医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


質的研究方法論の新たな地平を拓く

質的研究への挑戦 舟島なをみ 著

《書 評》吉田澄恵(順天堂医療短大・看護学)

質的研究の解説,研究方法の開発

 私は,質的研究に取り組みながら,広い海岸の砂浜の中から金を探すような,途方もない徒労をしているように感じることがある。もう少し確かなよい方法はないものか,いや,この方法でいいのだろうかと,手探りの積み重ねをしつつ苦悩する。研究結果を手にすることだけが目的なら,その効率の悪さといったら自分でもあきれるほどである。けれども,その途上で,「たぶん金だ」といえるものを見つけかけるたびに,それがたとえこぼれ落ちていっても,本物の「金」を手にできる日が必ずくると感じて,その作業をやめられない。
 そんな読者にとって本書の前半は,今までにない,丁寧な質的研究の解説書といってよい。誠実な学習に裏づけられた緻密な論述は,着実に質的研究を行なうための具体的な道程を示しているといってよい。
 さらに,後半には,新たな質的研究方法である「看護概念創出法」の開発という,まさに挑戦のプロセスが,具体的に公開されている。

根底に流れる理念

 こうした研究方法開発の取り組みは,これほど計画的ではなくても国際的に見れば何人もの研究者によって行なわれていると思う。しかし国内の看護学研究者によって,自らのそのプロセスを,これほど計画的に,研究デザインを明確に構想し,研究結果として公開したものは今のところないだろう。方法論開発も挑戦ならば,公開したことも1つの挑戦といっていいのかもしれない。
 著者が繰り返し述べるように,すでに確立されている質的研究方法論は,それぞれその根底に流れる理念を持っている。だから,それを理解しないまま技術的側面だけを模倣してよいものではない。そういう意味では,本書に公開された方法論も,著者らと同様の視点で,看護,人間,社会,健康などを見つめる研究者でなければ用いることはできないだろう。
 質的研究に興味を持つ看護者なら,一度じっくり読んでみてほしい本である。おそらく読者の多くは,本書によって,自分の研究活動を見つめる機会を得ることができるだろう。そして看護以外の分野や諸外国の研究の模倣に終わらない方法で,しかも,他分野の研究者にも伝えうる看護学の研究成果を発見するための挑戦を続けようと決意できるに違いない。
A5・頁256 定価(本体3,200円+税) 医学書院


介護保険導入前に時機を得た1冊

看護・介護のためのケアプランのやさしいつくり方
篠田道子 編集

《書 評》佐々木明子(埼玉県立大・看護学)

わかりやすい実用書

 2000年4月から介護保険制度が施行となる。この介護保険制度のもとでは,要介護認定の後,介護サービス計画(ケアプラン)を作成し,それに応じて各種の介護サービスの利用が始まる。この介護サービス計画(ケアプラン)は,利用者自身が作成することもできるが,多くは介護支援専門員(ケアマネジャー)が利用者と相談しながら立案することになる。この介護保険制度の施行の準備が現在各所において進められている。本書は,そのタイトルにあるように看護職および介護職にわかりやすいプランの実用書をめざしてある。アセスメントからケアプラン作成,モニタリングまで,一連のプロセスについて,ポイントをおさえてまとめられており,時機を得た本といえる。
 本書の構成は,第1章ケアプランの基礎,第2章アセスメントの基礎知識,第3章在宅の場でのADL,IADLのアセスメント,第4章精神状態のアセスメント,第5章生活環境のアセスメント,第6章尿失禁のアセスメント,第7章家族介護のアセスメント,第8章社会資源のアセスメント,第9章ケアプランの作成と評価,第10章ケアプランQ&Aから成っている。全体的には,アセスメントの項目の比重が大きい。これは,著者が述べているようにアセスメントがきちんとなされていなければ,高齢者の生活ニーズを正しく把握することは不可能であり,適切なケアプランを立案することもできない理由からである。

実践と理論が連動

 具体的に内容をみてみると,第2章「アセスメントの基礎知識」では,現在ケアプラン実施に向けて活用されている代表的なアセスメントとケアプランツールの種類と特徴が一覧表にまとめられており,わかりやすい。第3章以降第8章までのアセスメント項目については,定義,項目のとらえ方の他,在宅で適用する際の留意点が具体的に述べられていて,実際に実施する上で大いに参考になる。第5章の中の福祉機器・用具のアセスメントでは,そのイラストのリアルな描写とともに,それぞれの機器の長所,短所などが一覧表にまとまっていてわかりやすい。全体的にアセスメントの章では,読者が各アセスメント項目の原点に立ち戻り,その意味づけをおさえて,ケアプラン利用者の生活に根ざしたアセスメントを実施する必要性を,再認識する機会となる。第9章の「ケアプランの作成と評価」では,具体的なケアプランの方法が学べる。第10章「ケアプランQ&A」は,ふだんの活動の中での疑問への答えがコンパクトにまとめられ,現場ですぐに役立てられる。
 本書は,実践と理論を連動させ,常に,在宅での生活者の立場を尊重して質の高い実践を積み重ねてきた筆者の姿勢が随所に表われている。このような内容と特徴を持つ本書は,タイトルにある看護職および介護職のみならず,アセスメントからケアプラン作成にかかわるすべての職種と学生にぜひ一読をすすめたい本である。
B5・頁132 定価(本体2,000円+税) 医学書院


現在考え得る最高の著者を結集

介護保険システムのマネジメント
山崎泰彦,他 著

《書 評》岡本祐三(神戸市看護大教授)

前人未到の課題に挑む

 「介護保険」制度がいよいよ2000年からスタートする。日本独自の斬新なアイデアに基づく社会的介護システムの制度創設の最大課題の1つとして,適切かつ公正なサービスを提供するための方法論とは一体どのようなものであるべきかという,少なくともわが国では前人未到の課題があった。具体的には法律で40歳以上の市民から強制的に集めた社会保険料に税を加えた共同財源から個々人に支出することに対して,財源の拠出者たる市民の信頼を得られるような,そしてサービス利用者からは最大限の満足を得られるような仕組みの工夫であった。
 そこでわが国の介護保険の制度設計においては,このようなサービス提供の方法論の開発と,その実用性の検証に多大な努力が傾注された。これに対して医学の場合は,医療保険制度の創設時には,医学はすでに科学的かつ社会的にサービス提供の方法論として完成していたわけであり,この点が同じ社会保険という制度をとりながらも,介護保険と医療保険の最も相違するところであろう。
 またこの制度においては,牢固たる「家族介護主義」と「お世話主義」を克服して,要介護者-高齢障害者本人への「自立支援」を基本とするという方針が,その理念の中心に据えられている。それゆえに財源の安定的な確保の仕組みとともに,介護のためのサービス資源を急速に整備しつつ,しかもそれを「自立支援」と「自己決定」という価値観に沿って,計画的かつ効率的にサービス給付をする仕組みを,制度の主柱として構成する必要があった。そのような方法論の機軸をなすのがケアマネジメントである。

21世紀への壮大な国家的実験

 本書はそのような介護保険制度という,21世紀に向けての壮大な国家的実験ともいうべき,新しい社会システムの運営について,現在考え得る最高の著者を結集して集大成された,非常に水準の高い解説書である。制度の基本理念から,実際的な運用面にいたるまで,あらゆるタイプの読者の期待に応え得る内容となっている。「市民自治」という斬新なコンセプトを基本とした,国際的にみても新しくかつ精緻な方法論を構築してきたわが国の介護保険の方法論の解説として,関係者に広くおすすめしたい。
B5・頁220 定価(本体2,800円+税) 医学書院