医学界新聞

 

《座談会》

中高年女性の健康支援-更年期を中心に
「第9回国際閉経学会」「第14回日本更年期医学会」への招待

前原澄子氏
三重県立看護大学長
第14回日本更年期医学会会長
麻生武志氏
東京医科歯科大学教授・産婦人科
第9回国際閉経学会会長
三井政子氏
岐阜医療技術短期大学
専攻科教授
たけながかずこ氏
マザーリング研究所代表


前原 現在,更年期医療が大きく注目され始め,各領域において学問的研究や実践が行なわれるようになってきました。「更年期にある生活者としての女性」のQOLを高める援助を行なうには,ある領域だけの専門家が関わることでは解決するはずもありません。そのような折りに,まもなく麻生先生が会長になられ「第9回国際閉経学会」が日本で開催されます。この学会でも中高年女性のQOLに直結する課題を取り上げ,文化や専門領域を超えたアプローチのために,コメディカルが参加しやすいプログラムが組まれております。そこで最初に,麻生先生からこの学会のめざすところや意義についてご紹介いただけますか。

「国際閉経学会」への誘い

麻生 今回は「日本更年期医学会」との共催で,アジアで初めての開催になります。この学会の参加者は,第1回が150人でしたが,年々徐々に増加し,3年前にシドニーで開催された第8回大会では4300人にものぼっています。こうした参加者の増加は,学会がクロスカルチュアルな面と学際的要素を持つものですから,ある意味では当然のこととも言えます。
 中高年女性の身体的な問題だけでなく,精神・心理的な側面,そして生活習慣やQOLに関わるすべての領域を網羅する内容を今回の学会でも取り入れています。また,中高年男性の課題も取り入れ,広い意味から今後の高齢社会についての視座も検討していこうと思っています。
 特に,今回の準備にあたっては,社会・文化面を重視し,医療を受けた女性にどのような将来の生活が約束されるかといった,20世紀に培った文化,伝統に根ざす知恵を洗い出し,次の世紀につなげようと心がけました。
前原 今回のプログラムを見ますと,医療の領域よりも心理面,文化面についての基調講演やシンポジウムが多くありますね。
麻生 そのとおりです。そして,もう1つの特徴がジェンダーの平等と言いますか,従来は男性が独占しがちだった講師や座長などに必ず女性が入っています。
前原 国際閉経学会の前日に開催される「第14回日本更年期医学会学術集会」では,麻生先生のお薦めで,看護職である私が会長を務めさせていただきます。
 国際閉経学会と同様に,この学術集会でも文化・社会面を活かしたプログラムを組んでおります。この領域は,特にリプロダクティブ・ヘルスが叫ばれる現在,看護職にとって無視できないものだと思われます。ぜひ,学会を通して今後の実践につながる何かを得ていただければと願っております。

助産婦・看護婦の実践は

前原 三井先生は,更年期医学会のニュースレターに助産婦さんたちが更年期医療にどう関わっておられるかを紹介されています。そうした助産婦さんたちの活動についてお話しいただけますでしょうか。
三井 私は岐阜県内で助産学研究会を発足させました。助産婦は女性の生涯に関わる専門職ですから,研究会としても当然のこととして,思春期から更年期の女性たちも対象にした活動に取り組みました。
 研究会では,まず最初に女性たちがどのような健康上の問題を抱えているかを知るために実態調査を行ないました。その調査では,女性である自分の性に非常に満足感を感じて過ごしている更年期女性は健康だという認識を持って生活しているという結果が出ました。また,出産を3-4度と経験した方に失禁が有意に多くありました。いわゆる更年期の健康では,40代後半から確実にこれまでの生活によって差が出ていました。こうした結果から,私たち助産婦は,お産の時から更年期を見据えた指導をしていかないといけないと思います。
 現在は毎月第2・第4土曜日に相談室を開催しています。相談を通して言えることは,体の変化を自覚した際に,「この変化は正常なのか異常なのかを,誰かに相談したい」,「自分のことを聞いてほしい」ということです。ですから,助産婦はやはりプライマリな段階で健康相談をしなければいけないと実感しております。
前原 たけなが先生とは,厚生省の心身障害研究班でご一緒させていただきました。その中で先生は,福岡県で更年期女性を対象に素晴らしいフォーラムを開催された経験をお持ちです。経験豊富な先生からみた更年期医療のあり方について,ご意見をお聞かせください。
たけなが 厚生省の班研究では,三井先生もご指摘なさいましたが,自分の変化が正常なのか異常なのか確認したいという女性たちのニーズが浮かび上がってきました。それを受けて,クリニックなどだけでなく,保健所や保健センターでも相談や語らいの場がたくさんできるようにもなりました。
 わたし自身もトークサロンのようなことを実践していますが,そうした経験から次のテーマが見えてきたかなと思います。つまり,更年期ということはわかったし,体の不調の理由もわかった。しかし自分にとっての生き甲斐みたいなものが見出せない限りどうにもならない,といったことです。
前原 看護職も,心理・社会的な側面から援助できるようにならないといけないということですね。特に,更年期は身体的な変調期というだけではなく,人生の転換期とも言われる時期ですから,専門家の関わりもそうした面も考慮してなされないといけないですね。
たけなが カウンセリング等は看護職が担っていけるジャンルだと思いますし,地域の保健所や開業助産婦さんが実際に手がけておられます。しかし,その次の段階,生き甲斐をもって自分自身の人生を生きていくための援助は誰がするのかなと思うんですね。わたし自身は,自分のことをソーシャルナースだと考えていて,そういう立場から更年期の女性たちの生き甲斐探しをお手伝いできればと思っています。
 具体的には,5年近く前からマザーリング研究所として国立小児病院にシッティング・ボランティアを派遣しています。当初の目的は若い世代に,早くから子どもたちに触れる機会を提供するものでしたが,そこで気づかされたのは熟年の女性たちが子どもを抱いたり可愛がったりすることで,自分自身が非常に癒されることでした。
 そうした気づきがあった頃に,前原先生の論文で「母性継承期」というタームを見まして,ああこれだと納得しました。更年期を迎えた女性たちの,あり余る経験豊かな母性を満たす機会があるといいのではないかと思いました。それで響くものがあって,NICUの赤ちゃんを抱っこする熟年女性向けのボランティアを考えました。
 それを実現するには,やはり専門家が要にならないといけませんが,4人目を出産し休業に入っていた助産婦さんが引き受けてくださいました。経験豊かな母性愛が発露する場を作ったわけですが,とてもいい結果が出ているように思います。
前原 電話や面接での相談では,正常か異常かが知りたいということがまずありましたが,どういう治療を受けたらいいのかといった具体的な相談などもございますか。
三井 ホルモン補充療法をどうしようといったものより,この症状がいつまで続くかとか,日々の過ごし方に関する相談が多いかなと思います。電話の個別相談からも「皆さんで一緒になって話してみましょう」といった,触れあいの場の必要性を感じています。相談の中で非常に効果があり,とても簡単なことに「ご主人と話し合ってみたら」ということがあります。夫や家族に,今の苦しみを理解してもらえないという人が,そのことを家族と話し合っていないのですね。
 相談を通してわかってきたことなのですが,単に体の変調という問題を取り上げるだけではなくて,更年期という節目をクリアした人と,現在その最中にある人が,ご自分たちの生活そのものを振り返ったり,話し合ったりする契機になる話題を提供していく「場作り」も,私たちの役割ではないかと思っています。

専門職の育成は

前原 昨年の「更年期医学会」のシンポジウムで麻生先生とご一緒に座長を務めさせていただきました。その時に,更年期のセルフヘルプ・グループの方から,更年期医療の現状に対するご要望として「とにかく聞いてほしい」というものがございました。
 日常の多忙な診療時間では,医師もなかなかそうした要望に応えられない状況があるかと思います。そうしたお話を十分に聞くことも含め,ともに関わる看護職への期待などについていかがですか。
麻生 現在の更年期医療の現場では,まさにそこが最も切実な問題です。三井先生もおっしゃっていますが,「誰か聞いてくれる人がほしい」というのが女性たちの最大のニーズです。しかし,それを聞いてくれる人は必ずしも医師である必要はないし,医師が「さあ,話してください」と言ったところで話せるものでもないでしょう。
前原 中高年の女性たちが抱える悩みの中にはプライバシーに関係していることがとても多いと思います。それが解消されないことには,投薬や生活改善と言っても,全体的な解決にはならないでしょうね。そうしたことを受けとめられるのは必ずしも医師でなくてもいいですよね。
麻生 専門性を持った看護職や,助産婦職はまさにその専門家ですよね。そういう問題を共有できる専門職がいて,プライマリな部分を把握してくれるといいなと思います。私の病院では2人の管理栄養士が有償ボランティアとして毎日交替でそうした役割を担ってくれています。
 彼女たちは,予診の段階で自分の専門分野のデータ収集も兼ね,身体計測や体力測定などを行ないつつ,約30分ほどかけてお話を聞いています。そうすることで,その場である程度の問題も把握できますし,何よりも医学的な問診に入る前に患者さんがリラックスでき,医師との関係も作りやすくなっています。
 ですから,助産婦さんたちも,もちろん周産期は重要ですが,それと同じように大事な専門分野として中高年の女性たちに医師と協力しつつ関われるようになってほしいと思います。看護職や助産婦職のこの分野への人材育成をすることで,患者さんたちも満足できるようになると思います。
前原 更年期医療に携われる看護職のスペシャリストの養成が早急に必要でしょうね。
麻生 更年期医学会としても,ワークショップやセミナーを開催し,多くの方に最新の研究成果を発表していただいたり,実践体験を分かち合う機会を作るようにしています。この領域は新しいこともあって,現場の方が看護上の悩みを持ち寄り,お互いに交換し合うことは重要です。また,そうした悩みを共有する場の体験は患者さんにも適応できると思います。
三井 私は助産婦教育の中に更年期教育も入れています。ホルモン補充療法を受けたり,骨粗鬆症で受診している方を学生が受け持つのです。生活歴や受診に至った経緯,そして現在の経過などを聞きながら,少なくとも3回以上その方の受診に付き添い,レポートにまとめさせ,その報告をもとにディスカッションしています。学生たちが更年期の健康問題を考えるよい機会になっています。また,今年から私どもでは,「地域の助産業務管理」ということを始めました。ある小学校区をフィールドにして,その地域の女性たちの健康をトータルにみていくような教育を計画しています。更年期になってから健康を考えるのではなく,若い頃からの健康生活設計・健康教育について学ぶようにしています。
 麻生先生がおっしゃったように,プライマリの段階で,そして若い時期から女性としてどう生きるのかといったことをともに考え,ずっと継続して関わっていくための教育は重要だと思います。

ともに生き甲斐を持てるように

前原 更年期の女性たちがボランティアで赤ちゃんを抱っこすることで生き甲斐を持ち,生き生きしてくるというたけなが先生のお話を興味深く聞かせていただきました。私は,更年期の女性たちの母性としての役割を果たす時期を「母性継承期」と名づけています。学校教育の場で養護教諭たちが子どもの頃からの健康が生涯に影響することを指導することも重要ですが,家庭教育と言いますか,母親が子どもに行なう健康教育はより大切なことだと思います。
 更年期に入った母親が自分の子どもに「更年期ってこういうことだよ」と伝え,「思春期である今からこういうことはしておこうね」と身近なところから教育することが必要ですね。ですから,更年期の女性たちに関わる専門家は,単に更年期の対象者としてだけその方をみるのではなくて,その方もまた次の世代に伝えていく役割があることを認識してサポートする必要があると思います。
たけなが 更年期の女性たちの中には,一時的に自分自身の価値を低くみる傾向がありますよね。周囲のまなざしも,なんとなく「もう何をやってもだめなんだから」と,特に日本では中高年の女性に対して厳しい社会の目があります。
 私は,今最も必要なことは中高年の女性たちの価値を認めることだと思います。「子育ての経験を通して培った者だからこそパワーがあるんだよ」「癒しの力を持っているんだよ」といった意識づけは,誰よりも看護職ができると思います。医療・保健・教育といったものの境界線上に位置する看護職だからこその説得力があるんですね。
前原 生き甲斐ということが出ましたが,生き甲斐を持たせるための方策,ストラテジーがあると思います。今後こういうことをやってみたいというご企画はございますか。
たけなが 看護職もこれからは社会に問題を投げかけ,ムーブメントを起こしていくという役割もあると思います。そうしたこともまた看護の領域だということを,まず私たち看護職の中で認め合うことが必要ではないかと思っています。
 そうした意味から,これからやっていきたいということに,医療者と対等に和やかにコミュニケーションがとれる市民を育てることがあります。例えば,先ほど申しましたNICUでの赤ちゃん抱っこのボランティアにしても,病院スタッフの教育と同時に,市民も教育しないと実現できないですね。そうした,ボランティア活動などを通して,病院という社会的な福利施設と市民とが関わる中から,新しい医療システムを考えていくことをやってみたいと思っています。
麻生 お話を聞いていて思うのですが,自分が関わった患者さんが生き甲斐を感じるようになるなら,ケアする看護婦さんたちも非常に生き甲斐を感じられるんじゃないでしょうか。逆に,ケアする者が生き甲斐を感じられないと,生き甲斐になっていくような情報も発信できないし,感じてももらえないと思います。
三井 助産職は本当に生き甲斐,やり甲斐を強く感じて働いており,その仕事ぶりを対象者は評価してくださいますが,社会はいまひとつ評価が足らないということがあるかと思います。そういう意味では,自身のやり甲斐だけではなく,政策に結びつけたり,システムになっていかないと難しいのかなと思います。
前原 麻生先生は更年期医学会の理事長として,そこに関わる看護職の生き甲斐をどう思っていらっしゃいますか。
麻生 看護職に対して,更年期の女性たちをケアすることに生き甲斐を持ってほしいと切実に思っているんです。
 なんとなく,更年期医療という領域は看護職にとってやり甲斐のないものなのかなと思ったりするものですから,教育的なコースを設けたり,今回のように前原先生に学会長になっていただいたりして,看護職が興味を持てるようにする工夫はしているのですが,学会のコメディカル会員が増えないのが現実です。
 しかし,全国各地で毎年6回ほど3日間連続の更年期のセミナーを開催しますが,これにはたくさん参加者があります。非常に熱心な方が多く,学ぼうとする熱意が伝わってきます。そこが不思議なところで,あれだけ熱心に勉強しているのに,なぜそれがアクティブな貢献につながらないのかわかりません。どうしてなんでしょうか。
三井 助産婦は今,更年期医療にも関心が高く,勉強会を始めたりしていますし,また女性の健康を自分たちがやらないで誰がやるのかと燃えています。ですから麻生先生がなさっていることの結果は,必ずや2年,3年後には表面化してきますよ。女性の性と生殖にどう対応していくのかという問題意識を持った助産婦が活動しつつありますから,3年後には更年期に対する活力は出てくると思います。期待してください。

将来は「更年期学会」に?

前原 ところで,学会員が増えないのは「更年期医学会」という名称だからではないですか。「医学会」となると,どうしてもコメディカルには垣根みたいなものがありますから。これが「更年期学会」でしたら状況は違ったと思いますよ。
三井 「医学」となると,医師の領域だと思うし,看護職や助産婦職からすると他の学問領域だと思いますね。
麻生 この学会は以前は「更年期研究会」でしたが,それを「更年期医学会」に変更したのですね。その時に「医学会」にすべきか「更年期学会」にすべきか,ずいぶん議論しました。学会としては他の領域の方々が入ってくるのは歓迎なんですが,まだ歩き始めたばかりで研究成果も少ないこともあって,やはりしばらくは医学がリードし,ある程度実力がついた段階で「医学」を外そうとなったんですね。看護関係に限らず,栄養とかいろいろな領域からも「医学会」だと関心が少なくなるのではないかと言われています。いずれ,活動内容も含め,学会の名称も考え直さないといけないのかも知れません。
前原 医学に限定して研究する必要のある分野もあると思いますよ。例えば「HRT研究会」のように,その分野で研鑽していくのは大いに結構なことですが,更年期とか中高年の女性の健康をトータルに捉えるとなると,名称変更はしてほしいですね。
麻生 それに,従来は治療という意味からも医師が引っ張ってきた経緯はありますが,いまでは更年期医療が医師だけではできないことが十分にわかってきていますからね。矛先を変えるようで恐縮なんですけど,前原先生は更年期医学会の理事をしておられますので,ぜひ今のようなことを学会でも発言してください。
前原 今回は学会長もやらせていただくわけですからよいチャンスですので,この機を逃がさないで発言していきたいと思います。コメディカルに期待されるというか,看護の力が必要だということが認められつつあるのですから,私たちももっと力をつけていく必要性を痛感いたします。やはり,この領域のスペシャリストを育成していくことと同時に,看護職だからできることをどんどん開拓していきたいと思います。
たけなが 私は更年期のジャンルにすごく期待することがあります。更年期と言われる女性たちはパワーもあり,知的レベルも高いですから,インフォームドコンセントをきっちり要求することもできます。そういう女性たちの声に医療が真剣に取り組むことによって,医療の現場というか,日本の医療文化が変わるんじゃないかと思っています。だから,私自身は看護職としても更年期に関われることに非常に興味を持っているのですね。
前原 そろそろ時間もなくなりましたので,このあたりで終わらせていただきます。
 そして,最後に,ぜひとも多くの方が,最初にご紹介いたしました2つの学会にご参加くださることを願っております。

●この座談会は,雑誌『助産婦雑誌』(医学書院発行)に掲載されたものを,医学界新聞編集室で再構成したものです。全文は同誌第53巻8号をご覧ください。
〔週刊医学界新聞編集室〕