医学界新聞

 

事例検討から学ぶ緩和ケア

第23回日本死の臨床研究会開催


 さる9月17-18日の両日,第23回日本死の臨床研究会年次大会が,形浦昭克(札幌医大),皆川智子(同)両大会長のもと,札幌市の北海道厚生年金会館,他で開催された(本紙2359号にて既報)。
 本大会では,「終末期における心の癒し」をメインテーマに,シンポジウム2題,教育講演が「終末期医療と医療経済」(京大西村周三氏)や「癒しと死」(お茶の水大波平恵美子氏)など6題の他,145題の一般演題発表,12例の事例検討が行なわれた。なお,特別講演には当初,故和田武雄氏(元札幌医大学長)の登壇が予定されていたが,本年1月に出張先のタイで急逝されたため,近藤文衛氏(市立三笠病院)が代わって,故和田氏の机上に残された講演メモをもとに,「死は孤独であり,医の癒しは難しい」を講演した。
 また,大会2日目の午後からは,一般市民公開講座として,特別講演「人生の春夏秋冬と死の受容」(作家 柳田邦男氏)およびシンポジウム「悲嘆ケア」(司会=上智大 アルフォンス・デーケン氏,他)が企画された。また,初日に行なわれたもう1題のシンポジウム「Spiritual Pain」(司会=阪大 柏木哲夫氏,他)では,研究会としては初めて,これまで「霊的痛み」「宗教的痛み」と訳されてきたスピリチュアルペインを正面からとらえ議論。スピリチュアルケアをめぐる論議とともに今後の議論のスタートとなることを予感させた。

一般病棟における緩和ケアのあり方

 研究会の恒例となった事例検討は,1事例に対して1時間をかけ,報告に続いて討議が行なわれるもの。各会場で多くの参加者を集め,熱い論議が交わされる場でもあるが,今回は12事例の検討が行なわれた。
 その中で,中村和姫氏(横浜市大浦舟病院)は「一般病棟における緩和ケアの第一歩」を発表。同病院の一般病棟に「緩和ケア」を実践しようという医師が主治医になったことから,コミュニケーションがうまく取れずにいた終末期の患者をめぐり,「看護職に意識の変化が起きてきた」と報告した。
 患者は,59歳の女性で5年前に広範囲胃切除術を施行。4年前に腹痛が出現したが,内服や外来点滴などでしのいでいた。昨年3月に,腹部症状悪化のため精査加療目的で入院。残胃癌で肝・腹腔内・骨転移と診断された。入院6か月後に死亡となったが,その間の告知,化学療法適用からのせん妄出現,抑制帯使用,骨折,外泊,精神症状悪化などをめぐり,検討されたのは(1)スタッフ間の情報共有,(2)死に不安を抱いている患者との時間のとり方,(3)意識障害の原因に対する理解と対応,(4)家族への配慮の仕方とケアの4点について。
 主治医からは,本人に薬剤依存があり,多数の薬剤を使用してコントロールを図ったことなどの補足説明がされた。その後全体的なディスカッションが行なわれたが,告知や外泊をめぐる問題,抑制帯使用での「縛り」の是非,せん妄出現時の家族の泊り込みの可能性,遺族ケアをどう考えるかなどについて熱心な討論が続いた。当該病棟における初の緩和ケア対象であり,一般病棟が抱えている問題が表出した事例であったが,今後の「一般病棟での緩和医療」に示唆を与える検討内容でもあった。
 なお,次回は本家好文(広島総合病院),鈴木正子(広島大)両会長のもと,明年11月11-12日に,広島国際会議場で開催される。