医学界新聞

 

あなたの看護記録を見せられますか

フォーラム「看護記録開示の条件」開催


診療情報の開示はいま

 厚生省「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」は,1998年6月に報告書をまとめ「積極的な診療情報の提供とその一環としての診療記録開示とその法制化」を提言。日本看護協会,全国自治体病院協議会,日本病院会など「記録開示と法制化」に賛成したものの,一部の団体から強い反対があり,未だ法制化には至っていない。
 また,厚生省の医療審議会が昨(1999)年7月に行なった中間報告では,「医療に関する情報提供を求める国民ニーズの高まりに適切に対応し,また,国民が治療に積極的にかかわっていくことを促すために,医療従事者と患者との信頼関係を確立し,患者・国民の適切な選択によって良質な医療が提供されるよう,患者に対する診療情報の開示や医療機関に関する情報の患者・国民への積極的な提供を図る」を内容とする「情報提供に関する」項目が示された。そこでは「インフォームドコンセントの理念に基づく医療の推進」が提唱され,診療情報等の提供のあり方については,「患者が診療記録の開示を求めた場合は原則として開示すること」が明記されている。また,当面の取り組みとしては,(1)「診療録等の記載の適正化や用語の標準化」,(2)「卒前・卒後における診療記録記載に関する教育の充実」とともに「3年をめどに環境整備を推進することが必要」とされている。
 このような背景のもと,さる1月29日に,「医療への患者参加を促進する情報公開と従事者教育の基盤整備に関する研究会」(代表=聖路加看護大 岩井郁子氏)が主催する,フォーラム「あなたの書いた看護記録を患者さんに見せられますか-看護記録開示の条件」が,東京・築地の聖路加看護大学で行なわれた。
 なお同フォーラムは,I「診療情報提供について」,II「看護記録の開示について」,III「徹底討論」の3部に分けて開催された。

カルテ開示の論議から情報保護の時代へ

 I 部では,法的立場から樋口範雄氏(東大)が,(1)「基本的人権としての診療情報自己コントロールとカルテ開示法制化への意識」,(2)「諸外国におけるカルテ開示の現状」を報告。「情報提供義務には複数の根拠がある」と述べるとともに,「カルテ開示の問題は日本だけでなく,普遍的な問題であること。アメリカなどでは,患者へのカルテ開示が論じられた時を過ぎ,今は医療情報の保護が問題になっている(日本もいずれそうなる)。患者へのカルテ開示と秘密保護には密接な関連がある」と,ポイントをまとめた。
 また,同検討会の委員を務めた岩井氏は,(3)「なぜ,いま,診療情報提供(カルテ開示)なのか」を口演。同検討会での審議の内容などを報告するともに,報告書の骨子となった医療法(1992年に改正)から「医師,歯科医師,薬剤師,看護婦その他の医療の担い手は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行ない,医療を受けるものの理解を得るように努めなければならない」とする第1条の4を紹介した。その上で,先に掲げた医療審議会の中間報告で提唱されたインフォームドコンセントのあり方についても論じた。
 さらに佐藤紀子氏(東女医大)が(4)「カルテ開示の現状(文献レビューから)」を,豊増桂子氏(聖路加看護大)は(5)「診療情報提供に関するアンケート結果」と題し,1998年度「医療への患者参加を促進する情報公開と従事者教育の基盤整備に関する研究」として行なった結果を報告した。

多方面から看護記録を考える

 II 部では,中木高夫氏(名大)が(1)「看護記録の役割」を,鳥羽克子氏(聖路加国際病院診療情報管理士)が(2)「診療情報の管理」,(3)「診療情報管理士から見た看護記録」のテーマを担当。聖路加国際病院では「将来的に電子チャートが主流となることを見越し,アクティブな医療システムの検討段階に入っている」と述べるとともに,看護記録が抱える問題として,「積極的な姿勢,認識が薄く,再利用を視点に入れたものとなっておらず情報活用には不十分」などを指摘した。
 また,香春知永氏(聖路加看護大)は(4)「看護記録に関する教育-看護記録の教育に何が求められているのか?」で,「看護記録の教育に関する課題に,倫理教育,思考能力の向上,公的記録のルールの理解」をあげた。(5)「診療情報(看護情報を含む)提供の実際」では,コンピュータ判断に基づく初期計画や,患者の目の前で記録を書く,合同記録などの実践を隈本博幸氏(小倉第一病院)が報告した。
 なお,中木氏の司会により行なわれた III 部では,会場から「東京都立病院全体では,35件の情報開示(カルテ開示)の申請があった」と報告された他,「がん患者への情報開示はどうすべきか」などの意見や質問が出された。