医学界新聞

 

第37回日本癌治療学会開催

「Toward Next Century and Next Generation」をテーマに


 第37回日本癌治療学会が,佐治重豊会長(岐阜大教授)のもと,さる10月12-14日の3日間,岐阜市の長良川国際会議場,他を会場に開催された。本学会ではメインテーマに「Toward Next Century and Next Generation」を,副題に「21世紀に継承できる癌治療」を据え,今世紀の癌治療の再評価と21世紀につなぐ国民に信頼される癌治療の確立をめざした内容となった。
 特別講演は杉町圭蔵氏(同学会理事長)と富澤宏哉氏(元セリーグ審判部長)の2氏が,特別企画は「がん医療におけるボタンの掛け違い」「癌免疫療法は夢のヒト癌医療として貢献できるか?」「本邦における新GCPをめぐる諸問題とその対策」「本邦におけるヒトがん遺伝子治療の経験と将来展望」の4題,その他シンポジウム8題,パネルディスカッション7題に加えて,プレジデントセッション,ワークショップ,キーシンポジウムなど多彩な企画がなされ,多くの参加者を集めた。また「臨床腫瘍医の育成」をめざした,若手医師に向けての早朝セミナー,臨床腫瘍医のための教育セミナーが開催された。

 (関連記事。また看護部会に関しては2364号に掲載予定)


外科的治療における新しい展開

 佐治氏による会長講演「癌の外科的治癒切除例に対する長期延命への対策」では,外科的切除例の20%前後が癌再発・転移する現状から,最近の分子生物学の発展と,教室での検討結果からその対策を講じた。氏は,外科的切除例に対する長期延命への対策として,(1)潜在・微小転移の診断精度の向上(RT-PCR法によるリンパ節転移と腹膜播種性転移)と治療戦略,(2)Non-Touch Isolationと血行性転移の関連とその対策,(3)手術侵襲と転移促進現象とその対策,(4)腫瘍による生体侵襲と新しい治療戦略,(5)アポトーシスを応用した抗癌療法の新しい展開,(6)遺伝子診断による悪性度診断と新しい遺伝子群の発見,(7)統計処理による治療予後の予測,ニューラルネットの開発,(8)血管新生抑制剤(TNP-470)とDC細胞を用いたtumor dormancy therapy,の8点をあげ,それぞれの研究の最前線について概説した。

がん治療の問題点を指摘

 特別シンポジウム「がん医療におけるボタンの掛け違い」(司会=杉町圭蔵氏,昭和大豊州病院 栗原稔氏)では,まず基調講演として,杉村隆氏(国立がんセンター名誉総長)が「がん治療における『ボタンの掛け違い』」を口演した。氏は,がん化に伴って変化していく遺伝子の種類は多く,がん細胞の表現形質には遺伝子変化を伴わないエピジェネティックな機構によるものもあることを概説。化学療法の発展過程における問題点を指摘した上で,「今後は予防にも力を入れるべき。遺伝子治療は腰を落ち着けて」と,これからのがん治療を展望した。
 「実験動物を用いた研究のヒトがんへの応用」と題する発表を行なった細川真澄男氏(北大)は,免疫・生物療法の向上を目的に,がん化学療法との併用の有効性を検討。また,「基礎腫瘍学研究者から見た一面」を発表した豊島久真男氏(住友病院)に続いて,中川原章氏(千葉県がんセンター)が「がん遺伝子診断によるボタンの掛け直しとそのシステム作り」を口演。遺伝子診断において腫瘍の予後と相関するTrkA発現レベルが,中間型の予後予測に有用であることを報告し,さらに非遺伝性がんの遺伝子診断システムも紹介した。
 そして,白坂哲彦氏(藤井節郎記念大阪基礎医学研究所奨励会)による「がん化学療法におけるボタンの掛け違い」に続いて,吉野肇一氏(東京歯大市川総合病院)が「胃がん治療におけるボタンの掛け違い-標準手術からオーダーメイド治療へ」を発表。治療に関しては,改善されつつある根治性と機能温存の対立を概説し,薬物療法に関しては,(1)固形がんのメディカルオンコロジストが少ない,(2)補助化学療法が多い,などを指摘。また予防対策としての禁煙にも触れ,シンポジウムを締めくくった。