医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


実践家ならではの慧眼が随所に光る

訪問看護の知識とスキル 長谷川美津子 著

《書 評》川村佐和子(都立保健科学大教授・看護学)

 本書は基礎編と技術編から構成されている。基礎編には,訪問看護は“患者・家族の了解と決定”が行なわれて初めて可能になるという,決定権についての考え方や,医療環境からみた在宅療養の条件,家族の役割,家族の疲労,看護婦の対応の仕方などの「訪問看護の基本となるもの」から,感染予防,脳血管障害者への理学療法,肺炎の防止,褥瘡ケア,心肺蘇生法,そして医師との“距離”と報告,指示受けといった基礎的な知識や技術,さらには訪問看護婦が陥りやすいジレンマ等についても述べられている。
 技術編では次の7つのテーマ,すなわち,(1)尿道留置カテーテル,(2)在宅経腸栄養法,(3)在宅中心静脈栄養法,(4)癌性疼痛の緩和,(5)在宅酸素療法,(6)気管切開創の長期管理と気管内吸引法,(7)在宅人工呼吸療法を取り上げ,看護技術について解説すると同時に,なぜそのようなケアを行なうのか,その根拠についても触れられている。一読して,その内容は訪問看護を長年実践してきた著者ならではのものであることがわかる。
 著者は病棟での看護実践を経た後,カナダのモントリオールで脳神経専門病院の専門看護婦のコースを受けた。その後,訪問看護婦として都立神経病院や東京都世田谷区で働きつつ学び,修士号を得た後,諸外国での訪問看護の実践を学習し,とくに神経系疾患を持つ人々の看護や感染予防に詳しい。現在はセコムの医療事業部で指導的な立場で活躍している。
 著者は,この経歴からみてすぐわかるように,実践の人であり,かつ研究能力を養った人である。研究的な視点で実践家が書いた文章は実務に即していると同時に,よく整理された構成を持っていて,簡潔で読みやすい。さらに,図表等によって読者の理解を容易にするなどの配慮もなされており,そのまま実行手順書として利用できるものになっている。

訪問看護が看護を変える

 著者は自身の経験から,看護婦の仕事の評価を最も目に見える形で示すことができるのは在宅看護の領域であり,自立した責任ある仕事は看護婦を育て,看護の仕事の中身を変え,そして社会を動かす源になる。その第一歩が訪問看護実践であると考えている。訪問看護実践が看護の発展にどのような影響をもたらすかを見通している著者の慧眼が本書の随所に光っている。
 現在,訪問看護に携わっている看護婦,訪問看護婦を志している看護婦,そして訪問看護婦とともに働いている人々にとって,示唆に富んだ実践書である。
B5・頁168 定価(本体2,400円+税) 医学書院


誰もが「よりよく生きる力」を持っている

気になる子どものサポート
多様な視点を持つ保健指導
 小澤道子,柳澤尚代 著

《書 評》山中久美子(大阪府立看護大教授)

 このたび,『気になる子どものサポート-多様な視点を持つ保健指導』が医学書院より発刊された。著者は,長年にわたって保健所での乳幼児健診や保健婦活動に従事され,現在は看護教育でご活躍のお2人で,本書は『保健婦雑誌』に連載(1994年8月号-1997年12月号)されたものを,順序を組み替え新しく章立てし加筆訂正したものである。
 本書の特徴は,気になる子どものサポートについて,子どもや親が心配や悩みを持ちながらも各々が「よりよく生きる力」を持っていることを前提とし,子どもや親のその力が発揮しやすい状態に協働することを理念として書かれている。また,著者が現場で対話し実践した事例を振り返って,「気になる行為や行動」を見直すという省察の結果として,まとめられていることが特徴である。省察することにより,実践に基づいた理論的裏づけの確認ができ,次への有効な支援につながる。

自由で創造性のある保健指導

 本書は,「第1章:気になる子どもの保健指導」「第2章:家族のなかで育つ子ども-生活リズムのみだれ,赤ちゃんがえり,ことばの遅れなど」「第3章:発達していく子ども-よく泣く,じっとしない,指しゃぶりなど」「第4章:社会のなかで育つ子ども-おけいこごと,虐待が疑われる子ども,いじめられる子どもなど」の4章から構成されている。
 1章は「気になる」ことの意味,保健指導という人と人とのかかわりで感じる「気になる」ことは,個人を尊重しながらも個人を越えて普遍的な事柄を含んでいること,プロセスとしての保健指導の重要性,指導を行なう上で多様な視点の必要性や保健婦個々の価値観の尊重など,保健指導の哲学とでもいうべき著者の基本的姿勢がホットな文章で述べられている。
 2-4章は,「気になる」項目ごとに実践での代表的な事例を紹介し,その子どもを支援する際の行動の意味を理解する枠組みや,視点的情報(保健指導のガイドライン)の提供という構成で書かれている。したがって,「気になる」その子どもの姿を想定しやすく,行動の理解が容易である。また,保健指導にありがちな「……でなければならない」という指導のあり方ではなく,フレキシブルに対応することの重要性が述べられている。すなわち,自由で創造性のある保健指導が可能であり,実践書としての目的に大いに役立つ。さらに,本書は実践の言語化の試みとして活用でき,実践現場において保健指導の質の発展につながることが期待できる。
 この20-30年間にわが国の家族形態は縮小化し,また女性の高学歴化や社会進出の増加は子育て期にある母親たちの意識を変え,子育て不安の大きな原因になっている。困ったとき,相談できる相手も近くにいない。また,育児書の氾濫は不安を解消するどころか不安を助長する原因になっていることが多い。小児医療において情緒障害の子どもや慢性疾患の子ども,被虐待の子どもが増えてきている現状や,学校や子ども集団で深刻な問題になっている不登校・登校拒否,いじめの増加,非行の若年化などは,現代社会が子どもにも親にも「生きにくい」社会環境であるという悲痛な訴えではなかろうか。乳幼児期の親子の関係は,ライフコースの出発点である。この子ども時期の過ごし方が後の人生を左右するといっても過言ではない。最近,子育て支援活動が全国的に広がりつつある。病児保育への関心も高まっている。医療関係者のみならず誰もが,側に置いて活用させたい1冊が本書である。
A5・頁216 定価(本体1,800円+税) 医学書院


確かで,信頼できる痴呆の成書

新 老人のぼけの臨床 柄澤昭秀 著

《書 評》七田惠子(東海大教授・健康科学部)

 このたび,1981年に刊行された『老人のぼけの臨床』が全面改訂され,『新 老人のぼけの臨床』となって医学書院から刊行されました。
 著者は精神医学者柄澤昭秀博士であり,私が東京都老人総合研究所に在職中,同研究所副所長として重責の任につかれ,「痴呆プロジェクト研究」で一緒に研究させていただきました。そんなご縁でこのたび,『新 老人のぼけの臨床』の書評をさせていただくことはとても光栄に存じます。

経験,知識,愛情が凝縮されている

 先生は精神科の臨床家として豊富な経験を持っておられ,患者や家族の心がよくわかる方です。研究者としても厳しい目で研究を続けてこられました。調査研究データを分析するに当たっても曖昧な妥協はされず,疫学研究に多大な業績を積まれました。研究所を退職されてからは教育者として後輩を育成され,現在も活躍しておられます。1981年に『老人のぼけの臨床』が刊行されてから18年を経過して,今回『新 老人のぼけの臨床』として一新されたとのことですが,この間に老年精神医学は大いに進歩しました。先生ご自身もさらに研究を重ねられて,豊富な経験と新しい知識と愛情をもってまとめあげられたのがこの本に凝縮されていると思います。特にレベルの高い内容を平易に書きあげられたのは,できるだけ多くの人に理解してもらいたいとのお考えと拝察します。
 1章では,痴呆の定義と痴呆と区別すべき疾患や状態を明確に述べ,2章では,老化と痴呆の相違点を,著者自身が実施した100歳調査をはじめ,高齢者に関係するたくさんの調査成績をもとに,老年学専門家として論述し,3章では,東京都在住高齢者の調査結果を疫学的にまとめ,有病率や痴呆の危険因子を明らかにされました。ユニークなのは病前人格やライフスタイルとの関係を疫学的に分析している点です。
 4章では,豊富な臨床経験をもとに精神症状や行動障害,経過と予後について記述, 5章では,老年期の痴呆性疾患について述べ,6章では,痴呆の診断・評価の手順や諸検査の実際について,この領域をこれから学ぼうとする医師に限らず,ケアに関わる人たちにも参考になります。
 7章では,治療とケアに焦点を絞り,薬物療法,日常の身体的・心理的ケア,精神的リハビリテーション,行動療法,症状と薬剤効果の関係など新知識が紹介されています。8章では,患者,家族介護者への社会的支援の必要性と対策を著者の調査結果や相談事業の体験から適切に助言しています。9章では,痴呆の予防と老年期精神保健について,科学的根拠に基づいた危険因子をあげ,その予防の可能性を言及しています。
 そして,随所に「メモ」として,重要項目を囲み記事で説明してあり,理解がしやすいよう配慮されているのも魅力です。
 この『新 老人のぼけの臨床』は,確かで,信頼できる痴呆の成書です。医師,保健婦,看護婦,介護職,その他老人のケアに関係する者が仕事をしていく上で,研究者が調査研究を遂行するにあたって,学生が新規に学習していくに際して座右の書にしたい1冊です。
A5・頁184 定価(本体2,600円+税) 医学書院


医療事故をとおして,看護とは何かを考える

医療事故 第2版
看護の法と倫理の視点から
 石井トク 著

《書 評》塚本友栄(国際医療福祉大・看護学)

看護の果たすべき責任

 医療事故。あってはならない,あるいは繰り返されてはならないと,事故発生のたびに,関係者が肝に銘じ,分析と対策を検討してきたであろうにも関わらず,その発生は後を絶たない。むしろ訴訟件数からみれば,増加の一途である。横浜市立大学医学部附属病院での手術患者取り違え事故,都立広尾病院での薬物取り違え注射事故などは,まだ記憶に新しい。報道される情報だけに頼った分析では,事故原因について釈然としない思いが残りがちだ。
 本書は,3章からなる構成で,「第3章事例の分析-看護とは」では,全体の4分の3に近い頁を割き,20の事例について1つひとつ詳細に検討されている。
 まず,「事例の概要」「患者側の訴え」「判決」「判決の理由」が簡潔に述べられ,引き続く「解説」によって読者は判決のより深い理解に導かれる。さらに「この事例から学ぶこと」として,医師・看護婦らの有罪・無罪の判決に関係なく,事例に見え隠れしている看護上の問題が取り上げられ,看護婦が医師と同様に,患者の生命に直接関与する専門職として,その責任をどうとらえ,果たしていくかについて言及している。個々の事例は,患者・家族の言動や状況,医師・看護職の判断・言動が時系列で整理されているため,患者・家族がさらされた痛みや苦悩までが伝わってくる。
 そして「いったいなぜこのようなことが起こってしまったのか」という問いは,事故を未然に防ぐために看護婦が取るべき行動・なすべき判断とは何だったのかという疑問に発展し,自然と「看護とは何か」という,看護の原点に立ち返って考えることに導かれていく。私は,本章「事例の分析」の副題が,「看護とは」とされているのは,そのような読者の思考の流れこそが,著者の意図していることだからなのだと考えた。

事故防止を検討するために

 また,各事例の最後に「討議」のポイントが示され,医療・教育の場で医療事故について討議され,事故を防止する方策について検討されやすいよう配慮されている。本書の活用に関する著者の意図が感じ取れる。
 この他,「第1章 看護婦と医療事故」では,今回の改訂によって,医療事故の中でも決して件数の少なくない周産期領域の問題に着目した「助産婦の責任」が追加され,看護婦の社会的責務と業務上の責任についてわかりやすく述べられている。
 「第2章 医療事故防止のために」では,看護学生の臨床実習中における事故の問題も含めて,医療事故を防ぐための方策が示されている。医療事故の原因として6要因が示され,発生した事故を分析する視点として,また発生を予防するための現場での検討視点として,活用が期待される。
 本書との出会いは,私にとって非常に印象的なものとなった。臨床現場で活躍されている看護職のみならず,看護学教師,看護学生はじめ,多くの方にぜひご一読いただきたい良書である。討議あるいは教材としての活用をお勧めしたい。
A5・頁248 定価(本体2,900円+税) 医学書院


目からウロコ!社会学から看護理論を解き起こす

ナースのための社会学入門 勝又正直 著

《書 評》中木高夫(名大教授・看護学)

 著者の勝又正直さんは『はじめての看護理論』(日総研出版,1995)で,わかりにくいと言われている看護理論を,その基盤となる社会学や科学哲学,心理学から解き起こし,「あぁそうだったのか!」と知的興奮とともに,目からウロコ状態をつくってくれました。
 その勝又さんが,1993年度と1998年度の名古屋市立大学看護短期大学部での講義をもとにして,この社会学の入門書を書かれたのが本書です。
 社会学は社会科学の1つですが,この本の中では次のように規定されています。
 「経済学や法学や政治学などの社会科学は,対象とする社会現象(経済,法,政治など)を独自の動きをするものとしてとらえ,それだけを科学的に考察しようとします。それに対して,社会学はそうした社会現象の背後にある個人の思いや,ふるまいから,その社会現象を説明しようとします。つまり社会学とは,社会と個人を同時に見ようとする,そうした視角を持つ学問なのです。ですからひとまず社会学は次のように定義することができます。〈社会学とは,物事にたえず意味づけをしていく人間,そうした(悩み・喜び・夢見る,心情と思想をもった生身の)人間1人ひとりがおりなす関係としての集団や社会の現象を考察しようとする学問である〉」
 本書は,「ナースのための」とうたっているとおり,多岐にわたる社会学理論を用いて,ナースや看護にかかわるさまざまな局面をとりあげて説明されています。とりあげている社会学理論を目につくままにあげてみると,役割理論,パーソンズの病人役割論,シンボリック相互作用論,グラウンデッド・セオリー法,キュブラー=ロスの死の受容の5段階,バーガーの神義論,コンティンジェンシー理論,ラベリング理論,エスノメソドロジー,バイオエシックス,人格論,病院化-脱病院化,デュルケームの社会分業論,医療の専門家支配,パターナリズム,フェミニズム,医療人類学,臨床人類学,等々です。こうした理論(物事の見方)を駆使して,ナースや看護の世界が語られているのです!
 こうしてみると,看護はずいぶん社会学の恩恵をこうむっていることがよくわかります。というのも,最近の看護研究で大きな位置を占めるようになった質的研究やシステム論的介入の源流がここにあるからです。
 また,本書は看護に役立つ社会学ブックガイドとしても素晴らしいものです。ここで参考図書として内容を簡単に説明されている本を持っていると,〈積ん読〉では意味がないのですが,同じ本に注目していたというだけでうれしくなってしまいます。最後の引用文献も,社会学だけでなくって,でも社会学ってこれだけのものをカバーしていないとダメなんだと納得させられるリストです。ここでも持っている本があるとうれしくてニヤニヤしてしまいます。
 最後に,勝又さんは〈社会学とは,物事にたえず意味づけをしていく人間1人ひとりがおりなす関係としての集団や社会の現象を考察しようとする学問である〉と定義しましたが,看護の立場としてはそうした社会学でもって1人ひとりの患者さんをケアする看護学を構築できればと思っています。いつのことだかわからないけれど……
A5・頁176 定価(本体2,400円+税) 医学書院