医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護職として働く上で力になる英語教材

医学英単語ワークブック レナルド・ノロ 編集 

《書 評》松浦啓一(聖マリア病院顧問・前佐賀医大学長)

 カナダ,ケベック州のLaval大学で政治学を修められたレナルド・ノロさんは,1986年に日本に居を移し,1990年より聖マリア学院短期大学の講師を経て助教授となられた。
 看護短大の学生に英語を教えるカリキュラムをいかに組むか,1クラス60-120名の学生に英会話を教えることには多くの困難がある。ノロ先生はいろいろと考えた末,「学生が看護を学んでいくと同時に,将来看護婦(士)として働いていく上で力になれる,貢献できるような英語の教育カリキュラムを作ろう」と決心された。
 このワークブックは,著者がこの決意を基本にして学生に英語を教えてきた経験と工夫から生まれてきた成果をまとめたものである。

学ぶ者への配慮が随所に

 第1章「医学用語」の項で特筆すべきことは,医学用語の由来を学び,語源を知ることに重点を置いたことである。医学英語には独特なところがあり,初心者は先ず戸惑う。それを効果的に理解させる画期的な教材ができあがったと言ってよい。特に日本人が話すとなかなか通じがたい言葉となる単語や熟語には,話す間(ま)とアクセントが付記されている。
 第2章「解剖学用語」の項では,看護学生その他の医療関係学生が必要とする基本はほとんど記載されている。コミュニケーションをとるには十分であろう。
 第3章「医療機器」。隣接の実習病院・聖マリア病院には,国際医療協力センターやJICAなどの要請を受けて,アジアをはじめ国外から数多くの看護婦をはじめ各職種の技術者などが,実習や見学者として訪れてくる。ノロ先生は,頼まれれば可能な限り時間をさいて通訳の労をとってくださる。仕事上の基本的な用語をしっかり身につけておくことの重要性をかねがね説いておられたので,医療機器も重要であると,この本には別項を設け加えている。写真とともにやさしい英語で説明できるような文面を載せているのは,会話の教材としての深い配慮からであろう。特にアンダーラインの箇所はAppendix 1で意味を確認できるようにしてあるなど,心憎いほどである。
 本書は日本の学生をよく知り,把握して,学生のために心をこめた英語教育を,工夫しながら実践,指導してきたノロ先生だからできたワークブックである。数々の画期的な内容が盛られ,隅々にまで配慮された今までに類を見ない良書である。単に学生に限らず,指導者には教材の1つに,また医師には,座右に置いて時に開いてみるといろいろなことが再確認できて,満足感を与えてくれる1冊となると思い,心から推薦する次第である。
B5・頁184 定価(本体1,900円+税) 医学書院


病態生理学が「信じられないほど簡単に」理解できる

これだけは知っておきたい 疾病のなりたち 井上 泰 訳

《書 評》前田環(阪医大・病理学)

 本書は原題“Pathophysiology made Incredibly Easy”にふさわしく,病態生理学を「信じられないほど簡単に」理解できるように編集された書物である。
 第1章は細胞や疾病の発症の基本,第2章から第5章までは癌,感染症,免疫,遺伝の総論的事項,第6章以下は消化器系,循環器系など系統別に,合計13章から構成されている。各章の冒頭には「学習目標」が掲げられ,続いて基礎概念が解説される。第2章以下では厳選された代表的疾患についての「病態生理」「臨床症状と徴候」「診断に必要な検査」によって本文が形成される。さらに「病気と闘う」と名づけられた治療紹介欄や「今度こそ,わかった!」という色刷りの別枠が目を引く。最後に「理解度チェック」とその評価で学習目標の達成状態が試される。

視覚的な工夫が理解を促進

 文章は簡潔,必要事項は箇条書きで頭に入りやすい。ページの3分の1から半分を占めるイラストやフローチャートは,視覚的に理解しやすいように工夫が凝らされている。口絵のカラーイラストも美しく印象的で,映像文化で育った若い医療関係者にとっては,学習を開始する際の足がかりとなるのではないだろうか。教師の立場からは,そのままオーバーヘッドプロジェクターで投影して講義に使いたくなるが,付け足すべき解説までマンガ付きの吹き出しで平易に記してあるので,教師の出る幕がなさそうだ。
 一例をあげると,アレルギーの最も重篤な状態であるアナフィラキシーショックの項では,原因や機序の本文解説に加えて「緊急事態であり,まずエピネフリン」という対処が色刷りで強調される。欄外では「反射的に反応しないとダメ!」と案内役のキャラクターが厳しい表情を見せている。「アナフィラキシーを理解する」ためのフローチャートでは,病態生理と症状の関係が一目で概観できるようになっている。章末ではアナフィラキシーの原因となる抗原として頻度の高いものが問われて,記憶を補強する。この「理解度チェック」の正解率に対する「評価」は楽しいコメントで,各章の内容を印象づけるために有効な小道具であろう。だじゃれを含んでいて訳者の苦労が窺われる。取りあげられた疾患はいずれも,タイトルの「疾病のなりたち」にとどまらず,診断の糸口や治療方法など臨床的事項にまで言及されている。そのため初心者は興味をかきたてられ,大いにモチベーションが与えられるに違いない。他方,日々の業務に追われた現場でも基本に立ち戻る復習書として,気軽に利用できる読みやすさを備えている。例えば,心筋梗塞における心臓の経時的変化とそれに対応する心電図の変化を対比させた口絵のカラーイラストは,ルーチン化した心電図のチェックに本来の意義を思い出させてくれるだろう。
 本書はアメリカで発行されたIncredibly Easyシリーズの翻訳であり,翻訳書であるがゆえの弱点は免れない。発症頻度や死亡率がアメリカの統計で,感染症ではライム病,狂犬病は詳しいが,癌の章で日本に多い胃癌が取りあげられていない。また「理解度チェック」でDNAを含む細胞内小器官で核が正解とだけ書いてある。「パラサイトイブ」がブームとなった日本ではミトコンドリアDNAが一般的常識となってしまった。トピックス的に少し触れてほしかった気がする。
 とはいえ基礎知識としては「DNAは核にある」で十分であり,「これだけは知っておきたい」内容にしぼっている点は長所である。「ガン」や「遺伝について」でとりあげられた疾患は,系統別の章では再掲しないという思い切った構成も同様である。肺癌が「呼吸器系」の章になく,血友病が「血液について」の章に見つからないため戸惑うかもしれないが,充実した索引を活用することで問題は解決するはずである。「病態生理学」を学ぶための教科書としてはもちろん,病態生理以外の科目や,日常のさまざまな場面にも役に立つ有用な1冊と言えよう。
A4変・頁396定価(本体3,800円+税) 医学書院


従来の看護管理の常識を覆す

解決志向の看護管理 長谷川啓三 編集

《書 評》小野直広(東北福祉大教授・心理学)

 変わった題名の本が出版された。ちょっと見には,どんな内容か想像できない。しかし,読んでみると,意外におもしろい。これから看護の世界に問題が起きても,かたっぱしから解決できそうな期待をいだかせる。「ほんまかいな?」と,疑いたくなるくらい調子がいい。
 看護分野における問題への対応を説く本を,かりに「類書」と呼ぶとすれば,本書は確かに類書にないものを持っている。第1に,応用範囲が広い。看護のどんな分野に起こる問題でも,きっと対応の手がかりが得られそうだ。そして,この技法や理論を少しでも学べば,それだけ,実用性が高まるだろう。たくさん学べば,たくさん応用できる,ということである。多くの解決事例が,その可能性を物語っている。
 第2に,解決の発想法が,きわめてユニークである。例えば,「水中毒」で16年間も看護者を悩ませてきた患者の問題が,ある時突然解決する。意外にも,それまでの「飲水管理」を,看護側が放棄する方針を打ち出したら,患者が自制するようになった。このように,どの事例も従来の看護管理の常識をひっくりかえす発想にみちみちている。それでいて,難しくない。「小さい」「受け入れやすい」「おもしろい」を,解決の方針とするからである。
 本書の基本的立場は,システム論である。看護の世界を「生き物」のようにみる,やわらかいシステム論とでも言おうか。もし,システムに故障が起きたら,ナースの手で直すことができる。いや,ナースが手を貸したら,看護システムが,自分で直してしまう。それが「解決志向」の筋道である。本書のこのような考え方が,今後,看護界にどんな波紋を呼ぶか,興味深いものがある。

「解決志向」法の極意とは?

 解決志向の先駆者として,ナイチンゲールをあげている。ただし,「勇気あるヒューマニスト」といった,これまでのイメージとは違う。彼女たちが,クリミヤの戦線にボランティア従軍看護婦をめざして乗りこんだ時,軍の司令官はにべもなく拒絶した。それをどのように克服したか。どなたもよく,ごぞんじであろう。
 彼女は,軍の無理解を世論に訴えたりはしなかった。意外にも,女性の特技としての炊事,洗濯,掃除などを申し出た。自然に軍の信頼をかち得て,目的をとげることができた。つまり,無理をせず,楽しく,気がついたら,問題が解決していた。これぞ,「解決志向」法の極意なのである。
 編者は,わが国における解決志向短期療法の草分けであり,中心的研究者。国際的にも指導的役割を果たしている。また,共著者たちは,看護や臨床心理の専門家で,編者を中心に長く研究・研修を発展させてきた人びと。執筆者として,ぴったりした構成である。
A5・頁126 定価(本体2,200円+税) 医学書院