医学界新聞

 

新春随想
2・0・0・0

第3ミレニアムを迎えて

中澤三郎
(日本消化器病学会理事長・DDW-Japan合同会議議長)


 いよいよ第3ミレニアムへの突入である。筆者も年甲斐もなくいささかの興奮を覚える。時の流れは水の流れと同じく絶えず流れ行くもので,本来区切りというものはないが,第3の千年紀への幕開けでもあり,人の心も新時代へ向かうというある種の感情の昂揚が働くのかもしれない。
 そう思って今後の世界はどうなっていくのだろうかと考えてみると,世界の情報,通信は印刷時代,テレビ時代からネット時代に急速に入ってきたことがわかる。Wedgeによると世界のネットのホスト数は1993年の131万台から1999年には4322万台に増加し,利用者も1億6000万人を占め,そのうち日本人は1600万人,10%とのことである。

医学界におけるネットの時代

 それでは,医学界にとってのネット時代とは何であろうか? 医師は形態学,生化学,生理学,薬理学,免疫学その他から最近の分子生物学・遺伝子学,ならびにこれらに関する病的状態を確立するbasic research,人体に発生した異常状態を解明し正確な診断と適切な治療法を研究するclinical research,およびこれらから得られた知識,技術を活用して人間の疾病を予防し治療するpracticeなどを習得するが実地診療に際しては,さらに社会的,経済的,地域的因子から個々の性格,生育環境,生活意識などを考慮しなければならず,実に高度で複雑多様性を持った対象を扱わねばならない。このために,1人の既存の知識,経験,体験だけでは医師としての使命をまっとうすることができない。そこで日々,変化する医学・医療の情報を常に知る必要がある。
 では,医師はこの目的達成のために何によって適切な情報を得ているのであろうか? 医師はほとんどがこれらの情報を得るために何らかの団体・組織に所属しているのであり,日本医師会はじめ各種医学会や研究会などがそれで,まずそこで開催される発表討論会や教育講演会あるいは定期的に刊行される医学雑誌により,またダイレクトメールなどにより各々の立場に見合った情報を得ながら活躍をしておられる。
 しかし,日々急速に変化する最新の情報に関してはこれらのみでは役に立たず,新聞,テレビその他医学界以外の情報に頼っていることが多いのではないだろうか?
 最近は社会,経済,政治など,その変化は誠に急激であり,また単に国家的,地域的な変化ではなくまさに,地球的,宇宙的規模で動いている。この変化は医学・医療の世界においても同様で連日の如く遺伝子の解析,病的遺伝子の発見,遺伝子診断や治療をはじめ,単に知識として習得するだけでも大変である。この原稿を書いている間にも,第22番染色体のゲノムが解明されたという発表が新聞に出ている。
 もちろん,すべてが遺伝子で片づけられるものでもない。がん遺伝子にしてもproto-oncogeneが発見されても,そのままでは発がんに直接結びつかず他の要素を必要とするわけで,これまでに確立された研究成果とのすりあわせというか,両者の適切な融合が必要であろうが,既存の病態,治療と関連づけて理解するためには多大の労力と時間を必要とする。
 筆者は毎日,新聞を2-3紙読んでいるが,学会などで発表されない新発見,新事実,originalityの高い研究成果を見て驚くことがあり,さぼって2-3日読まないと何だか取り残されたような気さえするのである。まさに,「三日見ぬ間の桜かな」である。また筆者は消化器に関する雑誌やら医師会雑誌,商業誌など,また近刊の成書などから関心のある箇所を一応は読んでいるつもりではあるが,世に出た情報を素早くつかむには何といってもネット通信に勝るものはない。
 さらに,得られた情報を広く医療関係者にも知ってもらうことが大切であるが,このためには,ネット通信に関する知識,経験の豊富で,しかも学会員をはじめ医療関係者に対して,情報提供や情報交換など時々刻々に変動する医学・医療情報に対処することに協力していただけるネット関係の専門家や医師の協力が必要不可欠となる。そして,各々が手分けして資料を分析,整理するとともに,他機関・他施設からの情報をも受けて,それらの内容を検討し膨大な資料の中から緊急必要なものを取り出し手元に届けるというworking groupの設立が望まれる。
 日本消化器病学会ではこの目的を達成するため,消化器臨床ネットワーク委員会(仮称)を作り会員の方へのサービスを行なうことになった。委員長には銭谷幹雄先生が就任され,学会外からは開原成允先生,木内貴弘先生のご指導をいただき,学会からは石原扶美武先生,森実敏夫先生,土本寛二先生のご参加により構成されるが,次第に需要・供給量の増加が予想されるので関心をお持ちの先生のご支援ご協力を期待する次第です。
 新年に際し消化器病学の発展のために何ごとであれ前向き姿勢で積極的に取り組んでいきたいと念願している。