医学界新聞

 

あなたの患者になりたい  

「わかりました」がわかりません

佐伯晴子(東京SP研究会)


 相手の話を一通り聴いて「わかりました」と私たちが言う時,どんな意味を込めているのでしょう。了解,承諾,同意または許可,保留,ときには反発や拒絶等。多くはその後の言葉や行動で,その意味するところが明らかになるのですが,無言では不明なことがあります。
 この「わかりました」ほどやっかいな言葉はないと,模擬患者をしていて痛感することがあります。「頭が痛くなると音がうるさく感じます」などとお話して「わかりました」と言われカルテに書かれたメモが「耳鳴」。「2年前」と言ったのに「2か月前」。また,患者さんのあいまいな表現を具体化することなく,「わかりました」と早々に面接終了。
 自分の話したことと,医療者が理解したことが異なっている,情報が正確に伝わっていないと感じる時,患者は「この先生は本当にわかってくれたのか?」と不安になります。それが医学的には些細な内容でも,逆に,「こんな簡単なことで間違われるのなら,これから先大丈夫だろうか?」と余計に心配になります。
 医学には素人の患者さんは安心して専門家にかかりたいと望んでいます。診断や治療の技術に関しては門外漢なだけに,医療者の態度や言動に自分なりの安心材料を見いだそうとします。ですから,日常の個人生活ではさほど問題にならないような傾向が,患者さんの信頼をそこねる要因になることもあります。正確に聴かない,早合点する,思い込みが強い,話が飛躍する,早口で言葉が不明瞭等。
 合計668名を対象にしたOSCEの医療面接におけるSPからの評価では,「あなたの話は正確に理解されたと思いますか」という項目の評価が低い場合に,概略評価「あなたは次回もこの医師にかかりたいですか」に「NO」や「どちらかと言えばNO」がついていたという結果が出ています(東京SP研究会統計)。
 ただ,コミュニケーションに誤解はつきものです。むしろ簡単に伝わらないのを前提に,確認の作業を積み重ねていくことが信頼を築く上で必要でしょう。
 「……ということですね?」と患者さんの話を確認すると,もし違っていた場合には「いいえ,○○は□□で,△△は××です」と患者さんが訂正することもできます。さらに,話が整理されることで,患者さんが新たに情報を付け加えたり,「実は,……」と一番気にしていることを思い切って話すこともあります。
 「何をどうわかったのか」具体的に示されなければ,「わかりました」と言われてもわかりません。そのまま先に進み不正確な情報を土台に,患者さんの現実とまったく別物の病気の話を作り上げることもあるのです。患者さんは「本当にわかりましたか?」と尋ねるのを遠慮しながら,「大丈夫かな」と疑ってもいます。
 正確な情報を共有するために,患者と医療者が率直に話し合えることが必要です。情報は言葉を介して伝わりますが,発した側と受け取った側で形が変わることを踏まえ,確認の手間を省かず,相互理解につなげたいものです。