医学界新聞

 

研修医のためのワークショップ開催

医学教育学会卒後臨床研修委員会


 昨(1999)年12月17-19日の3日間にわたり,長野県のホテルメゾン軽井沢において,日本医学教育学会卒後臨床研修委員会主催による,第1回研修医のためのワークショップが開催された。
 本ワークショップは2年間の卒後臨床研修必修化が目前に迫ったことを受けて,2年間の研修目標を示すだけではなく,その実現のために具体的な研修の機会を設ける必要があるとの問題意識から企画されたものだ。同ワークショップのディレクターを務めた津田司氏(川崎医大)は「研修が必修化され,研修目標が掲げられても,研修の中身が伴っていなければ『絵にかいた餅』で終わってしまう。研修医が身につけるべき臨床能力とは何かを具体的に示し,それを学習できる機会が必要だ」とワークショップ開催の目的を述べた。
 実際に,研修医の側には,このような機会を求める声は強く,本ワークショップへも全国から定員を超す応募があった。そのため,一部の参加希望者は断わらざるを得なかったとのことだ。
 ある研修医は,「普段は日常業務をこなすのが精一杯で,自分の診療スタイルを反省する機会も少ない。このワークショップへの参加を通して,自分の弱点がかなりわかるようになり,勉強になった」と参加の成果を話していた。
 全国各地のさまざまな施設から参集した研修医たちは,朝から晩までぎっしり用意されたプログラムにも疲れをみせず,夜はグラスを傾けながら,お互いに交流を深めていた。
 なお,ワークショップでの研修内容については,中谷氏による印象記(下記)で紹介されている。


もっと臨床の基本を学ぶ機会を

中谷琢氏(東葛病院研修医)

 のんびりした学生時代から研修医になると,さまざまな目標が掲げられ,その目標に到達することが要求される。しかし,忙しい日常診療の中にあっては,技術習得のための機会は予想以上に少なく,あるとしても先輩方のやり方を見よう見まねで覚えたり,自分で本を読みつつ不安になりながらやることが多い。
 特に,時間をかけてきっちり教えてもらえる機会はほとんどないと言えるが,今回,基本的で重要な臨床能力を学ぶよい機会と考え,ワークショップに参加した。
 内容としては,「医療面接」,「患者教育」,「医療倫理」,「ACLS(Advanced Cardiac Life Support)」,「外来小外科実習」,「EBM(Evidence-Based Medicine)」,「身体診察法」であった。

研修医時代に何を学ぶべきか

 「医療面接」ではロールプレイなどを交えながら行ない,患者さんの社会的心理的背景に耳を傾けることは,よい診療をするために必要不可欠であると考えさせられた。忙しい中,ともすれば必要な情報だけを医師の立場で一方的に聞いてしまっていたのだと痛感させられた。今後,短時間に適切な方法で患者さんに配慮しつつ,必要な情報を聞き出していきたいものだ。
 糖尿病などの実際の慢性疾患の診療では,相手の生活習慣に左右されるために,なかなかこちらの思う通りにいかないが,「患者教育」では,実際に患者教育の具体的な方法が提示された。今まで,知識を伝えるだけだった自分の行動が,今後は患者,家族との共同作業に変わりそうである。
 「医療倫理」では,実際のケースの4分割表を使用し,グループの中で議論する中で1つのケースが多面的に見えた。研修医になって悪性腫瘍の治療や人工呼吸器の導入に関して,家族を含めてうまく治療につなげていくのに頭を悩まされていたが,なにかとっかかりを得たような気がした。
 「ACLS」では,心肺停止時に必要な動作をいろいろな機器を使用し何度も練習することができた。こういうことは,頭でわかっていても体に身についていなければなかなか役に立たないが,何度も実際に体を動かすことにより知識,体験だけでなく自信もついた。
 「EBM」は,一見難しそうだがわかりやすい説明を受けた。研修では,文献を検索する機会は多いが,なかなか実際には時間と適切な方法がない。そういう状況の中で問題をきちんと立て,信頼にたる文献に効率よくあたる方法が提示された。
 「身体診察法」は,基本的な臨床能力の中で重要なものだがシミュレーターなどを使用し,細かいところまで指導を受けた。ともすると自己流になりがちな手技を研修医時代にきっちり学べて大変よかった。
 今回のワークショップは,医学教育学会の卒後臨床研修委員会の主催であったためか,今まで大学で受けた教育と違い学びやすい雰囲気が感じられた。また,教育する側でなく教育される側に立った,学ぶためのさまざまな配慮もあった。このような機会が頻繁に,また卒後教育だけでなく卒前教育においてもあれば,素晴らしいのではないだろうか。スタッフ,講師の皆様方ありがとうございました。