医学界新聞

 

質が問われる時代の看護学教育をテーマに

第9回日本看護学教育学会開催


 さる8月7-8日の両日,第9回日本看護学教育学会が,寺崎明美会長(慈恵医大)のもと,「質が問われる時代の看護学教育」をメインテーマに,東京の国立教育会館で開催された。
 本学会では,会長講演「考え,感じる心を培う看護基礎教育」(寺崎明美氏)をはじめ,招聘講演「英国における看護と看護教育」(英・シェフィールド大 Betty Kershaw氏),シンポジウム「ケアの質を保証する看護基礎教育」(座長=日赤看護大 筒井真優美氏,千葉大 舟島なをみ氏),交流セッション I「看護基礎教育における最近の課題と展望-大学編入学に関する話題を中心に」,II「主体性を育むことへの模索-学習者に焦点を当てた学習プロジェクト」が企画された他,基調講演「21世紀における社会環境の変化と看護学教育の課題」(兵庫県立看護大 南裕子氏)およびフォーカスディスカッション「若者たちと対人関係ストレス」が行なわれた。なお,両日にわたり発表された演題は130題にのぼった。


臨床看護の場において学生は

 シンポジウムは,「看護者,教育者である前に1人の人間としてのあり方を見直し,学生にどのように関わるかを考えた上で,学生がどのように患者に関わればよいかを教育する必要がある。ケアの質を保証するための教育を,参加者とともに討議したい」との趣旨で開催。ケアを受ける立場から向井承子氏(ノンフィクション作家),臨床の立場から村島さい子氏(湘南鎌倉総合病院),教育の立場からは安酸史子氏(岡山県立大)と池川清子氏(日赤看護大)が,それぞれの立場からの意見を述べた。
 最初に登壇した向井氏は,「病気を抱えて苦しんでいる病人と,治療の対象となった患者であることは違う。患者は追いつめられ,主張できない立場であることを医療者は認識してほしい」と述べる一方,医療者は患者を「技を磨くためのモノ」として見ているのではないかと辛口の発言。また,「看護学生に『患者の前で泣いてはいけない』と教えているようだが,教育者はまず人のために泣ける人を育ててほしい,技術はその後でついてくるもの」と語った。
 村島氏は,新人看護職の特徴として,(1)複数の患者のニーズに対応できない,(2)病院の時間の流れにのれない,(3)マニュアルに不慣れ,(4)不安,自信がないなどをあげ,そこに共通する基礎教育と現実とのギャップを解説。その上で,実習教育への期待として,「実習指導者の確保や教育的な環境の整備,積極的に看護チームに入れて主体性を引き出し,専門的な知識や技術だけでなく社会性を培う教育体制」を示した。

これからの看護基礎教育のあり方

 一方,安酸氏は「行動主義モデルではヒューマンケアリングを教えることはできない」とし,これまで本学会が柱としてきた「行動主義モデル型の教育指導」に対し,新たな視点から発言。患者,学生,教員間の関係を解説するとともに,「子どもの教育を援助する技術学習ではなく,経験を学習資源として活用すべきである」とし,教師の価値観を初学者に教える“指導型実習教育”と経験の意味づけによる看護観を形成させる“経験型実習教育”の相違点や問題点,課題をあげ,学習支援型の実習教育である,「経験型実習教育」を提唱した。
 また池川氏は,(1)看護学の性格(位置)づけ,(2)看護教育の方法の問題,(3)ケア能力を高める教育とは,の視点から基礎教育を検討。特に(2)については安酸氏同様「行動科学モデルから実践学モデルへの転換が必要」と指摘。「実践は看護にとっての根源」と述べ,これまでの理論と実践との価値の上下関係を逆転する必要性を論じ,「実践学の教育には教師自身のケア能力が問われる」としながら,「実践が先,という概念をどう言語化するのかが課題」と述べた。