医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医療者が日常出会う医学用語をコンパクトにまとめた辞書

英独仏ラ-和医学用語小辞典 菊地 博 編

《書 評》堀 原一(日本医学教育学会会長・筑波大名誉教授)

菊地先生のお人柄
 編者の菊地博博士は文字どおり篤学の士である。博士は大和市で菊地内科クリニックを営んでいるが,それにとどまらず大和臨床医学談話会のお世話をされてすでに27年たち,今なお続いて地域医師の生涯教育に貢献しておられる。感心するのは談話会での講演や体験学習の記録を毎年まとめて冊子として公刊しておられることである。その功績により日本医師会の表彰を受け,また日本医学教育学会からは名誉会員の称号を贈られている,そういう方である。

40余年の蓄積

 菊地博士は昭和30年代ドイツへ留学しておられることからみても,ドイツ語に堪能なことはうなづけるのであるが,その頃から始まった臨床医学分野の専門用語にどんどん英語が導入されてくる動向に触発されて,英語の医学用語を蓄積してこられたようである。知的好奇心豊かな菊地博士はさらにフランス語の医学用語にも関心を持ち,また解剖学用語はラテン語で並記して整理されたのであろう。菊地博士は,かつて医学書院から英独仏語の小辞典を,英仏語を分担した他のお2人とともに出版されたと聞くが,その経験が本書の編集に発展したと思われる。

臨床で繁用される9,000語を収載

 蓄積された医学用語や略語と差し換えたりして重要な約9,000語を精選して収載したとされている。あまりに専門的すぎる用語やまだ定着していない略語は除き,医学生,研修医,実地医家や看護職などの医療者が日常出会う医学用語をひくのには十分の内容が,コンパクトに収められている。

和英編が便利
 全頁数の約2/3が英独仏ラ-和編,約1/3が和-英編である。このような両用の医学用語小辞典は他に類書がないようで,日本語の英訳を探す使われ方が意外と多いのではないかと思われる。逆引き辞典にはいろいろあるが,この和-英編は英-和編の見出し語と和訳部分を逆転させたもので,和訳語が複数ある場合はいずれも見出し語として取り上げられている。両編とも冒頭の凡例が親切に書かれている。

末永く利用される小辞典に

 本書の編集に当たって,英語とフランス語については協力された方がおられることが序文に明記されている。次代を担う協力者とともに今後とも改訂が加えられ,いつもup-dateな小辞典として末永く利用されることを望む。
新書版・頁384 定価(本体2,800円+税) 医学書院


眼科検査法を理解するための解説書

眼科検査法ハンドブック 第3版
丸尾敏夫,小口芳久,西信元嗣,澤 充,湖崎 克 編集

《書 評》安達惠美子(千葉大教授・眼科学)

 本書は1985年に第1版が発行され,1995年に第2版,そして1999年8月,第3版となる。第1版から第2版発行まで10年間隔があったのに第2版から第3版発行までは5年弱と半分に短縮されている。新しい機器が次々に開発されるスピードに対応したものである。B5版の440頁にわたる大作である。25章からなり,各検査のフローチャートが述べられる。とりあげられている検査法は,ざっと数えて128。それぞれ検査対象,検査目的,検査法,検査成績の判定,検査時の注意,類似機種,文献数個,ときには原理について解説されている。

検査の意義を強調

 したがって,1つひとつの検査法にさかれた頁は2-3枚で,これに写真も含まれているわけだから,図より解説が多い。内容はかなり高度で,これを読めばすぐ検査できるというふうには書かれていない。むしろ,この検査をする意義的な面が主である。数枚内に詳しい実際の検査の仕方を含めるわけにはいかないのだろう。しかし,前半の眼位,眼球運動,屈折,調調,両眼視機能の部分はかなりの頁がさかれて,検査方法もよくわかるようになっている。それに対して,CT,MRIなど画像も示されてなく,あまりにも省略されている。眼科医から指示すべき撮影法は最低は触れてほしかったし,隅角を形態学的に読むようにCT,MRIの眼,視路に関した画像も読めるのが眼科医にとって最低限の知識と思われる。
 改訂にあたり,UBM,VERISなど最新の検査法を取り入れられている。VERISが取り入れられているならOCT,90Dの眼底検査の普及,アイバンク用のドナー眼の角膜内皮をはかるスペキュラーのことなども入れてほしかったと思う。惜しむらくは使われている写真が,95%以上モノクロで,インパクトに欠ける。これだけ盛りだくさんの立派な内容なのだから,カラー写真を多く取り入れてほしい。

手元に1冊は置いておきたい

 それにしても,眼科は何と検査の多いことか。しかも眼科医自身が扱わなければならない機器がほとんどである。この本は,今までの検査法についての内容に比べると最も多い数を扱っている。それでも,まだまだ入れてほしい検査法がある。これらの機種が,年々モデルチェンジしていくことを考えると恐ろしい気もするけれど,原理は変わらないから,1冊は置いておきたい。
B5・頁440 定価(本体22,000円+税) 医学書院


臨場感あふれるGDCを用いた脳動脈瘤治療のテキスト

GDCを用いた脳動脈瘤血管内手術
兵頭明夫,根本 繁 編集

《書 評》沼口雄治(Rochester大教授・神経放射線部門)

 GDCを用いた脳動脈瘤の治療はprimaryまたはalternative choiceとして広く行なわれるようになった。米国においてもここ数年ほとんどのmajor medical centerで施行されているが,各施設当たりの症例は個々の事情によりかなりのばらつきがある。米国より人口当たりの大学病院の数が多い日本ではこの傾向はもっと強く,指導医の不足のまま手探りで本法を施行している施設もあると予測される。

経験不足の医師に貴重なガイドブック

 こういう時期にあって,本書は多くの初心者または経験不足の医師にとって貴重なガイドブックになると思われる。治療の適応,カテーテル,ガイドワイヤー,コイルの選択,および使用法などシェーマを用いて具体的にかつわかりやすく述べられており非常に実践的である。執筆された先生方といっしょに治療に当たっているような臨場感がいい。また術前,術後の管理,合併症の対策にも言及してあり親切である。GDCはcoil compactionやwide neckの動脈瘤の治療などまだまだ問題が多い。治療の適応に関しても再検討されるべき時期にあると思われる。
 今後は本書にも述べられているballoon assistant法,double catheter法,stentやliquidを併用した方法などがますます用いられると予測される。また次々に新しいタイプのコイルの開発も進んでいる。したがって本書も近い将来に,第2,第3版と改版が要求されるであろう。兵頭,根本両先生のご奮闘を期待する。
B5・頁192 定価(本体9,000円+税) 医学書院


高齢者医療に携わる臨床医の診療の伴侶に

高齢者のための漢方薬ベストチョイス
折茂 肇 監修/丁 宗鐵,大野修嗣,吉田 章 編集

《書 評》五島雄一郎(東海大名誉教授)

高齢者のQOLを第一に考えて

 高齢者の医療においては,高齢者のQOLを第一義的に考えた全人的包括医療を行なうことが重要である。そのためには,西洋医学と漢方医学のそれぞれの特徴を生かし,両者の特徴をうまくとり入れて,それぞれの欠点を補った治療体系を作ることが必要である。
 この度発刊された『高齢者のための漢方薬ベストチョイス』は,このような目的に沿った著書として高く評価される内容を有している。
 本書は19人の執筆者が執筆されており,その内容は次の5部に分かれている。
I.高齢者医療における漢方治療の意義(折茂肇)
II.西洋薬と漢方薬(原桃介)
III.漢方診療の基本――高齢者の診療と治療方針(丁宗鐵)
IV.症候別漢方薬ベストチョイス――32の症候について,それぞれの執筆者が漢方薬のベストチョイスと症例を提示している
V.疾患別漢方薬ベストチョイス――36疾患について,虚証,虚~中間証,中間証,中間~実証,実証の段階に分け,それぞれについて漢方薬ベストチョイスが示され,併せて臨床薬理作用と症例の提示も行なわれている。

漢方薬の辞書的著書

 このような記述は,従来西洋薬だけを使用していた医師にとって漢方薬を使用してみたいという気持を起こさせるとともに,虚証,中間証,実証などの状態に応じての漢方薬のベストチョイスが述べられているので,漢方薬を使用する手順や症例の提示が臨床の助けにもつながる。
 このような意味から,本書は日常臨床において,医師の診察机の脇に絶えず置いておき,必要に応じて症候や疾患の項を見ながら,どのような漢方薬がベストチョイスかを知ることができる恰好の漢方薬の辞書的著書である。
 また巻末には,漢方エキス剤一覧表が添付されていて,難しい漢方薬の名前に片仮名がついているので理解しやすいし,製薬会社の漢方薬の番号がついているのも便利である。
 以上より,本書は,高齢者の疾病や症候の治療にあたり,QOLの上から副作用の少ない漢方薬のベストチョイスを簡単に知ることができる大変便利な著書であり,広く臨床医の方々に診療の伴侶として推薦できるものである。
A5・頁248 定価(本体3,200円+税) 医学書院