医学界新聞

 

日本と韓国の看護国際交流について

金川克子(東京大学大学院医学系研究科教授:健康科学・看護学専攻/地域看護学)


 さまざまな領域で国際化が進んでいますが,看護界においても国際交流が活発に行なわれるようになってきました。
 東京大学(以下,東大)では,世界の多くの大学や研究所等と大学間協定や部局間協定を締結し,国際的な学術研究の交流を図ってきていますが,隣国でもある韓国のソウル大学校(以下,ソウル大)とは,1990年8月から大学間協定を締結しています。この度,看護学の領域でも,東大大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻とソウル大看護大学(看護学部に相当する)が,部局間での国際学術交流を進めることになりました。
 主な交流の内容は,学術に関する文献および情報の交換をはじめ,教官や学生の相互交流,共同研究活動・カンファレンス等の実施です。

東大とソウル大

 東大大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻は,東大での大学院重点化により,大学院を基盤とした組織になりましたが,看護学分野での学部教育,大学院教育を長年行なってきています。
 東大の組織に関する詳細な説明は本稿の主旨からはそれるので割愛しますが,東大における看護学教育は,国立大学ではじめて1953年から行なわれるようになり,当初は「衛生看護学科」の名称で発足しています。その後,保健学科を経て,1992年からは健康科学・看護学科(大学院は健康科学・看護学専攻)の名称となり今日に至っています。
 一方のソウル大看護大学は,1907年3月から大韓病院附属助産婦や看護婦の養成をはじめ,その後,時代の変化とともにいろいろと変遷を重ね,1959年には4年制学士課程のソウル大医科大学看護学科を設置しています。また,修士課程は1964年からはじまり,博士課程は1984年からスタートさせ,1992年には看護学科から看護大学へと発展しました。
 現在は,学士課程282名,修士課程62名,博士課程30名が在籍しており,教授14名,副・助教授4名が看護教育・研究に従事しています。
 看護学の領域は,成人看護,小児看護,母性看護,精神看護,老人看護,地域看護,看護管理から成り立っています。

看護交流への途

 両校間での看護交流に至った経緯ですが,これまでにも当健康科学・看護学専攻に,数名のソウル大看護大学の卒業生が研究生や大学院学生として留学してきており,今年3月には博士課程と修士課程において1人ずつが卒業しました。両名とも地域看護学を専攻したのですが,優秀な留学生であり,専門領域にとらわれずに研究を重ねる一方で,両国間の国際交流の役割も果たしていました。
 ところで,韓国の看護界のリーダーたちは,これまではアメリカの大学や大学院で学ぶことが多かったそうですが,最近は日本にも目を向けてきました。筆者は,1997年12月に開かれた韓国看護アカデミー主催による国際看護カンファレンス(International Nursing Conference)に講演の招待を受けたのですが,それを契機に韓国における看護学の研究活動や国際交流の実情に触れ,その意気込みの大きさを感じ取りました。
 また,ソウル大看護大学からも,優秀な人材が日本の看護の状況を把握するために来日されたり,逆に筆者も含めて,健康科学看護学専攻の教官が韓国を訪れることが何度かあり,両校の看護教官の学術的交流が徐々に行なわれるようになりました。

日韓交流セミナーの開催

 こういった経緯を経て,1998年11月にソウル大看護大学の学長(Jung-Ho Park先生)と筆者で,両校間の交流の必要性を確認し合いました。その結果として,お互いがもっとそれぞれの大学を理解しようとの趣旨で,本年3月1日に,東大において,ソウル大看護大学の教官と当健康科学・看護学専攻の教官が参加し,「看護系大学・大学院の教育・研究について」を主テーマとしたセミナーを開催し,学術交流を行ないました。
 セミナーでは,Jung-Ho Park先生より「韓国の看護系大学・大学院での教育・研究の歴史的推移と現状について」,副大学長のSung-Aue Park先生からは「ソウル大看護大学での看護教育と研究の現状」を紹介いただきました。
 また,東大側からは日本の「看護系大学・大学院の教育・研究の実情」や「東大における学士課程,大学院課程の看護教育・研究」の紹介等をし,その後に意見の交換を行ないました。
 このセミナーを基盤として,本年9月16日には,ソウル大看護大学において,両校の看護学領域の教官陣による本格的なセミナーを開催しました。なお本セミナーでは,3月に開かれたセミナーのテーマ内容に加え,各々の専門領域についてお互いの研究成果を出し合い,情報交換を図ることを主目的としました。
 今後,この交流セミナーをどのように発展させていくかについては,これからさらに検討していく必要があるでしょうが,日本と韓国が,各々の文化背景による違いをお互いが理解し,教育面ばかりではなく,看護におけるさまざまな面での国際交流ができるようになればと願っている次第です。