医学界新聞

 

看護の大いなる遺産と次なる提言

第19回日本看護科学学会が開催される


 昨(1999)年12月3-4日の両日,第19回日本看護科学学会が,矢野正子会長(静岡県立看護大教授)のもと,静岡市のGRANSHIP(静岡県コンベンションセンター)で開催された。

「これからの看護」を論議

 西暦1000年代の最後の年の開催と位置づけられた今学会では,「看護・今世紀の大いなる遺産と次なる提言」をメインテーマに,会長講演「新聞が見てきた看護50年」をはじめ,シンポジウム I 「今世紀,看護が遺したもの」(座長=北里大 遠藤恵美子氏,福井県立大 神郡博氏),同 II 「これからの看護への提言-中長期的展望のもとに」(座長=日赤看護大 筒井真優美氏,大分県立看護大 山内豊明氏)が企画された他,特別講演「医療と医学のはざま」(国際基督教大 村上陽一郎氏),さらにワークショップ(1)「クリティカルパスとアウトカム」,同(2)「インフェクションコントロール」が行なわれた。
 また一般演題は,看護教育,地域看護・在宅看護,看護実践の方法,看護管理などに分類された281題が発表された。
 シンポジウム II には,クライアントの立場から芦田みどり氏(性と健康を考える女性専門家の会),法律の面から嵯峨清喜氏(嵯峨法律事務所),臨床心理士の立場から永井洋子氏(静岡県立大),看護行政面について野村陽子氏(厚生省保健医療局),看護教育者の立場からRita Weingourt(札幌医大,通訳=東京女子大 金井Pak雅子氏)が演者として登壇。少子高齢化がますます進むであろう21世紀の看護について,多方面からの提言が行なわれた。
 その中で,芦田氏は日本の性事情を概説した上で,看護職の役割と研究の重要性を論じた。また,昨年解禁されたピルに関連し,情報量が極端に少ないことを指摘するとともに,医療関係者が知識を持たないことを憂慮する発言を行なった。
 また野村氏は,「変革期を踏まえた看護の新たな視点」と題し,現在もなお論議が続けられている医療制度改革の現状や医療・保健・福祉が一体となった医療提供体制の改革骨子を解説した。一方で,特に地方分権が進む中での今後の保健婦行政に関して,自らが自覚を促す必要性を語った。

7つの交流集会で活発な意見が

 一方,同学会で恒例となっている交流集会は,(1)看護における電子教材の活用(コーディネーター=日本看護科学学会研究活動委員会 水流聡子氏,他),(2)看護学の科学的基盤の確立に向けて-看護の科学と哲学(同=看護科学論研究会 樋口康子氏,他),(3)Grounded Theory Approachを用いた看護研究の実際 II -コーティングの実際:研究目的と分析の焦点(同=Grounded Theory研究会 萱間真美氏,他),(4)教科書から見た看護学の現在(同=看護技術研究会 菱沼典子氏,他),(5)痛みの看護学的研究の展望と推進(同=川崎医療福祉大 深井喜代子氏,他),(6)医療事故について語ろう-医療事故に対するリスクマネジメント(同=岩手県立大 石井トク氏,他),(7)看護における倫理的課題に対する専門職としての方略-看護倫理教育に焦点をあてて(同=日本看護科学学会看護倫理検討委員会 野嶋佐由美氏,他)の7セッションで活発な意見交換が行なわれた。このうち(6)では,石井氏の総論に続いて,臨床現場から医療事故を起こした看護職者や管理職の思いが語られるとともに,野口恭子氏(岩手県立大)は医療事故被害者の心理状態を追跡調査した結果を報告。野口氏は,事故後も「事故のことが頭について離れない」という訴えが9割を占めたことに加え,「被害者の医師,看護職者に向けた要望として『もっと勉強をしてほしい』『もっと説明をしてほしかった』という意見が半数以上あった他,『患者の訴えに耳を傾けてほしい』が7割以上を占めた」と述べた。