医学界新聞

 

第4回日本老年看護学会に参加して

堀内園子(東京都立保健科学大・保健学部看護学科)


 第4回日本老年看護学会が,さる11月13-14日の両日,奥野茂代会長(長野県看護大)のもと,長野県松本市の信州大学共通教育センターにて開催された。
 同学会では,紅葉で眩しい信州を舞台に,会長講演,特別講演,シンポジウムなどのプログラムの他に,合計73題の高齢者に関わる一般演題が発表された。

高齢者のヘルスプロモーション

 同学会は奥野会長による「高齢者のヘルスプロモーションと看護」と名づけられた会長講演で幕開けをした。
 奥野氏は,グリーンらにより開発されたプリシード・プロシードモデルを紹介(『ヘルスプロモーション』,医学書院刊,1997,参照)。これは,1から5段階のニードアセスメントと評価部分のプリシードと,計画の実施・評価の部分のプロシードから成るヘルスプロモーションの理念を基に開発されたものだそうだ。
 その上で,このモデルをもとに奥野氏らが取り組んでいる(1)高齢者の保健行動や日常生活行動を明らかにする調査,(2)高齢者の日常生活に関する高齢者と子世代の意識調査,(3)高齢者の長寿に関する意識調査および長寿をめざしたグループアプローチの研究を概観した。しかしながら,講演の最初には,「ヘルスプロモーション」「プリシード」「プロシード」「エンパワーメント」と次々に横文字の名詞が並べられていくため,学会に参加した臨床スタッフからは,「私たちが現場で活用できるようなものなのか」と,小声で話し合う様子も垣間みられた。それでも,スライドでモデルを示し,そこに具体的な研究の変数を入れていくと,変数の位置づけ,関係性が明確になり,また検討していくべき変数や研究の限界も見え,これからの老年看護の研究,教育,実践の場で活かす可能性が示されたように思った。
 初日夕刻からは,見藤隆子氏(長野県看護大学長)による特別講演「高齢者の健康の概念」が行なわれ,また2日目午後からは,「高齢者のヘルスプロモーションを支える看護の現状と課題」をテーマにシンポジウムが開かれ,麻原きよみ氏(信州大医療短大部),アン・デーヴィス氏(長野県看護大),渡辺庸子氏(長野市保健所),小西美智子氏(広島大)の4名が登壇した。

高齢者のエンパワーメント

 この中で麻原氏は,「高齢者のエンパワーメント-文化的見地からのアプローチ」と題し,長野県松本市という地域における住民の,自らが自分たちの生活を作り上げていく様子を紹介。「地域とはどの範囲をさすのか」との問いに対し,住民はいとも簡単に「ゴミを出す範囲だよ」と答えたが,麻原氏はその答えに「はっ」とさせられたという。そこで生活している人間にとって,ゴミを出す範囲が自分の地域なのだろう。
 一方,アン・デーヴィス氏は「エンパワーメント:概念の再考」と題し,エンパワーメントを考えるには固定観念について考える必要性があると述べた。私たちが描いている高齢者像が,相手の力を発揮するプロセスに非常に作用するというのだ。看護者自身が自分の持っている高齢者への固定観念に気づくこと。そこから,高齢者が自分たちの力を発揮できるような環境を整えていくことが重要だと述べた。
 また渡辺氏は,「寝たきり予防の保健活動」をテーマに口演。地域での保健活動が,どのように展開されていったのかを,「塩味自覚キャンペーン」など具体的な活動内容を紹介しながら,その経緯を発表した。
 最後に小西氏が,「高齢者のヘルスプロモーションを視点においた老年看護教育」と題して口演。小西氏は,地域で生きる高齢者の生活環境を理解していくこと,地域で活動している老人クラブなどに行き,そこに参加する高齢者と話をすること,高齢者の生きがいやアクティビティに焦点を当てた見方の重要性を述べた。

臨床現場の声を学会の場に

 学会参加者の多くは教育・研究職であったが,中には地元の長野県の病院に勤務する看護職や作業療法士の姿もあった。早速その人たちに感想を聞いてみた。
 彼女らは,「学会は偉い先生たちがやるものだと思っていたから,気後れがしていた。しかし,出てみたら,興味深い研究があったり,質疑応答におもしろいものもあって,参加してよかったと思う」などと語った。また「せっかくこれだけ大きい会を開くのなら,もう少し臨床の現場からの参加者があればよいと思う。もっと臨床に向けた宣伝をしていってほしい」という声も聞かれた。これからのますますの高齢社会に向けては,学会もこれらの意見に耳を傾ける必要があろう。
 さらに,昨年に続けて演題を発表した現役のナースは,「去年はとにかく一大決心をして演題発表した。そうしたところある大学の教授に『あなたの視点はよい』,と言われて刺激になり,今年も昨年のテーマを続けてデータ収集し発表した。研究を発表することは緊張はするし,自信ももう1つだが,自分の考えに対して他者から意見がもらえる場に出るのは刺激になる」と言う。
 4回目を迎えた老年看護学会だが,臨床家と研究・教育職との共同研究や研究成果を臨床に活かせるようなお互いのコミュニケーションによって,より幅のある老年看護が展開されていくのではないだろうか,と実感させられた。
 今回,私も自分の研究を発表したところ,臨床スタッフや研究職からアドバイスや励ましの言葉をいただいた。こうした反応の1つひとつが,自分のこれからにつながっていくことはもちろん,いつか看護全体を動かしていく力の源になっていくのではないかと感じた。
 なお次回は,明年11月11-12日に,三重県立看護大学で開催される予定である。