学界新聞

 

「集中治療医学の近未来」を論議

第27回日本集中治療医学会総会開催


 第27回日本集中治療医学会総会が,さる3月2-4日の3日間,島田康弘会長(名大教授)のもと,「集中治療を問い直す-医学と医療の調和」をメインテーマに,名古屋市の名古屋国際会議場で開催された(2381号で一部既報)。

3職種部門からなる多彩なプログラム

 今学会では,医師部門,看護部門,臨床工学技士部門それぞれに特別講演や招請講演などが企画された他,3部門合同特別講演「教養の新しい形」(共立女子大学長 阿部謹也氏),および医師・看護部門合同企画によるシンポジウム「集中治療と心の問題-患者中心の集中治療をめざして」(座長=日本医大病院 原千鶴氏,名市大教授勝屋弘忠氏)が行なわれた。また,各種セミナーや一般社会に対する広報活動の一環として,「21世紀の集中治療-患者中心の医療をめざして」をテーマとした市民公開講座(講師=東医歯大名誉教授 天羽敬祐氏,作家 五木寛之氏)も企画された。
 なお,医師部門では特別講演「高血圧の病態と治療-evidence-based medicineの実践」(愛媛大病院長 日和田邦男氏)をはじめ,海外からの招請講演7題,「重症心不全治療に対する外科治療の現状と展望」(阪大 松田暉氏)など教育講演5題。シンポジウムは「近未来の集中治療医学展望-先端医学の集中治療への応用」(座長=自治医大教授 窪田達也氏,島田会長)など5つのテーマ。さらにパネルディスカッション「肺損傷における治療方略」(座長=帝京大 大村昭人氏,昭和大安本和正氏),および「移植医療における集中治療の役割」(座長=国立循環器病センター 公文啓二氏,コメンテーター 杏林大 嶋崎修次氏)などの8セッションのワークショップも開かれた。本号では,会長講演が冒頭に位置づけられたシンポジウム「近未来の集中治療医学展望」の話題を報告する。

近未来の集中治療医学を論議

 同シンポジウムで会長講演「近未来の集中治療医学展望-Dream Comes」を行なった島田氏は,「依然,集中治療の現場は家族から隔離され,治療内容を含めて著しく閉鎖された空間である」と指摘。その上で日本集中治療医学会のこれからのあるべき方向性について,「医療全般に当てはまるもの」としながらも,「患者にとって安心,納得,満足の得られる集中治療の実現」を到達すべき目標にあげた。そのためには行動目標の設定が必要として,(1)RCTを中心とした治療法や遺伝子,ゲノム科学,テレメディシンの開発など,高い臨床レベル,(2)費用対予後分析とその公表,(3)国レベルでの医療環境の整備,(4)集中治療の物理的側面などから解説を加えた。
 さらに,「集中治療の領域で,日本から世界的に認められた報告はまれ。患者のためにも,集中治療医の英知を集めた治療法の開発は大いに進める必要がある。そのためには,学会を中心とした他施設共同研究体制を作ることをはじめ,データを蓄積する体制作り,倫理指針,近未来集中治療施設モデルの早期設計,医療行政との連携などが必要」と述べ,近未来の提言とした。

各専門領域から先端医療を語る

 一方藤島清太郎氏(慶大)は,「近未来の抗Mediator療法-ARDS,MODSの救命率向上をめざして」を口演。現在の抗Mediator療法の開発現状を報告するとともに,後半では近未来の抗Mediator療法として,SNP(遺伝子多型)解析に基づく患者特性に応じた日本人特有のオーダー(テーラー)メイド療法の可能性を論じた。
 島田光生氏(九大)は,九大医学部と工学部が共同開発研究を進めている「ハイブリット型人工肝を用いた急性肝不全治療の可能性」について報告。急性肝不全に対する有効な治療法は肝移植とは認知されているものの,日本では移植が積極的に行なわれていない。そのような中,島田氏は現在開発中の人工肝臓,および人工肝臓開発の意義について解説。ブタ肝細胞利用の可能性や異種間移植の可能性についても触れた他,「人工肝臓には非生物学的なものと生物学的な肝細胞を用いた中間型が必要」と述べた。その上で,島田氏らが開発中の3次元培養したブタ肝細胞と体外循環回路から構成されているハイブリット型人工肝臓(HAL)の有効性について,「米国のHALに比較して約4倍の肝細胞量が確認された」と報告。このことから「急性肝不全治療が可能」とし,昨年倫理委員会に臨床応用の申請をしたこと明らかにした。
 また,山本勇氏(阪大)は「薬物医療におけるPharmacogeneticsの応用」を口演。薬物代謝酵素SNPと活性酵素との関係が数種の酵素で明らかになったとして,「薬物投与前に各個人の薬物代謝酵素のSNPを把握することが,薬物治療最適化の1方法として考えられる」と述べた。
 澤芳樹氏(阪大)は「循環器領域における遺伝子治療へのアプローチ」を検討。遺伝子治療の循環器領域への応用として,(1)心筋保護法の開発,(2)血管病変・動脈硬化病変の予防などをあげた。その上で「心筋への遺伝子導入により,心不全などへの遺伝子治療の可能性が示唆された」と報告した。