医学界新聞

 

DDW-Japan1999(第7回日本消化器関連週間)の話題から

脳死肝臓移植はなぜ進まないのか?


 DDW-Japan1999のワークショップ(1)「わが国の肝臓移植はなぜ進まないのか?」(司会=埼玉医大 出月康夫氏,新潟大 市田隆文氏)では,現在1000例近く行なわれている生体肝移植に対して,脳死肝移植が少ない(2例)ことに焦点をあて,さまざまな角度から検証を行なった。
 まず大河内信宏氏(東北大)は,生体肝移植34例と脳死腎移植33例の経験をもとに,脳死肝移植を進める条件を考察。ドナーや移植ネットワークのスタッフが少ないだけでなく,主治医と移植ネットワークの連携が希薄であることを指摘し,さらに「移植医は,技術面だけでなく,もっと前の段階(情報が出てきた時)から積極的に関わるべき」と語った。続く矢永勝彦氏(松山赤十字病院)は,日本とアメリカを比較し,(1)医局中心の医学界,(2)国民の医療不信,(3)臓器提供に対する理解不足など,日本の問題点を指摘。マスコミの報道にも注意を促し,臓器移植法の改定やメディアの有効利用でドナーを増やすよう提案した。
 一方,移植コーディネーターの立場から安行由美子氏(日本臓器移植ネットワーク)が登壇。(1)遺体を傷付けたくない,(2)家族が死を決めたことになる,(3)ガイドラインがわかりにくい,という理由などで脳死判定・臓器移植が実現しないことを示すとともに,医療者が救急→移植と気持ちを切り替えるつらさを語った。また,行政の立場からは山本尚子氏(厚生省保健医療局)が,厚生省の取り組みを説明。ドナー増加へ向けた対策を示し,公平性や,小児の問題,組織移植への対応についても言及した。
 続く藤原研司氏(埼玉医大)は,脳死肝移植適応評価委員会の役割を説明した上で,適応基準と選択基準を検証し,ガイドラインが改良の時期に来ていることを示唆。そして最後に,土肥雪彦氏(広島大)が肝移植の歴史と将来を展望した。
 総合討論では,ドナーカード,指定病院,小児への移植,搬送などに関する問題を検討。また,生体からより脳死からの移植が基本であるという点では意見が一致した。