医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


病院の生き残りをかける「奥義書」

病院早わかり読本 飯田修平 編集

《書 評》佐々英達(全日本病院協会長・佐々総合病院理事長)

医療における信頼の創造

 待望の本が出版された。現在,医療界とりわけ病院は公私を問わず生き残りをかけて熾烈な競争世界に入っている。QC(品質管理)やTQM(全社的品質管理)さらにISO(国際標準化機構)といった品質改善に熱心に取り組んでいる病院が増えている。「クリティカル・パス」と呼ばれる医療の標準化を進めている病院がある。(財)日本医療機能評価機構による病院機能評価は,こうした医療の質をめぐる改善活動が時代の要請であることを示唆している。しかし,これまでこうした活動をきちんと整理し,その理論や意義を体系的に解説した本はなかった。
 4年前に,同じく飯田氏を中心に,東京都私立病院会教育人事委員会から『病院職員のための病院早わかり読本』が出版された。病院職員の手引き書として画期的な本であった。医療に経営的な観点が必要であること,医療の制度的,文化的側面が重要であることが野心的に説明されていた。この活動は本の出版にとどまらず,解説ビデオの作成や全国的規模での研修会などと積極的なものであったと聞いている。活動は今日の医療界の激変を示唆していた。したがって,その後の医療界の変化を含めて,新しい病院早わかり読本の出版が待たれていたのである。
 本書『病院早わかり読本』は,予想に反して改訂版ではなかった。第1部で「医療の仕組み」を制度に焦点を当てて解説し,第2部では「医療の質の向上をめざして」として医療の質を展開している。医療機能評価,パス法,EBMさらにQCやTQMという医療の質向上をめざす諸活動を,構造,過程,結果(成果)という流れの中に鳥瞰し,一般産業界で実施されている方針管理や「QFD」(品質機能展開)という新しい視点の必要性を説いている。こうした広い視野に立った解説書は,筆者の知る限り初めてのものである。現在の医療に関する問題が網羅され,しかもわかりやすく解説されている。重要な点はこの本が医療の現場の実践に裏づけられていることである。おそらく執筆者たちの病院ではさまざまなドラマが展開されているであろう。この本は単なる知識のための教科書ではなく,病院の生き残りをかける「奥義書」と言える。医療の質向上の諸活動の根底に「医療における信頼の創造」が据えられているが,それは単なるきれい事ではなく,病院生き残りのための基本的条件であるという認識が重要であろう。

医療の「標準」

 本書は激動の時代において医療従事者必携の本であると同時に,なによりも病院管理者たちの意識改革のための本である。また,今回あえて“病院職員のための”という文字が外されたのは,病院関係者以外の読者も対象にしているからであろう。信頼関係は医療者と患者の相互の関係であるからとしている。
 医療に関する数少ない「標準」となる内容を持った本である。医療に係わるすべての方々に推薦したい。
B5・頁132 定価(本体1,800円+税) 医学書院


心電図や不整脈に興味ある研究者の基本的教科書

QT間隔の基礎と臨床
QT interval and dispersion
 有田 眞,他 編集

《書 評》井上 博(富山医薬大教授・内科学)

QT間隔が示す意味

 心電図のQT間隔は心室の再分極過程の反映であり,心電図判読において重要な指標の1つである。日常診療の場ではQT間隔の短縮や延長の判定が重視されている。最近では,単にQT間隔が正常範囲にあるのか,あるいは延長しているのかという判読だけではなく,QT間隔の動的な変動,空間的な変動に研究者の注目が集まっている。QT間隔が心拍数の影響を受けることがBazettによって運動からの回復過程の心電図の解析から検討され,今日の心拍数による補正に用いられるBazettの補正式が提唱された(もっともBazett自身にはこのような意図はなかった)。昨今はホルター心電図によって日常生活中の心拍数とQT間隔の動的な関係が各種の病態で検討されるようになった。一方,12誘導心電図で最短と最長のQT間隔の差が心室各部の再分極過程のばらつきの指標と考えられ,さまざまな病態で検討されるようになった。これらの指標の異常は単に電気生理学上の興味ばかりではなく,心室性不整脈の発生と生命予後と関係していることも明らかになってきた。
 このたび,大分医科大学の有田教授(生理学),伊東教授(臨床検査医学),犀川助教授(第1内科)の編集になる『QT間隔の基礎と臨床』が出版された。編集者はわが国を代表する心臓電気生理学の基礎と臨床の研究者で,ことに伊東教授,犀川助教授はこれまでQT間隔に関する臨床的研究で優れた業績を挙げてこられた。執筆者は編集者の同門の方々を中心とし,その他に心室再分極過程の研究を行なっている研究者が選ばれている。本書ではまずQT間隔研究の歴史的背景に触れられた後,QT間隔およびそのばらつきの基礎が広範にまとめられている。そして大半の紙面(頁数にして全体の約2/3)が各種の病態におけるQT間隔の意義に当てられている。取り上げられている病態は,不整脈,QT延長症候群や虚血性心疾患ばかりでなく,心不全,糖尿病,小児期,摂食異常などQT間隔に影響するものが網羅されている。またサイドメモとして重要な用語の説明が各所に設けられており,初学者にとっても理解しやすい工夫がされている。

QT間隔の知識を集大成

 かつて森博愛教授によって心電図のP波のみを対象とした単行書が上梓されたが,今回はQT間隔に関した単行書ができたわけである。本書は現在までの「QT間隔」に関する知識を集大成したものであり,文献も広範に引用されている。わが国においてはこの種のトピックスは商業雑誌で特集として取り上げられることが多かった。商業雑誌では紙幅の制限,散逸の恐れ,後日の入手困難などの欠点がある。わが国においてもこのような単行書が上梓されるようになったことを喜びたい。またこのような単行書を上梓された編集者の心意気に敬意を表したい。本書を心電図や不整脈に興味を持つ研究者の基本的教科書として推薦する次第である。
B5・頁160 定価(本体4,700円+税) 医学書院


日常診療に新鮮な内科診断学の戦略を持ち込む手段

症例による内科診断ストラテジー 飯田喜俊 編集

《書 評》長澤俊彦(杏林大学長・内科学)

Q&A形式で内科診断を考える1冊

 このたび飯田喜俊先生編集の『症例による内科診断ストラテジー』を読む機会に恵まれた。総論があって,全身症候13項目と臓器別症候36項目をとりあげ,それぞれの項で症例を提示してQ&A形式によって内科疾患の診断を考える500頁からなる書物である。この本の最も大きな特長は,淀川キリスト教病院の臨床経験豊かな先生方がそれぞれの専門分野を分担執筆されていることである。恐らくこの本が日の目をみるまでに,飯田先生の下で横の連絡を密にして,随分と討論を積み重ねられたであろうことが本の随所から読み取れる。1つの施設でなければなし得ないことである。
 編集の飯田先生は水電解質代謝を中心とした臨床腎臓学の権威で,専門書をたくさん書いておられる私の日頃尊敬する先生である。この先生が内科診断学の本を編集しようと思いたたれたのは,最近のともすると検査一辺倒の内科診断のあり方に大きな疑問を持たれたためであろう。先生も私もまだCTも超音波検査も導入されていない時代に内科診断学を学んだ世代である。患者さんからよく話を聞き,身体所見をていねいにとり,そしてじっくりと診断を考えることが基本であった。この本を読むと,先生の内科診断に対する哲学がにじみ出ているような気がする。そのような意味で,この本はサッと斜め読みして知識を増やす類いの本ではなく,じっくりと考えながらていねいに読む本である。上級の医学生や研修医が個人で読んでもよいし,グループで輪読を重ねてもよい。丹念に読んでいくうちに,いつの間にか内科疾患診断の手法が身についているであろう。随所に画像所見を中心に,診断に有用な新しい検査所見,鑑別診断の表などが掲載されているのは,読者に親切な試みである。文献もわれわれが容易に入手できる権威あるものが各項目ごとに3,4編記載されてあるのも当を得ている。
 本書は必ずしも医学生や研修医のみを対象にした本ではない。第一線の臨床の先生方が,現代の内科臨床とはこのようなものかと,日常臨床の場に新鮮な内科診断学の戦略を持ち込む手段として利用されるのに適している書物でもある。
B5・頁512 定価(本体9,200円+税) MEDSi


新知見,新体系を組み込んだ産婦人科学テキストの改訂版

標準産科婦人科学 第2版 望月眞人 監修/桑原慶紀,丸尾猛 編集

《書 評》平原史樹(横浜市大教授・産婦人科学)

 このたび,医学書院より『標準産科婦人科学』(望月眞人監修,桑原慶紀,丸尾猛編集)が大幅に改訂され,第2版として刊行の運びとなった。

最新の情報を交え読み応えある内容に

 もとより多くの医学生,研修医をはじめ産科学,婦人科学の基礎を学ぶ者に本書は好評であったが,日々飛躍的な進歩をとげる産婦人科学の中にあって,初版より5年を経て今回はさらに随所に新知見,新体系が組み込まれた小気味のよいテキストブックとなっている。
 医学教育の原点は,謙虚な姿勢を忘れずに,目の前の患者さんからていねいに,じっくりと学ばせていただくものであることは言うまでもないが,昨今の情報展開の早さ,めまぐるしさ,複雑さはより顕著になってきている。要所要所で必須の情報,基礎知識を整理整頓して次々と先に進まねばならない。これは医学を現在まさに学んでいる卒前の学生のみならず,臨床医として活動するわれわれもまた同じである。とにかく情報の代謝回転は,高回転型となって私たちを取り巻いている。今回の改訂では,執筆陣に最近新たに就任した新進気鋭の教授陣が多数加わり,情報の発信媒体とすべく斬新な視点から,それぞれの専門領域でのup to dateな情報を交え,大幅に改訂された内容となっている。したがって,すでに初期研修を修了し,専門医の道へと進んだ医師にとっても大変読みごたえのある内容となっている。

加齢医学や人工生殖補助医療技術に関する記述も

 第1版と大きく異なる点は,従来のほとんどの教科書,成書ではならわしとなっている,解剖,生理,疾患病態(炎症,形態異常,腫瘍等)を各項別に分けて記述するスタイルからぬけだし,各臓器を各々の単元として独立させ,その単元のなかで,正常な生理状態での構造,機能をまず学び,その上で各種の病態を理解するよう配慮されたところにある。これで,従来の分類による教科書に比し,さらにすっきりとした形で学べるという利点が備わった。また,最近とみに関心の高まっている子宮内膜症,中高年の健康問題,心身症,更年期障害などについては,さらに新たな視点から学べるよう配慮されている。アルツハイマー病に関する記載も加わった点などからも,加齢医学も産婦人科学の一領域であるとの編者・著者の主張が伝わってくる。一方,この5年間にことのほか進歩した領域である人工生殖補助医療技術に関する記載は,なかなか新鮮である。
 産科学の領域でもこれらのコンセプトは随所にみられ,まず正常妊娠,分娩の生理を理解し,その後に異常な病態を学べるよう構成されている。
 多くの賢才諸兄の大変なご努力により上梓された本書改訂第2版は,女性生殖器官の生理学・病態学,女性の成育学,さらには加齢医学の研鑽にはきわめて好適な書であり,医学部学生,研修医,さらには産婦人科学の最新基礎知識を今一度整理してキープしておきたい方々にも絶好の好著である。
B5・頁564 定価(本体7,600円+税) 医学書院


痴呆症への最良のグローバルスタンダード

痴呆症のすべてに答える
H.ケイトン,他 著/朝田隆 監訳/(社)呆け老人をかかえる会 協力

《書 評》佐藤純一(石岡第一病院長)

 昨今,一般医の日常診療の場でも,直接的・間接的に痴呆症とかかわりを持たねばならない場面が増えています。
 不眠と血圧上昇を訴える女性。話を聴いてみると在宅で痴呆症の義母を抱え,親戚や近所への気遣いと意思疎通のとれない義母の介護とで心身ともに疲れ切っていることがわかりました。
 高血圧症でかかりつけの男性。診察中は特にその言動には大きな変化はありませんでしたが,ある日妻が来院し,最近怒りっぽくなったようだとのことで,本人を説得し専門機関を紹介したところ「アルツハイマー病」の診断を受け,数年後には明らかな痴呆状態となり施設入所を余儀なくされました――こうしたケースはこれからも多くなっていくことでしょう。

痴呆に関する質問に正確かつ最適に答える

 そういう状況下にあって,「痴呆症って治りますか」「徘徊で困っているんですが」「何か薬はありませんか」「家の者はどう対応したらいいんですか」「家では見られません。入院させてください」「痴呆症って遺伝するんですか」「最近物忘れが激しいんですが,これってボケの始まりですか」――などなど痴呆に関する質問を外来でよくされるようになってきました。こうした問いに正確かつ最適に答えるために役立つQ&A集が,この『痴呆症のすべてに答える』です。
 もともとはイギリスのノリー・グラハム医師ら,国際アルツハイマー協会の主要メンバーが,アルツハイマー病に悩む本人・家族からのあらゆる質問に答えた“Alzheimer's at your fingertips”という本が原著です。ですから答えも質問者の立場に立って,「お気持ちはよくわかります」「たいへんお悩みであろうとお察しいたします」(本書よりの表現)などと,まず質問者の気持ちを受け止めてから正確な事実を伝えるというスタイルで一貫されています。これは痴呆症に限らず参考にすべきことでしょう。
 その日本語版として,本書は,原著の直訳だけではなく,わが国の現状を踏まえて介護保険や成人後見人制度を書き下ろし,痴呆症の臨床や具体的な対応法など,よく受ける質問を252項目のQ&Aにまとめあげてあります。さらに,臨床治見や新しい治療法などの話題,痴呆症理解のための最新情報に触れ,弁護士やソーシャルワーカーからのコメント,「呆け老人をかかえる家族の会」での電話相談事例などを大小48のコラムにまとめています。臨床一般医にとっても,看護・介護職にとってもたいへんわかりやすく読め,しかも実際に痴呆症患者を抱える家族に対して適切なアドバイスが送れるように工夫された良書です。巻末に全国の相談機関一覧が掲載されており,これも何かの時に心強い限りでしょう。

痴呆症の具体的で切実な問題にどう対応するか

 現段階では痴呆症には特効薬的な治療はありません。そういう意味では「なってしまった後の日常介護」に重きを置かざるを得ません。日常介護においても,洗顔や入浴を拒否する,同じことを何度も繰り返し尋ねる,自分の家を忘れてしまう,といった具体的で切実な問題にどう対応すればよいか,車の運転やセックスの問題,介護者へのケア,経済面でのアドバイスなども充実しています。
 帯にもある通り,本書は現時点における痴呆症理解,およびその介護,対応への最良のグローバルスタンダードと言えるでしょう。
 痴呆症にかかわる可能性のあるすべての人たち,臨床一般医,看護・介護職,そしてもちろん家族の方々にもぜひ読んでいただきたい1冊です。
A5・頁252 定価(本体2,500円+税) 医学書院