医学界新聞

 

新春随想
2・0・0・0

いまなぜ褥瘡なのか

大浦武彦
(日本褥瘡学会理事長/医療法人渓仁会 会長)


医療の谷間にあった褥瘡に光を

 「褥瘡は看護の恥」と言われて,今日まで褥瘡を医学として取りあげられておらず,したがってこれまで,褥瘡の実状,有病率,治療法,予防法などについて疫学調査もなければアカデミックなデータや評価もなかった。
 これまで褥瘡に関する研究・開発,治療結果などの発表討論は,医師,看護職,医療工学研究者を含めた医療福祉機器メーカーの3つのグループでそれぞれ個々に行なわれていたが,それぞれのグループでもメインテーマでなかったことからアクティビティに欠け,またお互いの連携がなかったことが褥瘡に医学の光が当たらなかった大きな原因と考えられる。これを解決する目的で,昨年「日本褥瘡学会」が設立された。
 日本はすでに高齢社会となり,厚生省の予想では2025年に虚弱高齢者は530万人に達し,「寝たきり」老人は230万人になると推定されている。その「寝たきり」老人には30-35%の割合で褥瘡が発生するという米国での報告もあり,また施設入院の患者より在宅医療の方々に褥瘡発症が多いということが定説である。したがって,本年4月より介護保険が導入され在宅医療が推し進められると,褥瘡患者が増加するのではと心配されている。

褥瘡はトータルケアこそ大切

 褥瘡の治療は,外傷や小範囲の熱傷の治療より難しい。例えば医師の行なう「潰瘍の治療」のみでは褥瘡は治らない。褥瘡は「寝たきり」で抵抗力のない高齢者に多く,栄養状態が悪く治癒が遅いので,介護機器の使用としっかりした看護・介護を併せて行なわなければ完治しない。
 特に褥瘡の予防では,看護・介護体制をどのようにするか,どのようなマットレスを使うかなど,患者の身体状況や栄養状態を考えて選択しなければならない。そこで,病院管理者も含めて各職種と共同して,褥瘡に対してトータルケアを行なう必要が出てくる。
 近年褥瘡の発症には,荷重のみでなく剪断応力「ズレの力」も大きな要因と言われるようになった。発生原因についてもまだまだ不明な点が多い。これらの点については,医療工学研究者らと膝を交えて検討,研究し,解明しなければならない。まさにトータルケアとチーム医療が必要なのである。

予防ガイドライン設定で褥瘡をゼロに

 これまでは,褥瘡界においては前述のような混沌とした状態があり,十数例の経験で治癒効果があったとか,あるいは他との比較なしで有効であったなど,的確なコントロールを置いた比較データが少なかった。今後はEvidence-based medicineとしてデータを集積し,評価する必要がある。
 特に,新しく設立された日本褥瘡学会に各界の人々が一堂に集まり,何が「よく」何が「悪い」のかをアカデミックに検討し,褥瘡治療のエキスパート,研究者が納得する統一した治療と予防のガイドラインの設定が急務である。

 また,現在理想的な褥瘡治療ができない医療制度にも問題があり,これらの是正改善も行なう必要がある。
 この意味で日本褥瘡学会が設立され,討論・評価の場ができ,また褥瘡に関するデータを蓄積できることは大きな進歩である。21世紀には褥瘡を0(ゼロ)に近づけるのが夢である。