医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


産科外来診療において的確な指針を与えてくれるテキスト

New Epoch 産科外来診療 岡井崇 編集

《書 評》岡村州博(東北大助教授・産婦人科学)

 このたび,愛育病院岡井崇先生の編集による『New Epoch 産科外来診療』が医学書院から上梓され読む機会を得た。少産の現代においては,現実の診療対象となる母子のみならず,それらをとりまく家族,社会に対しても将来を見据えた最良の医療をいかに提供できるかが産婦人科医の課題であり,ハード,ソフト面からのアプローチが産婦人科診療に焦眉の問題である。

外来での多種多様なニーズに対応

 産科外来診療においては岡井先生も序で述べておられるように,旧来の妊娠中毒症の早期発見を主とした診療体系とは異なり,胎児も医療の対象となってきているなど,診療の対象が多岐にわたってきており,妊婦のニーズはまさに多種多様である。このような現状をふまえて,妊婦のニーズにこたえるのが産科医の役目であるが,現実には外来にて即座に適正な対応手段が浮かんでくる自信がある臨床医は少ないのではないかと思っている。その意味で,手元にあって,的確な指針を与えてくれる『New Epoch 産科外来診療』は,誠に当を得た内容である。新進気鋭の執筆者によるエッセンスを凝縮した内容が,読む者にとって必要十分であり,本自体の体裁も,手元に置き疑問を気軽に確かめられる肩の凝らない印象である。
 11の大項目はまず「21世紀の産科外来」という近未来のシステム論から始まり,次に妊娠初期・中期・後期という時間経過にともなう縦糸と,それに引き続き各疾病に関する対応が横糸として,この書をバランスのよい構成の書としており,また編集者がこの書にかける意欲もうかがわれる。産科外来では妊婦と向かい合い,会話の中で患者の疑問に答えていくわけであるが,この書では妊娠週数にともなう必須の事項が最初にあり,必要であれば後半の疾病に関して確認するという,実際多くの患者を診療している医師にとっては大変ありがたい内容となっている。これは岡井先生ご自身の体験から出た構成であろうと拝察する。

実地臨床家の疑問に答える

 個々の内容を詳述はできないが,各項目の執筆者は多くの妊婦と接している方々であることがわかる記述が随所に出てくる。すなわち,実地臨床家におかれても日頃診療手段などに疑問に思われていることが,この書を参照することにより氷解することが多いのではないかと思われる。
 個人的にも,多くの実地医家の方々が,この書を常に産科外来の机上に置き,日常診療の技術向上に役立てていただきたいものと考えている。
B5・頁280 定価(本体7,200円+税) 医学書院


日常的な心電図情報であるQT間隔から何が見えるか

QT間隔の基礎と臨床
QT interval and dispersion
 有田眞,伊東盛夫,犀川哲典 編集

《書 評》橋場邦武(長崎大名誉教授)

 QT間隔は,重篤な心室不整脈の発生機序,薬剤の抗不整脈・催不整脈作用などとの関連で重要視されてきたが,最近,再び新しい脚光を浴びつつあるのは,QT間隔の生理的背景である心筋イオン電流およびイオンチャネル構造の解明や,イオンチャネル遺伝子変異の同定による臨床不整脈の病態生理の解明などが,特に急速に進展しつつあることなどによると思われる。さらに,本書の副題にもあげられているQT dispersion,すなわち,12誘導幅のQT間隔の最大値と最小値の差として簡単に計測されるQT間隔の「ばらつき」が,種々の臨床的意義を有するとの成績が相次いで報告され,QT間隔の新しい臨床的分野として強い関心が寄せられている。

QT間隔の現況を学問的にかつ理解しやすく解説

 本書は,大分医科大学の有田,伊東,犀川の3学者の,適任の編集者によって,QT間隔に関する基礎から臨床までの最新の問題の現況を,学問的にかつ理解しやすく解説したもので,約150頁で読みやすく,その内容も非常に魅力的である。
 まず基礎的には,心室筋の再分極過程に関与するイオン電流の種類と機能,各チャネルの構造と機能,特にKチャネルの多様性などの最新の知見が,特にQT間隔との関連で詳細に解説されており(有田),臨床家が敬遠しかねない基礎生理分野の最近の知識を興味深く整理・理解することができて,非常に有用である。
 臨床分野の各章においても,このような基礎的な観点を含めて,特に,不整脈,虚血性心疾患,心不全,QT延長症候群,小児科領域の問題,自律神経との関係,糖尿病,摂食異常症,その他の項目について述べられているが,QT間隔およびそのばらつきが,疾患の予後や病態の解釈にも有用と考えられる研究結果が,数多くの新しい文献により興味深く紹介されている。

これからの研究者への優れた手引き書

 一方,心臓死や急死などの予測因子としての意義については,陰性あるいは否定的な成績や見解も十分に紹介され,特に「ばらつき」の臨床的意義については,今後の実証の積み重ねに期待する慎重な見解も多くの章で述べられており,これは本書の信頼性を高めるのみではなく,今後の研究者への優れた手引きにもなると思われる。
 基本的な問題としての,QT間隔の計測法,QT間隔のばらつきの測定法についても,問題点の考察が述べられている。また,主題の1つである臨床12誘導間のQT間隔のばらつきと,心室の局所解剖的ばらつきや貫壁性ばらつきなどとの対応については,電気生理学的,心電図学的な理論的解明がなお十分ではないと思われるが,本書においても,Coumelらのベクトル的観点からの肢誘導についての疑問も紹介されており(犀川),今後は胸部誘導についても立体角的誘導の観点からの検討も望まれるように思う。
 ともあれ,QT間隔およびその「ばらつき」の今日的重要性について,本書は興味深くまた読みやすく,基礎・臨床の両面から,現状と今後の方向も理解させてくれる。QT間隔はきわめて日常的な心電図情報であり,循環器専門医はもちろん,循環器に関心を有するすべての臨床医に広く推薦をしたい。
B5・頁160 定価(本体4,700円+税) 医学書院


臨床現場で精神科医がどのように機能していくのか

MGH総合病院精神医学マニュアル
ネッド D. カセム 著/黒澤尚,保坂隆 監訳

《書 評》黒川 清(東海大医学部長)

米国のバイブル的テキストの翻訳

 本書はMassachusetts General Hospital Handbook of General Hospital Psychiatry(第4版,1997年)の全訳である。マサチューセッツ総合病院(MGH)に勤務する精神科医らによるコンサルテーション・リエゾン精神医学の教科書であり,マニュアルである。監訳者らは1988年にこの分野におけるわが国で唯一の学術団体である日本総合病院精神医学会を設立した。学会設立から10年経過した今,米国でのバイブル的な本書が日本総合病院精神医学会員らを中心として邦訳されたことは意義深い。
 第4版で臓器移植や臨死患者など特に倫理的配慮が必要なテーマに頁が割かれる一方,臓器不全や身体治療薬との関係での向精神薬療法などが詳述されている。DRGやマネージド・ケアとの絡みで精神疾患・身体疾患合併症への対応(medical psychiatry)が論じられている点は,日本での包括的医療費や在院日数の短縮化などへの対策に役立ちうる。しかし,日本の医療費や「医学教育のカリキュラムの改革」に当たっての問題は,大学病院を含めほぼ全員の「勤務医」「大学教員」が,一応は「終身雇用」で「フルタイム勤務」であるところにもある(これは何も大学や病院に限ったことではないが……)。MGHをはじめ,米国の大学教員は大学病院という「場」と「ファカルティ」というタイトルをもって自分の給料を自分で稼がなければならない。この誤解が,今の日本での「米国では……」の議論と理解に欠けているように思える。
 また,日本人は性格的に「うつ」になりやすいという意見があるが1-3),今のような社会と経済の情勢では,特に多くの「うつ」状態の患者がいるであろう。臨床医が「うつ」を見逃す危険もあり,また「うつ」状態の早期発見と対策は社会資本からも重要な問題である4)ため,こういう視点からもこの翻訳が多くの臨床現場で広く参考にされ,利用されることを期待し,推薦したい。
 本書は,臨床の現場で,これから精神科の医師がどのように機能していくのかを考える上でも役立つ。ぜひ,すべてのエクスパートが日常的に交流し,競合的に切磋する活発な診療現場での「他の臨床領域からの精神医学への期待」を受け止めていただけるように期待したい。
〔文献〕
1)Yet another Asian value. The Economist, August1, p. 28. 1998
2)An international survey 'International Comparisons: Values, Expectations, and Quality of Life' in the “Canada and the World” by Angus Reid Group, Canada〈www.angusreid.com〉
3)芝伸太郎:日本人という欝病,人文書院,1999
4)A spirit of the age. The Economist, December19, p. 113-117. 1998
A5変・頁624 定価(本体9,700円+税) MEDSi


消化管静脈瘤を扱う医師に常備すべきバイブル

静脈瘤治療のための門脈血行アトラス
高瀬靖広 監修/國分茂博,他 編集

《書 評》熊谷義也(クマガイサテライトクリニック)

 第25回日本消化器内視鏡学会関東地方会[昭和53(1978)年12月10日]において,高瀬靖広先生が日本で初めて,食道静脈瘤の硬化療法の臨床経験を発表された。私は座長をしていて大変な衝撃を受けた。当時私と幕内博康先生(現東海大教授)は慶應がんセンター内視鏡室において,硬化療法について種々の文献を読んでいた。スコットランドのベルファストからEOを大量輸入して動物実験を始めようとしていた。臨床例では,慶大外科の都築俊治教授が行なった,食道離断術後の細い再発静脈瘤に対して,当時痔核の注射療法として行なわれていたパオスクレーを用いたpara-vasal注入法を始めていた。高瀬先生の方法は徹底的に検討され,計算し尽くされた,実に完成度の高いものであったので,その時のショックは忘れられないものとなった。

アトラスの枠を超えた美しい写真で視覚的な理解をうながす

 その後も高瀬グループは堅実に成長を積み上げた。その数々ある輝ける業績の1つに食道静脈瘤造影研究会があり,そのメンバー,國分茂博,小原勝敏,渋谷進,近森文夫,松谷正一,村島直哉各先生らが集まってこの本を編集したために,大変実践的な内容となった。単なるアトラスの枠を超えた,造影という手段で得られた美しい写真が豊富で,視覚的にも理解しやすい。門脈側副血行路が食道静脈瘤にかかわるもの,孤立性胃静脈瘤に関係するもの,および食道胃静脈瘤以外のものに分けられており,実際の治療に直結して理解しやすい。食道静脈瘤硬化療法(EIS)の際に造影して得られるEVIS所見と,孤立性の胃静脈瘤に対する逆行性静脈的栓塞術(B-RTO)の際に造影で得られるBRTV像のいずれもが治療と結びついて得られた所見であるところが貴重である。
 またそれだけではなく,経皮経門脈造影(PTP)や経動脈的門脈造影(AP)と経脾門脈造影法(SPG)についても,その手技や特徴などにいたるまで触れて,それらの長所,短所,合併症が語られている。
 一方では,これまでに記述されてきた門脈血行動態,全身循環亢進状態や局所循環亢進状態についても触れており,局所循環亢進状態からみた胃食道静脈瘤の成因についてなどにも言及がある。

深まる門脈血行動態の重要性

 食道静脈瘤硬化療法以後は,新しい治療法として,EVL,B-RTO,TIPSが登場し,検査法としてもカラードプラ,MR-angiographyや3次元CTなどによる新しい画像診断による情報量も増えつつあり,患者1人ひとりの異なった固有の門脈血行動態についての検討はますます必要性を増すであろう。そうした意味でも,本書の切り拓いた基礎の重要性は日に日に増大すると思われる。
 本書は,胃食道静脈瘤およびすべての消化管静脈瘤を扱う医師にとっての座右(内視鏡室に,レントゲン室に,図書室に,またそのそれぞれに1冊ずつ)に常備すべきバイブルとなろう。
B5・頁164 定価(本体13,000円+税) 医学書院


検査に役立つあらゆる情報をコンパクトに配置した1冊

臨床検査データブック 1999-2000 高久史麿 監修

《書 評》櫻林郁之介(自治医大大宮医療センター教授・総合医学)

 『臨床検査データブック』は1997年に初版が発行されたが,今回第2版が出た。これから2年に1回改訂されることを意味しているということであるが,本書がなぜ評判がよいかというと,本書は総論,検査各論,疾患と検査の3部からなり,それぞれに役立つ情報がコンパクトに配置されているからではないだろうか。総論は総論に終わっておらず,データの読み方の基本,初期診療時の基本的検査および各病態ブロックごとの検査計画法などが書かれている。検査各論では,700を超える検査項目が収載されているが,その項目ごとに基準値,測定法,検体量,検査日数はもちろん,Decision Level,異常値の出るメカニズムと臨床的意義,判読,採取保存(条件)などが手短かに要領よく記載されている。疾患と検査で280あまりの疾患がジャンルごとに並べられて,病態,異常値,診断・経過観察上のポイントがこれまた誠に要領よくまとめられており,忙しい診療中などでも役立つよう工夫されている。

異常値の考え方と診断・経過観察上のポイント

 監修の高久史麿氏が序で述べておられるように,本書の類書にない特徴は,異常値の出るメカニズムと臨床的意義や診断・経過観察上のポイントがかなり詳しく述べられている点であろう。これはなかなかできるものではなく,検査や疾患について深い知識と経験がないと書けない事項であり,EBM(Evidence-Based Medicine)が叫ばれている医学領域にあって,本書の価値がますます高まる所以である。
 また,付録にある「日本人小児の臨床検査基準値」,「医薬品添付文書情報 臨床検査値への影響およびその索引」も今まで類書で扱わなかったものであり,索引も和文と数字・欧文に分けられているのもうれしい。サイズもハンディであり,また耐久性を考慮した柔らかな表紙を採用しているのは,本書がどこでも使用し得ることを考えてのことであろう。このように随所に見られる工夫が読者のニーズに応える形で具現されていて,きわめて実用的な臨床検査の本となっている。

無駄な検査を省く検査計画の進め方

 本書の第2版である「1999-2000年版」の序で編者の代表として黒川清氏が述べておられるように,今回の改訂のポイントはいくつかあるが,無駄な検査を省くことを主眼として,必要な検査の選択,効率のよい検査の進め方など,適切な検査計画のモデルを示すために,「検査計画の進め方」を設けたとある。これが将来のDRG/PPSにも対応できる最良の近道ではなかろうか。必読の書としてお勧めしたい。
B6・頁612 定価(本体4,600円+税) 医学書院