医学界新聞

 

【インタビュー】

看護カウンセリングの役割とは

看護カウンセリング室開設から1年が経過して

広瀬寛子氏(戸田中央総合病院・看護カウンセリング室)


 看護カウンセリングとは,「カウンセリングの知識と技術,および精神看護学を専門的に学んだCNSがカウンセリング技法を用いて,患者と言語的および非言語的対話を行ない,それを継続的に行なう看護であり,患者自身が病とともに自分らしく生きていくことができるように,病の体験を意味づけていく過程を援助すること」(広瀬氏)と定義づけられている。
 広瀬寛子氏(戸田中央総合病院・看護カウンセリング室)は,著書『看護カウンセリング』(医学書院,1994年)で初めて「看護カウンセリング」という表現を用いた。一方,埼玉県戸田市の戸田中央総合病院は昨(1998)年4月,施設としてはおそらく全国で初めてであろう「看護カウンセリング室」を開設した。広瀬氏は,それまでの勤務先であった東京都精神医学総合研究所を辞し,同月この部屋の任に就いた。
 本紙では,開設されて1年が経過した同病院看護カウンセリング室の広瀬氏から,その役割などについて話をうかがった。以下に広瀬氏の談話をまとめたものを掲載する。


◆看護カウンセリング室の設立

 戸田中央総合病院には,「緩和治療科」という部門があり,そこの医師は,緩和医療を進めていくためには患者さんの心理的なサポートを行なう職種が必要だと考えていました。一方,私は,東大病院の放射線科で主に癌患者さんへのカウンセリングとサポートグループを行なっていました。ただ,研究所からのフィールドワークという形態でしたので,カウンセリングは週2回,しかも半日ずつという限られた時間の中でのかかわりでした。しかし,患者さんの中には,特に末期の患者さんの場合は毎日,あるいは日に何度か会うことが大切な場合があることも実感し,いつか臨床の場で働きたいというのが夢でした。
 このように,病院側のニーズと私の思いが合致したと言うのでしょうか,幸いに院長が「看護カウンセリング」の必要性を認識してくださり,「心のケアは緩和治療科の患者さんだけではなく,すべての患者さんに必要なケアである」という考えのもとに,院長直属の部署に位置づけられた,独立した部屋としての「看護カウンセリング室」を任されるようになりました。

◆看護カウンセリング室の仕事

 私の仕事は,(1)患者および家族のカウンセリング,(2)遺族のためのサポートグループ,(3)看護婦の個人カウンセリング,(4)看護部の研修(研究指導含む),(5)カンファレンスへの出席,(6)看護婦・医師(主に外来)のコンサルテーションに大別できます。
 緩和医療の考え方は,患者さんの疾患の部分のみを見るのではなく,その人全体を,つまりホリスティックに,また患者さん個人だけでなく家族を含めてみることにあります。それは看護がこれまで大切にしてきたことでもあります。ですから,病院全体の患者さんを対象に,実際は緩和治療科の患者さんとお会いすることが多いのですが,当病院の入院患者さんとそのご家族を中心に,外来および在宅の患者さんとご家族もカウンセリングの対象となります。
 患者さんのリファーですが,カンファレンスでカウンセリングが必要な患者さんとご家族を検討したり,直接に医師や看護婦から依頼がきます。
 カウンセリングの記録は各病棟ごとにファイルを作成し保管していますので,医師や看護婦は自由に読むことができます。他の医療者と共有したほうがいいことのみを記録していますが,患者さんと自分とのかかわりを振り返りながら,互いの真意が変わらないように対話形式で書いています。その日の問題点が明らかとなり,次の面接の見立てができますが,かなりの時間を要してしまいます。また,これを読んだ看護婦が,患者さんの世界を理解できるように,そして患者さんとの対話の仕方を学べるように,という教育的配慮もしているつもりです。うまくいかなかったことをどう振り返り,次に生かすかということの大切さを知ってもらえたらという思いもあります。ただ,患者さんのプライバシーの問題があり,どこまで記録に残していいのか,いつも悩みながら書いています。

◆患者さんに接する時

 カウンセリングに際しては,患者さんの意志の確認をとることが大切です。私はまず,主治医から患者さんにカウンセリングの意志を確認してもらっています。そして初対面の時に,「このカウンセリングは強制ではありません。話をしたくない時はそう言ってくださって結構です」と説明をし,患者さんの自由意思であることをお伝えします。また,患者さんと話した内容を病棟のスタッフと共有してもよいかを確認します。つまり,「よりよいケアと治療を提供するために,話したうちの必要なことは他のスタッフと共有してもよろしいですか」にはじまるのですが,ただし患者さんの不利になること,誰にも話してほしくないことは決して話さないけれど,例えば患者さんの状態が医療者にきちんと伝わっていないとか,医療者の説明を患者さんが理解していないと思われる時に,患者さんが望んでいることを私がスタッフに伝えて,今後の治療や看護に役立ててもらうという橋渡し的存在であることを説明しています。
 患者さんとは,一応はその日のスケジュールに添って部屋へ伺い話を聞きます。頻度は,日に数回,毎日1回,週に2日程度と,患者さんの身体や精神状態,患者さんのニーズによって見立てています。
 1回の面接時間も患者さんのニーズ,身体の状態によって変わりますが,短い時で数分から5分程度。長い時でも話しだけの時は1時間を目安に終わらせます。はっきりおっしゃらないけれど,私と会うことに抵抗を感じているような人に対しては,頻度や時間を短くして負担にならないように継続し,必要になった時にいつでも役に立てるようなかかわりを心がけています。
 ご家族の方とは,私からというより,たまたま会えた時に面接を求めてくることが多く,看護カウンセリング室で話すことが多いですね。突然,泣きながら部屋を尋ねてくる方もいました。患者さんの中にも,突然に訪問する人もいます。病室で話せないことでも,カウンセリング室では話せることがありますし,その内容も違うことがありますね。看護カウンセリング室は,病院の中でもちょっと異質な空間で,駆け込み寺的な要素があるのだと,改めて部屋の存在の大きさを実感しています。

◆看護カウンセリングの技術

 患者さんは,なぜ私がこんな病気になったのかと落ち込んだり,怒りや悲しみの感情がわいてきたりします。それは当然のことです。そのような患者さんが傷ついた自分の心を癒し,病を持ちながらも自分らしく生きていく手伝いをしていきます。
 一般のカウンセリングでは,心の悩みを抱えている人が自分の生き方の問題を自覚し,自立して生きていけることをめざすために,生育歴に触れたり,自分に直面することを重視する場合が多いですね。しかし,癌患者,特に末期の患者さんのカウンセリングでは,訪問して患者さんへの関心を示すことで,話したくなったらいつでも聴きますよ,一緒に居ますよというメッセージを伝えていくことが重要になります。
 そのために,言語を媒介とするカウンセリングを中心に,リラクゼーションやイメージ療法,フォーカシング,コラージュ療法,身体接触など,個々の患者さんに最も適切だと思われるアプローチを用います。

◆他職種との違い

 実は,病院の看護婦に受け入れてもらえるのかということが一番心配でした。しかし,婦長をはじめ看護婦は好意的で,当初から「自分たちとは違う役割を持っている人」と認識されていました。私と看護婦との違いですが,基本的姿勢は同じだと思っています。違うとすればCNS的な役割を担っていること。ただ,看護婦は患者さんとのかかわりの技術を高めるために,私を活用することは十分にできているとは言いがたく,今後の課題だと思っています。それから,私の場合は看護婦と違って,時間に合わせて動かなければならないことが比較的少ないのです。よく患者さんは,「先生や看護婦さんは忙しそうで,私以外にもたくさんの患者さんがいるから,長く話を聞いてもらうのは申しわけない」と言います。私も決して暇ではないのですが,私は患者さんから,決して忙しそうに見えてはいけない職種なのだと実感しました。
 また,最近では同じような職種として臨床心理士が医療の場で仕事をするようになってきました。彼らとの違いと言えば,患者さんの身体の状態や病気に関心を持ちながら心のケアをする,その辺の患者さんの身体への意識の持ち方が違うのかもしれません。その他にもいくつかあげられますが,ただ,病院の中で患者さんに合ったかかわりを大切にすれば,違いは縮まってくるのかもしれません。

◆1年たっての問題点と将来展望

 これは開設当初からの考えでもあるのですが,患者・家族のサポートグループ,患者を含めた家族療法をしたいと思っています。でも,スタッフが私1人ですから限界があります。それでも今年の7月から,遺族のサポートケアグループを始めました。この1年で軌道にのせたいと思っていますが,将来的に緩和ケア病棟ができた時には,グループセラピーやリラクゼーションなどの活動ができる部屋がほしいですね。それと,もう1人スタッフも。
 例えば,緩和治療科の患者さんは,入院して治療を行なうか,それとも在宅での生活を大切にするかなど,今後の生き方の選択で悩んでいます。また,ご家族は患者さんの病気にかかわる問題だけではなく,そのことから顕在化した,あるいは新たに現れてきた家族関係の問題を抱えています。そういう意味では,精神的ケアは,それぞれの患者さんやご家族のこれまでの生き方や歴史があることを理解し,尊重しながら行なわないと,患者さんやご家族への侵襲となる危険性があることを,医師をはじめとしたスタッフが自覚することが大切だと思いますね。
 時には何もしないで,見守ることも大切です。この「待つ」という姿勢は,一見何もしないように見えて,実は不安定な相手に寄り添っているのです。相手との信頼の上に立つ対話があってこそできることですが,最後まで残る課題なのかもしれません。
・戸田中央総合病院:〒335-0023 埼玉県戸田市本町1-19-3
 TEL(048)442-1111