医学界新聞

 

FRG(Function Related Group)
機能に基づいた患者分類の手法

里宇明元(埼玉県総合リハビリテーションセンター・リハビリテーション部副部長)


DRGからFRGへ

 医療をめぐる経済環境が厳しさを増す中で,限られた資源を効率的に利用しながら質の高い医療を提供しようとする機運が高まっている。米国などいくつかの国では,患者を医療資源の必要度に応じて分類する診断群別分類(Diagnosis Related Group : DRG)が開発され,医療のマネージメントおよび支払いシステムの構築に活用されてきた(診断群別包括払い制度:DRG/Prospective Payment System : DRG/PPS:図1)。
 しかしながら,病名のみで患者の機能が考慮されないDRGでは,リハビリテーション(以下リハ)対象者の医療資源消費の程度を的確にとらえることはできない。そのために米国のリハ関連施設の多くは最近までDRG/PPSから免除され,Tax Equity and Fiscal Responsibility Act(TEFRA)に基づく支払いを受けてきた。
 一方でTEFRAには,(1)支払い上限を基礎年度の退院1件あたりの費用に基づき設定するため,費用の上昇に追いつかない,(2)機能レベルを考慮していないため,費用のかからない軽症例を入院させようとする動機づけが働く,などの欠点が指摘されてきた1)
 このような背景の中で,診断名だけでなく機能も考慮した患者分類の必要性が認識され,リハ医療の質の保証およびリハに適した支払いシステムの構築を目的にFRG(Function Related Group)が開発された2)。FRGにはいくつかの種類があるが,本稿では米国で現在最も普及しているStinemanら2-4)のFIM-FRGを紹介する。

図1 DRG/PPSの仕組み
疾病分類
■医療資源投入量の大小により,
 ・主病名
 ・従病名
 ・手術の有無
 ・年齢,などから分類
■25カテゴリー,492のDRG
 (メディケアの場合)
包括化範囲
■入院医療のランニングコスト
 ・人件費
 ・薬剤
 ・検査
 ・食事
 ・医療材料など
■医師の技術料は別
■資本関連費用(減価償却費など)は段階的に包括化
支払い額決定方法
■入院1件あたりの支払い額
 ・DRG係数(各DRGの医療資源の相対的必要度)
 ・連邦償還価格
 ・地域賃金係数
の3要素で決定
■DRG係数,連邦償還価格は毎年連邦議会で改定

FRGとは何か

開発の経緯

 FIM-FRGとは,機能評価の共通尺度として確立しているFIM(Functional Independence Measure:機能的自立度評価法)(表1)を用いて,必要とされる在院日数に応じて患者を分類するシステムである2)。開発の元になったサンプルは,米国125のリハ関連施設からUniform Data System for Medical Rehabilitation(UDSMR)と呼ばれる統一データベースに登録された5万3667名中,データ不備,16歳以下,再入院,非定型例などを除いた3万6980名である。医療資源消費の指標には,総入院費用との相関が知られている在院日数を用い,患者分類の変数には,臨床的な簡便さから年齢,診断名,入院時FIMが用いられた。対象群を脳卒中,外傷性脳損傷,脊髄損傷など18の障害群に分け,各群でClassification and Regression Trees(CART)(表2)という分類・予測のための統計手法を用いて,同等の在院日数を持つサブグループ(FRG)に分類した。
 解析の結果,18の障害群は53のFRGに分類され,診断名だけでは在院日数の変動の14.8%しか説明できなかったのに対し,FRGでは32.9%が説明可能であった。

使用法

 脳卒中を例にFIM-FRGの使い方を図2に示す3)。まず,入院時のFIM運動得点,認知得点および年齢から分岐図に従って9つのFRGに分類する。次にそれぞれのFRGに対応する在院日数を読み取り,必要な在院日数の目安を得る。さらに各FRGごとの退院時FIMおよび地域への退院率から,機能レベルの改善度と退院先の見通しを得る。

FRGの意義

 診断名だけのDRGより,機能を加味したFRGのほうがリハ患者の在院日数をよく説明し,リハ用の支払いシステム構築に有用なことが示されたが,より重要な意義は,FIM-FRGをリハ医療の質の評価や質の改善の手段として活用しうることにある4)。つまり,各FRGごとのFIM利得(退院時FIM-入院時FIM)と在院日数をモニターすることにより,ケアの質の評価が可能となる(表3)。例えば,同一FRGにおいて,FIM利得の低下と在院日数の減少が観察された場合,コスト抑制の圧力がリハの質を低下させた可能性が示唆される。一方,FIM利得が同等で在院日数が減少した場合には,リハサービスの効率の向上がうかがわれる。また,FIM利得が期待値より大きな患者群があれば,その受けている治療内容の分析により,サービスを向上させるためのヒントが得られる可能性がある。さらに,FIM-FRGは臨床的に均質な患者群を分類する手法であるため,リハ患者用のクリティカルパスを作成する上でも役立ちうる。

今後の課題

 米国ではマネジド・ケアの時代となり,今後FRGがどのように利用されるかは定かではないが,回復期リハにおける患者分類の指標として用いられる可能性がある。日本ではFRGをリハ医療の標準化,質の評価の道具ととらえ,わが国に合ったシステムを構築していくことが先決と思われる。

〔引用・参考文献〕
1)Chan L et al: The effect of Medicare's payment system for rehabilitation hospitals on length of stay, charges, and total payments. N Engl J Med; 337: 978-85, 1997
2)Stineman MG et al: A case-mix classification system for medical rehabilitation. Medical Care 32; 366-379, 1994
3)Stineman MG et al: Development of FRGs version 2.0: a classifiction system for medical rehabilitation. Health Services Research 32: 529-548, 1997
4)Stineman MG et al: Functional gain and length of stay for major rehabilitation impairment categories. Am J Phys Med Rehabil 75: 68-78, 1996


表1 FIM(Functional Independence Measure)
■米国で開発された介護度(burden of care)の尺度
■しているADLを測定
■Uniform Data System for Medical Rehabilitation(UDSMR)の一環
■全18項目(運動項目13,認知項目5)
  運動項目 ・セルフケア:食事,整容,清拭,更衣・上半身,更衣・下半身,トイレ動作
・排泄コントロール:排尿,排便
・移乗:ベッド・椅子・車椅子,トイレ,浴槽・シャワー
・移動:歩行・車椅子,階段
  認知項目 ・コミュニケーション:理解,表出
・社会的認知:社会的交流,問題解決,記憶
■評価スケール:7段階
  7点:完全自立
  6点:修正自立(時間がかかる,補助具が必要,安全性の配慮)
  5点:監視・準備(監視,指示,促し,準備)
  4点:最小介助(75%以上自分で行なう)
  3点:中等度介助(50%以上,75%未満を自分で行なう)
  2点:最大介助(25%以上,50%未満を自分で行なう)
  1点:全介助(25%未満しか自分で行なわない)
■総得点:18-126点(運動項目13-91点,認知項目5-35点)
■信頼性,妥当性が多くの研究により確認
■Rasch分析により間隔尺度として扱うことも可能
■日本を含め国際的に普及


表2 CART
(Classification and Regression Trees)
■順序尺度も扱えるノンパラメトリックな分類・予測のための統計手法
■自動化されたソフトウエアを用いて,以下の順序で分類
 1)ある帰結(在院日数など)を分ける最良の分岐方法を見出すために予測因子のすべての可能性のある分岐を系統的に分析
 2)この過程をすべての残った予測因子について繰り返す
 3)帰結を最もよく分ける予測因子を選択
 4)分類樹の大きさと交差妥当性の検討における誤差の間のバランスを取りながら,可能な限り分類樹を小さくしていく


表3 各FRGごとのFIM利得と在院日数
(Stineman4)より引用,改変)
障害群FRG運動FIM利得*
(中央値)
在院日数
(中央値)
下肢骨折OR1-1
OR1-2
OR1-3
24
20
13
21
17
14
脊髄損傷SCT-1
SCT-2
SCT-3
SCT-4
SCT-5
12
32
36
30
17
90
64
43
30
20
脳卒中STR-1
STR-2
STR-3
STR-4
STR-5
26
25
20
22
14
37
29
30
22
15
*運動FIM利得=退院時運動FIM得点-入院時運動FIM得点。入院中の日常生活動作の改善度を表わす
ORI-1,SCT-1,STR-1などは,各障害群におけるサブグループを表わす