医学界新聞

 

第4回慶應医学賞 受賞者決定

E. H. Blackburn氏と吉川信也氏


 第4回慶應医学賞の受賞者が,Elizabeth Helen Blackburn氏(米国カリフォルニア大サンフランシスコ校医学部微生物学・免疫学主任教授)と吉川信也氏(姫路工業大学理学部・大学院理学研究科生命科学教授)に決定した。
 同賞は慶應義塾(鳥居泰彦塾長)が「医学・生命科学の領域において顕著かつ創造的な業績をあげ,人類の平和と繁栄に著しく貢献した研究者を顕彰し,広く医学の振興に寄与する」ことを目的に創設した賞。
 ちなみに,第1回は「プリオンの発見とプリオン病の解明」に対して,1997年度ノーベル医学・生理学賞を受賞したS. B.Prusiner氏(カリフォルニア大サンフランシスコ校)と,「グルタミン酸受容体分子の構造と機能に関する研究」に対して中西重忠氏(京大)に授与。第2回は「原がん遺伝子,がん抑制遺伝子とがん」に対して,R. A. Weinberg氏(ホワイトヘッド生物医学研究所,MIT大)と,「サイトカインの構造と機能に関する分子生物学的研究」に対して,谷口維紹氏(東大)。
 昨年の第3回は「哺乳類脳神経系の発生分化の分子メカニズムの解析」に対して御子柴克彦氏(東大)と,「血管新生の分子生物学的解析」に対してM. J. Folkman氏(ハーバード大)に贈られている。
 今回のBlackburn氏の受賞研究テーマは「テロメアとテロメラーゼ」。
 テロメアは線状染色体の末端にあり,グアニン塩基に富み,かつ単純な反復配列を持ったDNA部分であることはよく知られている。染色体の末端が消化されて短くなったり,無意味に融合したりすることを防ぐことがその役割とされ,体細胞ではその分裂のたびに短小化する。
 Blackburn氏はこの短小化に拮抗して,テロメアの長さを維持する酵素「テロメラーゼ」を発見して,「生殖細胞では活性が高く,体細胞では加齢とともに活性が低下する」という性質を解明し,「テロメアとテロメラーゼの生物学」に大きな進歩をもたらした。老化や発癌の仕組みを解明する上で今後,大きな意味を持つことになろう。
 一方,吉川氏の受賞研究テーマは「ウシ心筋チトクロム酸化酵素の3次構造と反応機構」。
 生体は呼吸によって体内に取り込んだ酸素を利用して食物を酸化し,その際に得られたエネルギーによって生命活動を営むが,吉川氏はこの生体によるエネルギー変換の“かなめ”にあたるミトコンドリアのチトクロムc酸化酵素の立体構造をX線解析によって解明し,生体酸化研究に新時代を到来させた。またこれと前後して,酸素が水にまで還元される逐次過程を共鳴ラマン分光法などを使って明らかにし,これらを総合して呼吸によるエネルギー変換の本質である「酸素酸化に伴うプロトンの能動輸送」という好気的生命にとって最も重要かつ基本的な現象の理解に到達しつつある。
 なお,受賞式および受賞記念講演会は11月24日,慶大医学部において開催される。